96 角笛馬車
ティリーが同行するということで気になっていたのはその格好だ。
正直今までティリーのメイド服の姿しか見たことはない。現実的に旅に出るのにその格好のままはどうだと思っていたのだが……。
実は俺とティリーはほぼ同じような格好をしている。
白いシャツに千鳥格子の茶色いベストとパンツ。そして鹿撃ち帽。ティリーは頭をお団子にして髪の毛が見えないように被っている。
転生してきた頃はティリーは俺よりだいぶ大きく感じていたが今では十センチ程の身長差まで近づいてきている。そんな二人が同じような格好でグランパの後ろをついて歩けば、老人に付き従う少年従者の二人、といった感じにも見える。
流石に見知らぬ土地への旅に金持ちの象徴であるメイドや、女性を全面に出して歩くのは危険なのだろう。言われてみれば納得の格好である。
鏡の前で丸メガネでチリチリ頭の金髪に、鹿撃ち帽を被れば、その似合いすぎるビジュアルに思わず苦笑いをしてしまった。
一方でティリーは持ち前の美貌もあり、こういった少年風の格好がまた驚くほど似合う。
確かに、兄弟に見えるのかもしれないな。
そんなふうに感じた。
……。
……。
それから街の門の近くにある馬車溜まりで手続きを行う。
馬車に関してはすでに予約もしてあるので、乗車の手続きをするだけだ。
ただどうも雰囲気が変だ。
「どうしたんです?」
俺は馬車の事務所の受付の女性に尋ねる。すると女性はちょっと困った顔で返事をした。
「それがですね、冒険者の手配がうまくいかずに」
「ああ……」
角笛馬車の護衛には冒険者がつく。ただそれもそれなりの実力を求められる為冒険者なら何でも良いわけではない。国の事業としての運行のため規定も多いのだ。
確かC級以上のパーティー、ソロならB級以上が求められる。
それが引っかかり、ギルドも角笛馬車の護衛を探すのに結構苦労しているとも聞く。それでいて依頼料もそこまで高くない。俺達も一応C級のパーティーになっているのだが、流石に公爵令息のパーティーに護衛の依頼を持ちかけられたことはない。
冒険者の立場ではあまり気にしていなかったが、いざ自分が利用する立場になるとその問題は割と大きいと感じる。運行後留まれば、旅の予定も狂うし、手紙や荷物の移送にも問題が生じる。
「まあ、こういうこともあるじゃろ」
「そういうものなの?」
グランパは特に気にしてなさそうに事務所の椅子に腰掛けて外を眺めていた。
他の客は一組の老夫婦に、一人の青年だ。割と利用客は少ないと言うが、そのとおりなんだろう。
そもそも旅行の文化が少なく、遠出をするような冒険者は護衛の仕事を入れて行ったり、徒歩での移動がほとんどだ。頻繁に移動する商人は個人で馬車移動をするし、貴族も自前の馬車を使うのが基本だ。
学院に通う生徒たちの移動などのときは臨時で乗合馬車を増やすこともあるらしいが。
……。
……。
しばらく待った後に俺達は仕方無しに近くの料理屋で昼飯を食いに出る。そろそろ出発できないと出が一日遅れるので今日はファルクレストの宿を取らないといけないかもしれない。
食事を取り、再び事務所へ向かおうとしたときだった。
パァーーーーー!
事務所の方で角笛の音が鳴り響く。
「お、護衛が来たようじゃな。出るみたいだ」
「もう出発してたりしない?」
「流石にワシらが乗るのは知っとるからな、出発が決まった報告じゃろ」
急いで戻ると角笛馬車の事務所がバタバタと動いていた。
「ああ、よかった。まもなく出発できますので門の方へ行ってもらって良いですか?」
「護衛が見つかったようじゃな」
「はい、良かったです当日の出発が出来て」
グランパが受付の女性から木札を三枚うけとる。どうやらそれが切符らしい。
そして俺達はすぐに街の門の外まで向かう。
門の外でも慌ただしく準備が進められていた。今日の出発は無理だろうという事で一度荷物を倉庫へ戻そうとしていたらしい。
馬車は手紙や荷物を運ぶ荷馬車が一台と、俺達を乗せるための乗り合いの馬車が一台の構成だ。そして他にも護衛の便乗で行商人たちがついてくるようだ。
そしてその馬車の横で馬にまたがる冒険者は俺の知っている人物だった。
「あれ? 護衛ってフェルトさんだったんだ」
「なんだラドじゃないか。どうした? こんな所で」
「ちょっと祖父と旅行に出かけるんです」
「祖父? えっと……?」
「ほら、後ろにいる、僕と同じ格好の子と一緒にいる」
「ああ、そうかグフタス・プロスパーか」
「知ってるんですか?」
「プロスパー商会の先代の名前くらいはな」
フェルトは、スコットと同じくモーガンの一員だ。以前リュミエラを救いに行くときにスコットの甥として紹介され手伝ってくれた事がある。
その「モーガン」というのはこの王国で、王家の直属の諜報機関のような存在だ。そしてモーガンの諜報員は皆セカンドネームが「モーガン」という設定になっている。
これは原作を知ってるからこその知識で、一般国民では貴族ですらそれを知らないという設定になる。当然俺がモーガンという存在を知っていることはスコットも知らない事だ。
それを利用してスコットを剣の教師として雇っているのだが。最近はもう俺は剣より魔法に集中しているため、ハティの教師として屋敷に住んでいるような感じだ。
「そう言えばスコットがどこに行ってるかしらない?」
「スコット? うーん。ちょっとわからないな」
「そっかぁ。少し前からなにか仕事があるって出てるんだよ。もう他の依頼なんて受けないで家の専属に成れば良いって言ってるんだけどね、まだ自由で居たいんだって」
「そ、そうか。まあおじさんは縛られるのが嫌いだからな」
「別に縛ってるつもりはないんだけどねえ」
ま、色々な報告のために定期的に何処かに行ったり、モーガンとしての任務もこなさなかったりしないとならないのは察しては居るんだ。
で、その間のファルクレストに駐在するモーガンが居なくなるから、その穴埋めにフェルトが来ているんじゃないかと予想する。
そんなこんなで俺は久しぶりにあったフェルトに挨拶をすると、俺達が乗る馬車へと向かった。




