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93 些細な違い

 グランパも久しぶりの故郷を楽しみたいという事で、もう少しこの家でのんびりするという。

 そんな中、俺は俺で今までの生活のパターンはある。


 今日は週に一度の魔法の練習日だ。

 城まではハティを連れて行っていないので、練習日は馬車に乗っていく。


「おはようございます」

「ああ、リュミエラ。おはよう」


 いつもの練習場へ着くとリュミエラが駆け寄ってくる。そんなリュミエラの姿に少し違和感を感じる。


「あれ?」

「ん? どうしました?」

「えっと……。いや。なんでもない」


 なんだろう。うーん。ちょっと雰囲気が違う気がしたんだけどな。気のせいか?


「なんでも、無い。ですか?」

「え? えっと……」


 やっぱ何かあるのだろうか。リュミエラが上目遣いで俺のところを見るが。そんな眩しすぎる姿に思わず視線をそらしてしまう。

 そして、そらした視線の先にはアドリックが能面顔で立っていた。


「あ、アドリック。おはよう」

「……」

「え? ど、どうしたの?」

「お前にはリュミエラが可愛くなったのがわからないのか?」

「え? か、可愛く? いやいや。リュミエラはずっと可愛いですよ?」

「何だとっ!」

「えええ。なになになに……」


 ううむ。このアドリックのシスコンっぷりは如何ともしがたい。褒めなければ怒るし、褒めても怒る。全くめんどくさい兄貴だ。


「セヴァですらすぐにわかったぞ?」

「……すらって、それはセヴァが……。ていうか。えっと。なんなの?」

「わからないのか?」

「えーと……」


 俺は困り果てて改めてリュミエラの方を向く。そのリュミエラは何やら不機嫌そうに頬を膨らませている。


「お、おたふく……。風邪?」

「殴るぞっ!」

「えええ。わ、わからないよ」

「……リュミエラ。もうラドは放っておこう」

「はい。お兄様……」

「え! え?」


 な、なんなんだ。この出口のない地獄は。

 するとそっと俺の後ろに近づいて来たルックが俺に耳打ちをする。


「リュミエラさま、お髪を……」

「……あ!」


 な、なる程。いや本当に雰囲気が変わったのは分かったんだ。でもその理由にまでは気が付かなかっただけだ。俺は慌ててリュミエラに話しかける。


「か、髪切った?」

「……ルック先生ですよね?」

「え? 違うよっ! はじめっから分かってたよっ!」

「本当ですか?」


 不満げに俺を見るリュミエラに俺は思いっきり笑顔を向ける。


「良いじゃ無いか。とっても似合うよ。うん」

「……気が付かなかったですよね?」

「きききき気が付いていたさ。でもちょっと、ほら。ね? うん。可愛い可愛い」


 俺が可愛いと繰り返すと、リュミエラは表情を和らげ、少し恥ずかしそうな仕草をする。


「えっ、ありがとうございます……」


 ごり押しだ。リュミエラは俺のパワーに思わず顔をそむける。これで何とかやり過ごせた……と思ったが。


「騙されるなリュミエラ」

「え?」

「ラドは口が上手いからな。リュミエラが可愛いのは当たり前だ」

「お兄様? そんな言い方しなくても……」

「ラド。リュミエラを騙せても俺は騙せないぞっ」

「いやいやいや。騙そうとなんてしてないからっ!」


 うわあ。シスコンめんどくせええ!


 ……。


 ……。



 その後ようやく場が収まり、いつものように魔法の訓練を始める。


 俺たちは皆、冒険者として狩りを頑張っていることもあり、アドリックもリュミエラもレベルは順調に上がっている。同時に魔法の力のベースもかなり上がっていると思う。


 原作でもあったが聖女の条件は使える属性は聖魔法に特化している事がある。リュミエラも使える属性は完全に聖魔法だけである。

 

 聖魔法に特化しているということは魔力を火や水、雷と言った各属性の魔法として飛ばす事は出来ない。聖魔法の性質が元々そうらしい。


 ちなみに俺が弱いながらも治癒魔法の光を出せる事はかなり異例であり異質らしい。俺の聖魔法の光がかなり濁った光というのを考えると、おそらく純粋な聖魔法という訳ではないのかもしれない。


