98 シャザールの街
流石に馬車の中で魔法を試したりは出来ない。
俺達は休憩時や宿泊時のタイミングで色々と試すが、なかなかティリーの属性がわからない。
火や水、風や土といったメジャーな属性がなんともうまく発動しない。こういった現象は聖属性を持つリュミエラも同じだったので、同じように聖属性も試すがこれまた上手くいかない。
休憩時、俺達がいろいろ試しているとフェルトが興味深そうに近づいてくる。
「珍しいな。特化型ってやつか」
「特化型?」
「ああ、特殊な属性を持っている魔法使いに見られる現象と聞くな」
「……聖女みたいな?」
「ん? 知ってるのか。そうだな特化型では最もメジャーだな」
「でも特化型ってどんなのがあるの?」
「そうだな、星見と言われる未来視が出来る人間が居るとも聞く、死者を操る死霊使いも特化だと聞くな、ああ……。俺の思いつく中で最悪なのは、ヘロトだな」
「ヘロト?」
「知らんのか? 子供の頃はヘロトが来るから早く寝ろって……。貴族はそんなことは言われねえのか」
「う、うん……」
「ヘロトが使うのはすべてを腐食する魔法。まさに人類の敵と言われてな、数万という人間がやつに殺されたという。おとぎ話のようだが本当の話なんだぞ?」
「へ、へえ……」
いやあ、そういう御伽話は聞いたことが無かったな。でも特化型ってやべえのもあるのか。レアな特殊属性は良いんだけど、危険な属性なら覚えさせないほうが良いってことだな。
ただ、そもそもそんな属性を試すような二行の詠唱も思いつかず、ややお手上げ状態となっていた。
……。
それでも途中にある村々で宿泊を続けながら旅はつづく。江戸時代に街道沿いに宿場町が栄えたというのも実感できるというものだ。
最初はティリーはどうするのかと思ったが、普通に一部屋を借り、グランパと三人で寝る感じだ。小さな村にそんな高級な宿もなく、それでも大部屋よりは良いかなと言う感じだ。
旅そのものも割と安全に進んでいた。
前述したように角笛馬車は国家の事業として保護されている。襲った盗賊など居たものなら地の果てまで追っていくということもあり、そのリスクから手を出そうとする盗賊もほとんど居ないという。
他には魔物もポツポツと出ることはあるが、即座にフェルトが仕留めていく。
ルートも昔俺がリュミエラを助けるために向かったイタルカ方向とも途中からはずれ、完全に初めての道を進んでいる。
そして旅も進めばだんだんと他の乗客とも少しづつ打ち解けてくる。
老夫婦はこの先にあるシャザールの街へ向かうという。
――シャザールかあ。
この原作小説のファンならば決して忘れることの出来ない街だ。俺も王国の地図を眺めながら、そんな街がファルクレストからそこまで離れていないというのに結構驚いたものだ。
◇◇◇
シャザールの街は、両側に急峻な山脈が連なる渓谷にある街だ。だから街と言っても規模的には村と言っても良いような規模なのだが、この世界では街として扱われている。
その理由はシャザールの街がとある聖地として扱われているためだ。
その街の名前の由来も「聖シャザール」から来ている。
街の特徴としては街の至る所に風車が設置されカラカラと音を立て続けている街として書かれていた。その風車の理由というのがこの街に眠る聖人の魂を鎮めているという設定だ。
そしてその聖人の墓地がある聖堂が街の中心にある。
実はその聖人というのが実は時代とともに捻じ曲げられた歴史であり、真実は封印された魔人であるというのが事実であった。
小説で言えば王位継承の戦争も終わりの終盤。最後の手段として第一王子サイドがここシャザールの街の魔人を復活させるのだ。
◇◇◇
といっても魔人の復活なんてあと十年くらい先の話だ。
今はまだ聖人を祀る聖地としての街だ。
老夫婦はファルクレストよりさらに奥の国境近くの村からシャザールを目指して旅行をしているという。人生の締めくくりとして聖地を訪れるというのが今回の旅の予定だという。
ここは聖地なんてもんじゃないよ、と心に思ってもそんなことは言えやしない。
そして馬車は山あいの渓谷へと進んでいく。
……。
……。
カラカラカラ……。
なるほど。小説のイメージそのままの景色がそこには広がっていた。
少しずつ傾く日があたりを黄金色に染め上げ、山から吹き下ろす風が強く吹き、家の塀や屋根、そこら中に立てられた風車を勢いよく回していた。
風車はすべて手作りなのだろうか、風車ごとにカラフルな色付けがされている。そしてこの音。車軸が一種の魔道具となり回転をすることで聖なる力が働くようになっている。
そんな風車が数千。数万。一つ一つは小さい力だが、その膨大な数で持って谷全体を守っているのだ。
「素敵ですね」
俺の横ではティリーが不思議そうな顔で風車の回る街を眺めていた。この街の行く末を思うと気軽ね「そうだね」なんて言い難いが、確かに幻想的な光景に見える。
「うん。いろんな町があって面白いね」
「ラドクリフ様が旅に行きたいって気持ちがなんとなくわかった気がします」
「お? でしょ? 色んな世界を見るのって絶対楽しいよね」
元々義務感から同行してくれてるティリーを思うと、少しでも旅を楽しんでもらえるのは俺としてもうれしい。思う事はあるがこの街を観光する気にもなる。
「少し街を歩いてみようか」
「先に宿だけ取ろう」
「あ」
俺がティリーを誘おうとするとグランパがそれを止める。この街で馬車は休憩をして二泊する事になっている為、先に泊るところを探さないといけないようだ。
俺達は馬車を下りると、馬から降りたフェルトが近づいて来た。
「泊まる宛はあるのか?」
「うーん、グランパ?」
宿を聞かれても初めての街だ。それにネットも無い世界で宿など気軽には探せない。グランパに聞いても首を横に振るだけだ。
「そうか。俺がいつも使ってる宿があるんだが来るか?」
「へえ、ありがとうございます」
フェルトはたまにこの街に来たりするのだろう。飯も旨くてお勧めだと言われる。
「それに。そこだったら、そのお嬢ちゃんも一人部屋でゆっくりできるからな」
「あ。なるほど」
この世界の旅はこういうものなのかと、あまり気にしていなかったが確かにティリーが一人に成れるならそういう時間を作ってあげたい。
ここまでは一人部屋のある宿なんて無かったから、ティリーは俺と同じ部屋で寝泊まりをしていた。別に何があるってわけじゃ無いんだが確かに女性一人だと着かえとか気を遣う部分はある。
旅の護衛でついて来ていたフェルトはそんなティリーを少し気にかけてくれたのだろう。そんなイケメンムーブが似合うだけにちょっと負けた感を味わう。
もともと近隣の信者が巡礼として集まる場所の為、他の宿場町と比べても宿が充実しているらしい。いい宿があるなら泊まりたいところだ。
「私は別に……」
「プロスパーなら金は腐るほどあるだろ? 遠慮はすることない」
恐縮するティリーにフェルトはいたずらっぽく笑って言う。
まあ、確かにそうなんだけどな。他人にそれを言われてもメイドのティリーが「そうですね」なんて言えるはずは無い。
「そうだよティリー。これからも旅は長いしさ。たまにはゆっくりするといいよ」
「す、すいません」
恐縮するティリーをなだめ、俺達はフェルトの紹介してくれた宿へと向かった。




