94 北の天才 西の天才
今度のパーティー活動についてアドリックに提案された俺は、しばらく旅に出る話をする。
「今、爺ちゃんが家に来ていてさ」
「ああ、確か南の方で隠居をしていたって言ってたな」
「うん。そうなんだけど今はのんびりと旅行をしてるって言ってて……。少しついていこうと思ってるんだ」
「旅? どのくらいだ?」
「わからないけど、北のほうへ行くって言ってたから、数カ月はかかると思う」
「それはいつから?」
「爺ちゃんの準備が出来たら、かな」
この世界で、旅に出るというのはそこまで一般的ではない。盗賊もいれば、魔物も出る。危険度が高い上に移動にかかる時間も日本の感覚とは違う。
移動と言えば、商人の流通、冒険者の依頼、巡礼者、貴族の付き合い、そこら辺が大半だろうか。
アドリックも王都などに行ったりするが、それは貴族の付き合い的な物で娯楽としての旅とは少し違う。
それをレジャーの一つとして旅行を楽しもうなんて、天下のプロスパー商会の先代商会長ならばこその道楽とも言える。
そう考えると、そんな世界で温泉リゾートという観光ビジネスを成功させるエリックはやっぱりチートなんだなと思うんだが。
当然アドリックも俺の話を聞きながら不思議そうな顔をしていた。
それでも見たことのない地へと向かうことを楽しそうに俺が語ると笑いながらうなずく。
「もともとラドは変わってるしな」
「はい? い、いや。普通だよ? 変わっては居ないと思うな」
「その認識はおそらくお前だけだよ」
「なっ。いやいやいや、ねえ?」
突然のアドリックの発言にうろたえながらリュミエラに助けを求めるように視線を送る。
しかしそのリュミエラは何か真面目な顔で考え込んでいた。
「えっと、リュミエラ?」
「ハティさんも、その、旅行に……。行くのですか?」
「え? いや。そのつもりは無いけど」
「でもハティさんはそのつもりだったりしませんか?」
「うーん……。あ、でも行きたいって言ってたかも」
「やっぱり……」
やっぱり? 確かにハティも色々な物に興味を示す方ではあると思うが、本屋とか絶対に一緒に行こうとしないし、いつでも一緒にいるわけじゃないんだけどな。
リュミエラは眉間にシワを寄せ更に考え込んでいる。
まさか、リュミエラも旅行に興味があるのか?
ただ以前の襲撃事件の事もあり、侯爵令嬢たるリュミエラが旅に出るとなれば護衛の兵士だって同行する形になってしまう。
そんな大人数でゴロゴロというのは正直厳しい。
パーティーを組んでもう数年経つし、パーティー内で女子は二人と考えるとだいぶ仲良くはなってきているのだろう。
ハティが行くならリュミエらも行きたくなる。何となくそれは理解できた。
うーん。今回の度は俺とグランパの二人でののんびり旅を想定していたからな。個人的にはハティーも連れて行くつもりは無いのだが。
しかもアドリックのパーティーで俺とハティまで抜けたら戦力的にかなり落ち込む。俺としてはアドリックになにかあったら困るので、護衛で置いておきたいのだ。
「でも、今回はグラ……。爺ちゃんと二人でのんびり旅行するつもりだから、ハティは連れて行かないつもりなんだ」
「そう、なんですか? それでも……」
「それでも?」
「い、いえ……。なんでもないです……」
ふと、四年前にパーティーを組む時に初めて城の外にリュミエラを連れ出したときの事を思い出す。
そうか、リュミエラも街の外を見てみたいのか……。
でも、今回の旅行には流石につれていけない。
俺はリュミエラに笑いかける。
「だからさ、ハティを狩りに行く時に連れてって欲しいんだ」
「ハティさんは私達のパーティーのメンバーですよ? 言われなくても連れていきます」
「うん。なるべくすぐに帰って来るからさ。よろしくね」
「……はい」
うーん。まだ微妙に納得していない顔に見えるが。
リュミエラは姫様なんだよな。確かに冒険者パーティーの仲間として色々と行動をすることも多いけど、そこら辺はやっぱ自覚を持ってほしいな。
商人の家の俺みたいなのとは爵位も立場も全く違うんだから。
「北と言うと……。シュトルツ領にも行くのか?」
「え? な、なんで?」
「シュトルツ領には天才と言われる子供が居るらしいな」
「あ、ああ……。砂糖の?」
「そうだ。しかも俺達と同じ年らしい」
「多分……。行くと思う。爺ちゃんがあそこに良い温泉があると言ってたから」
「温泉? 風呂か? 病などの療養地が出来たとは聞いたな」
「よく知ってるね」
「まあな……。父が少し気にしていてな。息子の学園での成績の順位をな。まだ入学もしてないというのに」
「あ……」
そうか。王立学園での成績は面子を気にする貴族にはとても大事だ。原作でもアドリックは常にエリックと張り合い、そして学年のトップに成れないことでプライドを傷つけられ、さらに父親からの叱責を受けていたようなシーンもあった。
「ま、うちにはラドがいる」
「……へ?」
「ファルデュラス領にも天才はいる、ってな」
突然のアドリックの言葉に俺は一瞬反応ができなくなる。
なんだって? 俺が天才?
ちょっと何を言ってるかわからないが、あれか? 白樺のシロップで砂糖に対抗した話か? でもアレははじめだけでその後の商品としては完全にオッツォの任せている。俺は企画段階でかかわっただけだ。
いやまあ。そもそも子供の体に大人の魂が転生しているんだ。確かに早熟に見られるかもしれないが……。いやいやいや。そこら辺はなるべく気をつけていたはずだ。
俺は慌ててアドリックの言葉を否定する。
「ちょっ。ちょっと待ってよっ!」
「なんだ?」
「い、いや。俺が学園へ行ったってそこまで成績取れるなんて、無いよ」
「ははは。謙遜するな。父にもラドには敵わないと言ってある」
「勘弁してよ。俺は楽しく学園生活を送りたいだけだって」
「それは俺も同じだ。ラドやセヴァといっしょに学園に行けるなら、絶対に楽しい生活を送れると思うぜ」
「う、うん」
……まいったな。
だけど、もうこの時点でエリックの天才っぷりは世に出ているのか。
アレだけ派手な活躍していれば当然かも知れないが、この時点でもうエリックのことを意識しているからこそ、学園編で顔を合わせた瞬間からバチバチにぶつかったのかもしれないな。
一方今の話に納得できない人物がもう一人……。
「お兄様。誰か忘れていませんか?」
「ん? ……ああ。そうだなリュミエラもいたな」
「忘れていたなんて酷いですわ」
「ははは。そう言うな。リュミエラも一緒だ。な?」
「もう、調子いいんですから」
そうだ。原作と違う設定にリュミエラの存在がある。幼少期に盗賊に殺されたリュミエラが今は元気で行きているんだ。
また少し違う流れが生まれるかもしれない。
ハティもルナも学園生にはならない。これは原作でもそうだ。
それでもルナは常にエリックの側にいたし、ハティだって王都の冒険者ギルドで知り合い、その後はエリックが冒険に行くときに共に行動することも多かった。
リュミエラを助けたことで、「堕ちた英雄」バッソもシュトルツ領へと落ち延びることなく、シュトルツ領近辺で盗賊行為をするなんてことも無くなった。
エリックを成長させるイベントが潰れたり、ルナやハティなどの仲間がいなくなることでエリックが世界を救う力を成長させる事が出来なかったら……。
ただ旅をしたかっただけの気持ちから、今では最近のエリックの様子をチェックしたい。
そういう気持ちになってきていた。




