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一悶着

どうしてこうなった。

気付いたら第一王女マリナと一緒の馬車で王都へ向かうことになっていた。


「私の護衛は減ってしまったの。だから王都までエスコート(護衛)してくださいな」

笑顔で言っているが圧が怖い。


確かに襲撃により元々いた20人程いた第一王女様の護衛は今や僅か3人しか残っていないのだ。

王都まで普通の馬車でもまだ10日はかかるであろう距離だ。

護衛を増やすのは当然である。

なので、うちのパイソンさんを貸し出そうかと思ったが、笑顔で断られた上にエスコート(護衛)を要求されたのだ。

(やりたくないから、パイソンさんにお願いしようと思ったのに…)


第一王女から正式に要求されたのだ、状況的にも断ることは出来ないだろう。

仕方なく同行する事にした訳だったのだが、ここから一悶着あった。


じゃあ、今日はこの辺りで休んで明日から移動しようとなったのだが、このお嬢さんはとんでも無いことを言い出した

なんと第一王女が俺と一緒の部屋で休むと言い出したのだ。

「護衛なんだから近くに居ないと意味無いでしょ」

言ってることは正しいが自分の立場を理解しているのだろうか?

俺は頭を抱えた。

護衛は慌てふためき第一王女を宥めにかかった。


だったら今いる護衛を室内に駐在させればいいじゃないか、とは思ったが

「現状、あなたより強い護衛は居ないわ。だったらあなたに一緒に居てもらうのが一番安全でしょう?」

正論ではある。

「未婚の男女しかも第一王女様と同衾は流石にマズいので隣に部屋を取るのでそれで我慢してもらえないですかね」

「いやよ、独りは怖いの」

そういう彼女は両手で肩を抱え顔を青くさせている。


王女という立場もあるため気丈に振る舞ってはいるが、所詮は年端もいかない少女だ。

襲われる恐怖というのは残っているのだろう。


出来ることなら、近くに居てあげたい気持ちはあるが立場上、それは出来ない。

「未婚だから駄目って言うなら、私あなたと婚約するわ!そうすればあなたは近くに居て私を守ってくれるでしょう?」

またとんでも無いこと言い出した。


護衛が現実を受け止めきれずに気絶した。

それもそうであろう。

護衛が襲撃を受け保護対象を失いかけただけでなく、いくら貴族の息子を名乗っているとはいえ、身元確認をしっかりしてない以上、言ってしまえば現状どこぞの者とも知れない子供と婚約するなんて言い出したのだ。

こんな状態で王城に帰った日には国王よりどんな罰を受けるか分からない。


ただでさえ、襲撃を受け護衛が減り神経をすり減らしていたとこにこれだ。

護衛の精神は限界を超えて気絶してしまったのだ。


しかし、そんな可哀想な護衛には目もくれず俺に同衾をしろ、婚約しろと迫ってくる彼女。

まるで地獄絵図のようだった。


幸い、うちには頼りになる使用人が最近入った。

そうアイリスだ。

どうにかこうにか説得をしアイリスに同室に居てもらい、俺は隣の部屋を取ることで事なきを得た。

護衛にはとても感謝されたが、平穏を求める俺に王女と婚約なんてとんでもない。

アイリスは専属メイドだが、奴隷ということで説得に時間がかかるだろうと思われたが、意外にもすんなり受け入れてくれた。


ようやく事態が収拾し取り直した部屋へ向かい布団へ飛び込んだ。

肉体的にも精神的にも疲れていた俺は布団に埋もれすぐに意識を手放したのであった。


数時間後。

部屋の鍵がカチャリと開く。

「そろそろ大丈夫だと思いますよ」

「ホントに?起きたりしない?」

「大丈夫です。フェイ様は一度寝たら、ちょっとやそっとじゃ起きたりしません」

「そうなの。あら寝顔はとても可愛いのね」

「そうなんです!普段はベイル辺境伯様のご子息様として気を張っていらっしゃいますが、寝ている時はとても可愛いんです」

「ホントにいいの?」

「王女様の望まれるようにされるのがよいかと」

「そう。あなたはいいの?」

「私はフェイル様のメイドとしてお仕えさせて頂ける事が幸せなのです(それにたまに潜り込んだりしてますので…ゴニョゴニョ)」

「何か言ったかしら?」

「いえ!何も言ってません。では私は部屋に戻って休みますので」

「えぇ、おやすみなさい。これからもよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」


深夜、宿宿屋の一室でそんなやり取りが行われていたことなど俺は知るよしもなかったのである。


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