 話を戻すが、聖職者達が刃物などの武器の携行も禁止されてるのも、そういった聖属性の性質から聖職者はかくあるべき、というルールへとなっているようだ。


 それでも聖職者たちは自衛のために棒などの鈍器は許されている。実はそれは聖魔法を使う聖人たちも同じだからだ。


 何が同じなのか。

 攻撃属性でない単純な魔力の塊を相手に飛ばすという攻撃手段があるからだ。

 魔力を圧縮した空気の塊の様な物でも、その飛ばすスピードなどが上がれば十分に攻撃力へと昇華する。聖職者たちの「バニッシュメント」と呼ばれる魔法だ。


 ルックがいうには、リュミエラは魔力をグッと固めるのが上手いとの事だ。一般的にパンチのリーチが伸びるくらいの射程距離しかないと言われるバニッシュメントだが、リュミエラはかなりその射程が長い。


 そこは俺としては、ここ四年近く教えていた太極拳による魔力操作の効果が強く出ていると感じてそれはそれで嬉しい。



 実は俺もバニッシュメントは割と気に入っている。

 属性のない魔力をグッと固める感じで、使い勝手は魔法というより気功的に使えるような感じがするのだ。


 もちろん魔力を固くまとめるイメージなどは魔法の構築に近い感覚ではあるのだが。属性魔法の様な複雑なイメージでは無いため、二行ですむ。

 そして今の俺なら略式詠唱を使うことで一行で発動させられる。つまり発動のスピードが早く実践的なのだ。


「ラドはストーンバレットがあるじゃないですか」

「まあそうなんだけどね、アレより更に早く発動できる魔法があるならそっちも練習しておくに越したことはないでしょ?」

「でもラドの発動スピードはとても早いですよ?」

「多少早くても剣を持った前衛職のスピードに勝てないと意味ないから」

「ううん。難しいです」


 そう、難しいのだ。

 魔法職が遠距離で制圧できる分には良いのだが、間合いに入られたとき。一気にその能力を封じられる。

 だからこそ、世界の魔法使いたちは自分の詠唱をなるべく早く完成させるために苦労をしているのだ。


 魔法の技術にも土地土地での流派的な物はある。魔法をなるべく早く発動させるための技術にも略式詠唱や高速詠唱があるのだが、ファルデュラスの魔法師団では高速詠唱が基本となっている。


 当然ルックが教えるのも高速詠唱になり、俺も基本的にルックの前で略式詠唱をしないようにしている。


 ……。


 ……。



 うん。ただ原作にはこんな話がある。


 ラドクリフ少年も自慢の高速詠唱で主人公のエリックに挑むのだが、無詠唱を使うエリックにけちょんけちょんにされる。それどころか略式詠唱を使うエリックの仲間の魔法使いの女の子にも負けてしまう。


 そういった面もあり、原作小説の中では高速詠唱を使うアルカと略式詠唱のルードのような雰囲気もあった。そして略式詠唱の方が技術としては優れているかのように書かれていた。


 しかしこの世界で練習を重ねていると、その認識は必ずしも一致しないと分かる。


 略式詠唱は無詠唱に近い部分があり、簡単な詠唱部分を言語による詠唱を抜きに脳内のイメージで作り魔法へと転写させる。その為、若干完成する魔法の質が落ちるのだ。

 高速詠唱も同じように脳内のイメージ構築を急ぐため、イメージの質は落ちるのだが、詠唱は略していないので魔法の完成度は明らかに略式詠唱より高くなる。


 単純にどっちが良い、では無いのだが……。


 まあでも、やっぱり高速詠唱を教えてくれているルックという先生が居て、ファルデュラス家の魔法師団が全てそういった方向と考えると、この城で略式詠唱の練習をすることに抵抗はある。というより出来ない。

 日本人的な忖度ってやつだ。


 練習しているとアドリックが声をかけてくる。


「そうだ。今度の冒険なんだけどさ、ローブ山の方で魔物の数が増えてるらしくてさ」

「……あ」

「ん? どうした?」


 そうだ。今日はその報告もする予定だったんだ。


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