少女と邂逅
とりあえず、危機は去ったとみていいだろうがここは割と森の奥深くであり早々に退避した方がいいはずだ。
少女へ振り返り声をかける。
「ここは危ない。一旦森を出るけど動けるかい?」
少女は声は出さず頷いた。
少女の同意も取れた所で早めに森を出る。
周囲を警戒しつつ少女を森の外へ誘導していく。
幸いにもモンスターと鉢合わせする事なく森の入り口までこれた。
念の為、森の入り口からも離れて一息ついた。
「ふぅ、ここまで来れば安心かな」
そう言いつつ、改めて少女を見る。
髪は銀髪、背は自分と変わらないくらい歳も同じくらいかな?
気になるのは瞳が赤いことと耳が尖っていて少し長いことだ。
噂に聞くエルフかな?見たことないけど。
あと多分見たこと無いって時点でうちの領民ではない。
少女は森を抜けて安堵しつつ俺に多少の警戒心を向けてくる。
命の恩人とはいえ、正しい判断だろう。
向こうからすれば助けてもらったとはいえ、森で出会った赤の他人だ。
そして、手錠に加え首輪を付けている少女は見るからに訳アリだ、警戒して当然だろう。
しかし、助けてしまったからにはある程度面倒を見る義務はある。
「とりあえず、自己紹介をしよう。俺はここミシェル王国のスカーレット領であり領主であるベイル・ファイ・スカーレットの息子でフェイル・ドミネ・スカーレットという。君の名を聞いても?」
「私はアイリス、グランザム帝国で奴隷商から逃げてきた、見ての通り奴隷よ」
グランザム帝国…ミシェル王国の隣国でありスカーレット領西に位置し同じ大森林を北に持つお隣さんでもある。
ただ帝国は周辺国から良くない噂が多い。
奴隷制度はこの世界には普通に存在している。
ただ奴隷にも基本的に人権は存在していて、借金奴隷、犯罪奴隷、特殊奴隷と種類がある。
借金奴隷はそのまま借金を返済しきれなくて奴隷となった者、犯罪奴隷は犯罪を犯して奴隷となった者、特殊奴隷は主に犯罪に巻き込まれて奴隷となった者たちなどである。
ミシェル王国は奴隷制度はあるものの人権がしっかり守られているが帝国はどうも違うようでその扱いはとても酷いと聞いたことがある。
大方、このアイリスも奴隷の待遇に耐えかねて逃げたした一人なのであろう。
「そうか、どうやって逃げてきたの?」
逃げ方によっては追っ手がくるかもしれない為確認しておきたかった。
「移動中に大森林から出てきた魔物に馬車が襲われてみんなバラバラになって、夢中になって逃げたの。そしたらあの狼に襲われてまた逃げて、それでもうダメって思ったらあなたが現れたの」
なるほど、それなら追っ手が来るとしてもすぐには来ないだろう。
ただ問題がないこともない。
それは奴隷紋だ。
奴隷紋とは奴隷契約を通じ魂に刻まれる印でただの印ではない。
そしてこの奴隷契約とは魔法と違い効果時間や効果範囲に制限はなく、干渉出来るのは契約者の奴隷商人もしくは所有者のみとなっている。
そのため奴隷紋は元となる契約内容に応じて、強制的に契約内容が執行され場合によっては所有者が死んだ時などに解放されたり共に死ぬ事もある。
奴隷が逃げ出さないために、大抵は所有者と一定距離離れすぎると奴隷紋による苦痛や拘束がかかり最悪の場合死に至る事もある。
アイリスの状態を見るに死相は見えないため、奴隷商は死んでいないもしくは今の状態で死ぬような契約内容ではなさそうだ。
契約内容が分からない為、今後どうなるか分からないので早急に確認しておきたいところだ。
「奴隷って言ったね、契約内容は分かるかい?」
「分からない、売られてきたから」
まぁ、やっぱりそうだよな。
帝国とは友好国ではないため、アイリスの奴隷商を探すのは難しいだろう。
そうなると、奴隷紋が問題になってくる。
どうしたもんかな。
奴隷紋をどうにか制御できれば…
制御…
魔物と戦った時を思い出した。
あの時は魔物の纏っている魔力を支配のスキルで干渉し俺の制御下において、魔力を掻き乱した。
あれ?魔力制御と似たような感じで奴隷紋も支配のスキルで干渉出来ないか?
早速試してみる。
アイリスの首元にある奴隷紋に手を当て支配スキルを行使する。
すごい強力な反発を受けている。
上手くいかない。
くそっ、この感じできないって訳じゃなさそうだ。
熟練度の問題か?そうなるとすぐには解決出来ない。
支配ってスキルのくせに全然支配出来てないじゃないか。
悔しい気持ちに苛まれながらも考える。
そんな時ふと父の言葉を思い出した。
「諦めるのか?」