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72 オルベア魔道具店

 ゴブリン狩りから帰宅した次の日、俺は再び領都ファルクレストへと向かっていた。

 当然馬に乗れない俺は、ハティの後ろだ。


「狩りに行きたかったのにー」

「良いじゃん。なんか美味いのごちそうするからさ」

「おー。ほんと?」

「ああ。良いぜ」


 よく考えると今まで、街で鍛冶屋に行ったりはあるが、それはほとんどスコットに案内されて目的のものを買って終わりというのが多い。

 ショッピング的に服を買ったり、食事をしたりしたことは無い。



 一応オルベアの魔道具の店の場所は教えてはもらっているが、街の地理そのものに疎い。二人でダラダラと店を探す。

 ファラドが言うには、オルベアの店は旧市街にあるという。


 ファルデュラス領は歴史の古い領であり、その領都であるファルクレストの街も同じくらいの長い歴史を持っている。現在では王国でも三本指に入る規模の領ということもあり、人口もかなりの数が住んでいる。


 街の作りは、もともとあった初期の旧市街と呼ばれる場所の横に、セヴァの家など城づとめの貴族たちが済む貴族街があり、その後人口がの増加に合わせ、領主が主体となり新市街が作られた。


 新市街は住宅地区と商業地区、工房地区が計画的に作られており、いつも俺達が行くギルドはその新市街にある。領都だけあり街はいつも賑わっている。


 それに対し、昔からの旧市街は建物も古くメインの大通りと比べ道幅も狭い、ある意味味わい深い町並みがあるのだが。少しばかりスラム化している箇所もあるようだ。



「おい、ちょっと待てよ」


 街を歩いてるとなんだか悪そうな奴らに声をかけられる。ヒップホップ育ちでも無い俺は思わず聞こえないふりをして通り過ぎようとするが、向こうさんはそういうつもりはないらしい。


「おいおい、待てっていってるんだけど?」


 ……まったく、やめてくれよこういうの。テンプレだかなんだか知らないけど、不良はあまり得意じゃないんだよな。

 俺が必死に平静を保ちながら振り向くと、三人の男がニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。年齢的にはグレゴリーとかとあまり変わらなそうだ。


「ガキの癖に生意気に剣を吊るしてるのか」

「う、うんまあ……」

「よく見ればそれ、俺様が昔落としたやつによく似てねえか?」

「落とした、やつ?」


 また理由のわからない事を言いだした。剣がほしいならあげても良いんだが、一応は間違いなくうちの剣だしな。多分、貴族向けのちょっと装飾があるのが高級そうに見えて気になるんだろうな。


 それにしても、なんともベタな口上だ。そう考えるとなんか少年たちが急に子供に思えてくる。


 いや、子供だろう。もともとの俺は二十代だしな。



「ねえ、オルベアの店って知ってる?」


 俺が覚悟を決めた瞬間、なんだかハティがよくわからない質問を投げかける。


「オルベア? ああ、ババアの店だな?」

「ババア? へえ女の人なんだ」


 ハティが驚くが、俺はちゃんとおばあさんだと聞いていたからな。そうか、ファラドとの会話をしたのは俺だから、ハティは男だと思ってたのか。

 それにしてもハティは全然コイツラのことビビってないのか?


「よかった。知ってるんだね。どこにあるの?」

「は? なんで俺が教え無くちゃいけないんだ?」

「いーじゃん。ケチ」

「ちっ。このクソガキ……。まあ良いや。あの剣をくれたら教えてやるぜ」

「え? くれるって、あれお兄さんが落としたやつじゃないの?」

「そ、そうだ。だから俺に渡せって――ぐぅ!」


 ハティは、男が言葉を言い切る前に突然男の腹に前蹴りをくいこませる。


 突然のことに俺もあっけにとられるが、男たちはすぐに色めき立つ。


「このガキ!」

「あたしさ。ラドの護衛なの」

「へ? 護衛?」

「敵、だよね? ラドの剣を奪おうとするなんて」

「は? ……お、おう。やるってのか?」

「いーよー」


 ……俺は。もしかしたらヤバい化け物を育てているのかもしれない。目の前の惨状を見つめながらそんな事を考える。


 ハティは、ニコニコと笑ったまま襲いかかる男たちをあっさりと返り討ちにする。そして、ヒィヒィと道端に転がる一人の男に近づく。


「ねえ、オルベアのお店どこにあるの?」

「あ、ああ。分かった、言うから!」


 こうして俺達は無事にオルベアの魔道具店へとたどり着く。


 ……。


 店は旧市街の商店街にあった。新市街の大通りの商店街とは違い、狭苦しい路地のような場所だが、まだ営業をしている店も多く、旧市街に住む庶民たちには重要な場所なのだろう。ちゃんとした商店街として成り立っていた。


 ただ、街の中を歩いている人たちの服装などを見れば、やはり新市街と比べるとだいぶ粗末な身なりだったりすることが多い。


 ファラドの話的にもだいぶ偏屈な婆さんだと聞いていたため、ライトノベルありありの薄暗い陰気臭い店を予想していたのだが……。だいぶ違った。


 というより、むしろ逆だ。


 店は太陽が燦々と差し込むオープンテラスの喫茶店だった。


「ここ、なの? カフェ・ヴェーノって書いてあるよ?」


 ハティが戸惑うのは当然だ。俺だってこれはファラドからは聞いていない。ただ、木材の状態など、見た感じこの状態に改装されたのは最近っぽい。

 そして、カフェの看板の下に小さく「オルベア魔道具店」という鉄板の看板がぶら下がっていた。


 店は、まだ早い時間だからか客は数人二組ほどしかいない。

 カフェの奥を覗くと、物販コーナーのような場所があるので、おそらくそこで魔道具を売っているのだろう。


 俺達が店に入っていくと若い男女の店員が笑顔で迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。えっと……」


 と、迎えたは良いが、こんな七歳の子供二人で入ってきたんだ。本当に客なのかと戸惑っているようだ。

 そんな二人に俺も笑顔で答える。


「えっと、魔道具を買いに来たんですが、ここで大丈夫ですか?」

「あ、はい。ばあちゃん?」


 男の店員が、カウンターに座っていた老婆に声を掛ける。客だと思っていたのだが、その老婆がオルベアらしい。

 しかしオルベアは、その声が聞こえなかったかの様に、ブツブツとなにかを呟きながら手元の紙に物を書いている。


 すると男の店員は苦笑いをしながら、老婆の眼の前まで行く。その気配に気がついたのかオルベアが顔を上げる。


「ばあちゃん。客だよ!」


 今度はだいぶ大きめの声で店員が俺達の方を指し示す。


「ああ? ……なんだい、ジャリっ子じゃねえか」


 オルベアは俺達の顔を見て、面倒くさそうに呟いた。

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