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74 オルベア魔道具店 3

「で、どんな魔道具が欲しいんじゃ?」


 当然そう聞かれる。


「実はどんな魔道具があるのかも知らなくて。身を守る物があれば欲しいんだけど」

「身を守るじゃと? そんな年で……父親への贈り物とかか?」

「自分用になんだけど」


 俺がそう答えるとオルベアは眉を寄せて難しい顔で俺を見る。


「身を守ると言ってもな……。剣をぶら下げているのなら魔物狩りとかもするのか?」

「うん、友達とパーティーを組んでるんだ」

「ほう? だが貴族の遊びレベルじゃろ?」

「僕たちは遊びのつもりは無いけど、でもパーティーのリーダーがアドリックだから、ファラド将軍がいつも一緒に来ているかなあ」

「なるほど、それでファラドから聞いたのか。ファルデュラスのちびっ子はだいぶ優秀だって話じゃが、そうなのかい?」

「うん、剣も上手いし、魔法も使えるんだ」

「ほう。それはあのオヤジも同じじゃったな」

「え? 領主様も?」


 まあ、アドリックの父親の侯爵もかなりのイケメンだし、前に若い頃はダンジョンに行ったりもしていたという話を聞いた。

 魔法適性は多く出る血筋というのもあるようで、特に世の中の魔法使いは貴族の率が高いらしい。


「魔道具はオーダーで作るの?」

「大抵はな。だが適当にワシが設計して作ったものも売っとるぞ」

「へえ、あそこにあるのがそう?」

「そうじゃ」


 喫茶店の奥まったスペースがどうやら魔道具屋のコーナーらしく、奥の壁に大きな棚が二つ並べてあり、そこに何か置いてあるのが見える。

 どうやらそれが出来合いの魔道具のようだ。


 俺は残りのお茶をグイッと飲み干し、そちらに向かう。


 ……。


 正直言うと魔道具というのがどんな物なのか、あまり分かっては居ない。

 家の電灯は光魔法、コンロは火魔法、といったように、既存の魔法を魔法陣という形でシステマティックに使うことが出来るようにしたのが魔道具だというのは分かる。無敵のバリアでもあれば最高なのだが、そんなものは無いのだろう。

 


 魔道具には、魔法を作動させるための回路として魔法陣が組み込まれている。そしてその魔法陣というのが兎にも角にも難しいのだ。「魔法陣とは神との対話だ」という言葉があるほどで、そこに書く言語も俺達が普段使っている文字とはまた別であり、丸や五芒星、六芒星などの記号との組み合わせで様々な魔法効果を出せるという。


 更にその魔法陣の刻み方も、職人毎の流派があるという。魔力が通りやすいように銀やミスリルの粉を溶かしたインクが使われると言うが、他にも固定するためにニスだったり漆だったりと、様々な素材が使われ、そのインクの配合率も職人たちは秘密にし、弟子以外に教えることは無いという。


 そんな職人の技術を金で買い、その知識で多くの職人を育て、量産化に成功したのがプロスパーということだ。今では他にも同じ様な事をやっている商会はあるが、量産体制でのクオリティや規模でプロスパーは頭一つ出ている。


