決着
もう一人の襲撃者が吹き飛ばされた。
その時にうっすらとだが、魔力の揺らぎが見えた。
すかさず、魔力支配で周囲の魔力を支配し乱していく。
すると、それは正体を現した。
深緑色の闘牛のようだ。
あれは父の書斎の図鑑で見たことある。
カメレオンホルスターだ。
印象で言うなら、カメレオンのように擬態能力のある牛である。
魔力を纏い周囲に溶け込む、その擬態能力は透明化といっても過言ではない練度である。
そして、行動はどちらかというと獲物目掛けて突進する様は、闘牛というより猪のようだ。
移動速度と擬態能力に加えパワーもある為、図鑑にはCランクだがBランクに匹敵するだろうと書いてあった。
当時の俺は、擬態能力なんて男のロマンじゃないか!会ってみたいなんて思ったりしたものだ。
だが実際に出会うと、こいつは相当にタチが悪い。
正直、止まっていれば擬態による魔力の揺らぎで、居場所が特定出来るが、あの速度で動き回られたら、目で追うのは難しい。
高ランク冒険者でも対策を取らなければ、為す術なく吹き飛ばされるだろう。
(見えている今しかない)
今の魔力支配の練度では止まっている間ぐらいでしか姿を捉えるのは難しい。
あの速度でまた動き回られたら、間違いなく見失う。
動きは止められない。
かといって、受け止められるような勢いでは無かった。
ならば、足元を狙うしかない。
周囲の地面を土魔法と魔力支配で不規則にでこぼこにしていく。
そうすれば、大抵の四足歩行の獣は前足をつまづき転がる。
そこをすかさず、首を取りに行く。
思惑通りいったが勢いがよく想像より遠くに転がっていった。
だが問題はない。
首を取り問題なく討伐を終える。
念の為、襲撃者二人も確認するが気絶したままである。
早めに武器を取り上げ縛り上げる。
そうして、やっと一息つける。
(何か忘れているような…)
思い出す。
(護衛はどこいった?)
街道の両脇にそれぞれ散ったはずだが気配が無い。
その時また魔力の揺らぎが見えた。
俺は失念していた。
カメレオンホルスターが一頭しかないと。
魔物は一匹でいることのが少ない。
大抵、親子など数匹で群れている。
そして、もう一つ思い出す。
カメレオンホルスターの成体は平均2m程と図鑑には書いてあったと。
今しがた俺が倒したのは1m程だった。
つまり、倒したのは子供。
親が別にいるということ。
親はどこにいたのか?
簡単だ。
親はそれぞれ街道脇の護衛と襲撃者を襲撃していたのだ。
襲撃者が襲撃されるとはこれいかに。
なんてふざけている場合ではない。
街道の両サイドに魔力の揺らぎが見えるということ。
それはカメレオンホルスターに挟まれているということ。
(これはヤバい)
2mもの巨体にあの勢いで挟まれたら、子供ですらあの威力なのだ。
間違いなく死ぬだろう。
しかし逃げ場が無い。
子供をやられた事に、気付いて相当お怒りのようだ。
ブルルッと鳴き声が聞こえる。
(どうする?)
もう時間がない。
防げない、避けられない、隠れられな…
次の瞬間、街道に大きな衝突音が響き渡る…




