99 シャザールの街 2
宿は街の大通りにあった。歩いている途中でひときわ大きいホテルと言って良いような宿もあったがフェルトはそこをスルーしていく。
着いたのはそこそこの大きさだが、建物もやや古びた感じの宿だった。
「ここが良いの?」
「ここが良い」
そのフェルトの自信満々な様子に俺達は苦笑いしながら宿に入っていく。宿の中は思いの外綺麗にされており古さが逆に良い趣を感じさせていた。
「本当に良いのですか?」
「うん。全然問題ないから」
「ありがとうございます」
一人部屋と二人部屋で別のフロアになるかと思ったが、同じフロアでしかも向かい合いの部屋を取れたので連絡は問題なさそうだ。
俺達は一度部屋で荷物等を置くと、一階にある食堂に集まる。
その際にフェルトも一緒に食事をしようと誘う。
「俺も呼ばれて良かったのか?」
「もう少し一緒に旅をするんだし、気にしないで」
「ああ。遠慮せずいただくぜ」
グランパも旅の中でフェルトを気に入ったようだ。さすが王国の諜報機関モーガンの一員だ。取り入るのもうまい。
宿の飯もフェルトの言う通りなかなかだ。宿泊客じゃない街の人もこの食堂に食べに来てるのを見ると、街の中でも評判は上々なのだろうと予想できる。
「やっぱり明日は聖堂にでも行くのか?」
馬車はこの街で二泊する。馬を休ませるというのもあると思うが、旅の途中でせっかくの聖地でゆっくり聖堂に行きたいという客が多いというのもあるのだろう。
当然俺達もここに二泊するため、明日は一日開くことになる。
「知り合いが居るからな。顔を出してみようと思う」
グランパの知り合い? それは初耳だな。当然俺も行くつもりだったがグランパはあまり信心深い感じじゃ無いからどうするか聞こうと思ってんだ。
それなら三人で行く感じになるのか。
「ほう、聖堂に知り合い? なるほどプロスパーの創業者だ。じゃあラドも行くのか?」
「一応そのつもりだよ。次いつ来れるのか分からないし。フェルトさんは?」
「俺はたぶん宿で一日のんびりしてると思うな」
「そうなんだ」
俺が言うとティリーが意外そうに聞いてくる。
「フェルトさんは行かないのですか?」
「ん? そうだな。何度も聖堂には行ってるしな。特に考えて無かったが……」
「そうなんですね……」
……ん? おいおい、ティリー少し寂しそうな顔をしたか?
確かにフェルトはイケメンだし。女性への気づかいも出来る男……だが。許さんぞ。
俺はジロリとティリーを見ながら訊ねる。
「ティリー。どうした?」
「いえ。聖地に来て聖堂に行かないのが不思議だったので……」
「だって全員が熱心な信者って訳でも無いだろ?」
「わかってます。ラドクリフ様も一度も自分から教会へ行ったことが無いですが、それでも聖堂に行くじゃ無いですか?」
「ああ、それはまあ。古い歴史ある建物って見てみたいだろ?」
「え? そういう物なんですか?」
「うーん。まあ……。見てみたいかな? でもフェルトみたいに何度も護衛でこの街に来てればまあ、いいかな?って感じになるとは思うよ」
「そう、なんですね」
うーん。そっちなのか?
ティリーはティリーで、俺が歴史的建造物を見たいという学術的探究心に関して全く理解が出来ないという反応だ。
旅行文化があまりないということは、そもそもの観光的な文化も無いということか。
実際ティリーはちゃんといつも胸に「オルビス」のペンダントを下げてるしな。
「オルビス」とはキリスト教で言うロザリオみたいなものだ。
十字架の形のロザリオと違い、オルビスは三重の円で、真ん中が大地、その周りが人間、そしてその周りが神、を表している。銀のプレートに丸が三つあるだけの簡素な物だが、この国の多くの住人がそのプレートを首から下げている。
つまり敬虔な信者とも言える。
俺達が聖堂へ行くと話すと、フェルトは簡単に聖堂の場所などを教えてくれる。
「ただ、早朝は早朝礼拝があるはずだからな。礼拝に興味が無いなら混雑する早朝は避けても良いかもな」
「ああ、でもティリーは礼拝に行きたいだろ?」
「えっと……。いえ、私は早朝じゃなくても大丈夫です。時間はいつでも……」
俺もグランパも熱心な信者とかじゃないからな。
気を使ってくれてるんだろうけど、まあ混雑時間を避けるならそれで良いかもしれないな。
……。
……。
翌朝食事を終えると、昼くらいまでティリーと魔法の練習をするとグランパに伝え街の近くを流れる河原の方へ向かう。
さすがに街中で魔法の練習は危険だからな。
そこで再度ティリーの属性を確認していくのだが、やはり変わらず反応が芳しくない。
「うーん。やっぱり特化型ってやつなのかな」
「限られた属性しか使えないというのですか?」
「そうそう、例えば今までは生活魔法なら少し使えたわけじゃん? だから火種を少し出すとかなら何とか出来ているけど、たぶん本来のティリーの魔力の放出量を考えれば火種で済まないレベルになると思うんだよな」
「やっぱり私には魔法使いの素養は無いんじゃないですか?」
「そんなことは無いと思うよ。リュミエラだって聖魔法に特化してるから、他の魔法は攻撃としては使えないしね」
「リュミエラ様と比べられても……」
「まあ、ほら。聖魔法は使えないんだからさ」
とはいえ、そういった特殊魔法の詠唱なんて俺には分からない。レア属性だとしたら書物を調べてみるしか無いのかもしれないが、あいにく旅の途中だ。
どこか大きい街とかに付いたらワンチャン本屋を探せるのだが……。
ていうか俺は転生者だぜ?
詠唱からオリジナルで考えられないか。
うーん……。
と、一つレア属性っぽいのを思いついたが、どう考えてもティリーには不似合いなんだよな。……まあでも試すだけ試すか。
「じゃあ、この詠唱をしてみて」
ティリーの両手を前にださせ、詠唱を教える。
「我が魔力よ」
「……我が魔力よ」
「黒きマナとなれ」
「……黒きマナとなれ」
そう、暗黒系の魔法だ。魔法が成立するなら手のひらに黒い闇が出来ると思うのだが……。特になんの反応も出ない。
「あ、うーんイメージが無いと駄目かも?」
そう思い、黒く光を遮るような玉をイメージするようにティリーに伝えるがやはり上手くいかない。
「他には……」
その後、家の書庫にあった記憶がある魔法を思い出しながら試してみる。幻を見せるようなやつや、重力を操るようなもの……。
が、詠唱のイメージが正しいかもわからないが、上手くいかない。
途方に暮れながら、川で釣りをしている老人などをボーッと見つめる。
「ハティは、あの子は魔法は使えないのですか?」
「そうだね。魔力は少なくないんだけど適性は無いかな」
「そうですか……」
うーん。魔法が使えるとか言っちゃったが、実際に使える魔法が見つからない。
なんとなくティリーを期待させるだけ期待させちゃって、申し訳ない気にもなってくる。
……。
……。
「おや、巡礼の方ですか?」
と、突然後ろから声を掛けられる。振り向けば一人の神官服を来た男がこちらを見ていた。