 話がそれたが、紹介されたオルベアは戦闘向けの魔道具を作る店として紹介されている。

 戦闘用の魔道具と言えばもっとも一般的なのは魔法の杖だろう。厳密にはその杖に組み込まれている宝珠が魔道具職人の技術の結晶になる。


 その宝珠に魔力の増強効果を刻むのだが、その増強具合が職人の実力差にもなる。


 ただ、今回はそういった戦闘に使うものというより、補助的な使い方をする物がほしいのだが……。



 ……。


 棚の上には様々な魔道具が並べられている。そしてその前に魔道具の名前と、値段が書いてあった。

 その中に、先日ゴブリン狩りの時に見かけた貯水石まで置いてある。ファラドがこの店を使っているのなら、あの貯水石はここで買ったのだろうと分かるが。


 俺が見ていると、後ろからオルベアに声をかけられる。


「なんじゃ? 水でも貯めて溺れさせようとでもするのかい?」

「いや、先日ファラド将軍が使っているのを見て」

「使ってる? ああ、魔素溜りでもあったのか?」

「分かるんですか?」

「そのためにワシに作らせたんだ。本来の目的とは違うのにな」

「ははは」


 貯水石は、通常は生活魔道具だがきっとファラドに頼まれて作ったのだろう。ここにあるのは、オルベアがいろいろ試したいこともあって何個か作った残りらしい。


 他にもあるが、俺の持ってる様な魔力の回復スピードを上げるような指輪もあれば、リュミエラが持っていたような魔力を増幅させるような物もある。


 防御系は……。攻撃魔法を減衰するフィールドを作るものか……。今回はちょっと違う。というか値段を見ればだいぶ高級品で手が出ない。


「そこら辺は、オーダーされたがキャンセルされたりしたような物を商品として置いてる感じじゃな」

「やっぱりキャンセルってあるんだ」

「そりゃな。値段もだいぶ高いんじゃ。直前でやめるものも居る」

「なるほど……」


 どこの世界でもそういうトラブルはあるんだろうな。俺は納得しながら更に棚の上をチェックしていく。


 ……ん? あれはなんだ?


 棚の端の方に、木の札のようなものが何枚かずつ積まれて並んでいる。俺がそっちへと近づこうとした時、オルベアが聞いてくる。


「どうじゃ? なにか良さそうなものがあったか?」

「うーん。あの木の札ってなんなんですか?」

「ああ、あれは使い捨ての魔道具じゃよ」

「使い捨て?」

「一度発動したらそれで終わりというものじゃ。もともとポーションに対抗しようと思って作ったんじゃがな。ポーションの方が効果的に回復はするが、これは範囲発動だから複数の人間にいっぺんに回復を出来る」

「範囲発動?」

「簡単な魔道具じゃからな。怪我した場所を指定してというのは無理なんじゃ。この木札を折ると、数分間その周りに軽く回復魔法の効果が出るというだけじゃ」

「おお、なんか凄いっすね」

「どちらかと言うと、これでワシは名前を売ったからな」

「へえ」


 こういった使い捨ての魔道具はオルベアが発明したものらしい。聞くと他にも一瞬フラッシュが発生するもの。大音量の音がするもの、逆に数分間音を消すもの、など色々ある。攻撃魔法の補助にはなかなか面白そうなものだ……。が。


 ……ていうかこれ。俺知っているぞ?


 たぶん間違いない。原作の描写でも木札を折る、そんなシーンは出てくる。


 王都の魔道具屋で、エリックが気に入って使っていたと思う。その場その場で木札を折って効果を発動させる。使い捨てとはいえ、魔道具だからそこそこの値段がするのだと思うが、腐る程金のあるエリックには関係なく買える。


「ほかにも作ってる人は居るの? こういうの」

「聞いたことは無いな、一応作り方が分からんようにしておるし、予想は出来るだろうが」


 魔法陣を組み込んだ木を二枚重ね合わせ、外からは魔法陣は見えないらしい、そして無理やり剥がそうとするとインクが崩れる仕組みになっているようだ。


「これって、他に卸したりしているの? 王都とか」

「あー? 卸すってのはしてないが、たまに纏めて買っていく行商人がいるからなあ。他所で高く売ってるかもしれんな」


 やっぱり。何らかのルートで王都に入ることはあるってことか。原作でも、たまに入荷するおかしな魔道具、という設定だったかもしれない。


 そうか……。この人があれを。


 そう考えると、俄然使いたくなる。原作に出てる魔道具というだけで性能は保証されたようなものなんだ。


「これって、音を消すと魔法は使えなくなるの?」

「そう、そのための物じゃな」

「そっか……」

「ん? どうした?」

「音を消せれば、相手に気が付かれずに魔法の詠唱が出来るかなって」

「なるほどな、それならこれはどうじゃ?」


 そう言いながら見せてくれたのは「内緒話アシスト」と書かれた札の前に置いてある木札だ。


「えっと?」

「これを割ると、遮音空間が出来るというものじゃ。ただ、その空間が30センチ程しか無くてな、相手の耳の近くでこれを割ることで、相手に聞こえる場所だけ空間が保証されるのじゃ」

「おおお、じゃあ詠唱も?」

「口から言葉が出れば、行けるじゃろう」


 確かにこれなら口元で発動させれば、俺が魔法を唱えても周りには聞こえない。だけどその力は発動する。それは面白いかもしれない。


 木札もそこまで安くは無かったが、正規の魔道具と比べれば断然安い。


 俺はその木札と、なんとなく気になった木札を何個か買って店を後にした。


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