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71 影食い 2

 ようやく集落に着く。こういう意味不明な敵が現れた時は義将ファラドの近くまで戻ってこれたというだけで、だいぶ気分が楽になる。

 ファラドも俺達の様子が変だと感じたのだろう、作業の手を止める


「何かあったのか?」

「影食いが出まして……」

「なんだと?」


 影食いの言葉にファラドが目を見開く。確かにあの魔物は脅威だ。特に今回のゴブリン狩りには魔法使いが同行していない。となれば、ファラドたちでも手を焼く事態になるのだろう。


 剣呑な雰囲気を醸し出すファラドにラピエールが慌ててフォローをする。


「お待ち下さいっ。影食いは仕留めました」

「なんと……。それは本当か?」

「はい。間違いなく確認しました」

「そうか……。もしかしてラドか?」


 ラピエールの言葉への返答がなぜ俺の名前なんだよ……。俺を見るファラドに俺は首を振って答える。


「違いますよ、アドリックが仕留めました」

「そうか、アドリック様が」


 俺がアドリックがやったと答えれば、今度はファラドは心底嬉しそうな顔になる。そんな顔を見るだけでもファラドにとってはアドリックは我が子の様に大事な存在なんだなと感じる。

 こんな所でも義将ファラドの印象を受け、俺は少しジーンとしてしまう。


「という事は、あのゴブリンの死体は影食いだったか」

「おそらく。影食いが現れたのなら、ゴブリンは対処もできずに魔力を吸われるだけでしょう」

「そうだな……。それにしてもあの影食いをな」


 うんうん。再びファラドが嬉しそうにアドリックをみる。しかしそのアドリックはそれほどうれしそうな表情をしていない。


「確かに、トドメを刺したのは俺だけど。ラドがいなかったら今頃俺達が生きていたか……」

「いやいやいや。そんなことは無いと思うけどな」


 アドリックが突然とんでもないことを言い始める。俺は慌ててその言葉を否定するが、アドリックは引かない。


「まず、ラドの魔力視が無かったら、俺達は影食いに気が付くことなく、ラピエールを失っていた……」

「確かに。あの時俺の魔力が影へと吸われているのに気が付いたのがラドクリフ様でしたね」


 二人にそんなことを言われると、妙なプレッシャーを感じて辛い。


 魔力を見れたのは俺だけだったかもしれないが……。そのためのパーティプレイだ。みんなで得意不得意をカバーする物だ。


「それに、リュミエラに取りついた影食いに気が付いたのもラドだ。ラドが影食いを追い払った時も、俺は動くことが出来なかった」

「でも、ほら。追い払うしか出来なかった訳で」

「そして影食いを自分に呼び寄せたんだろ?」

「えっと? たまたまだよ」

「そんなはずは無い。あの時、ラドは例の魔力操作の恰好をしていただろ。俺はすぐに魔力を地面の方に流して魔物を誘っているんだと気が付いたが」

「ははは……。そうだったかな」


 うわ、見てるんだな。


「もっと自分の実力を誇れ」

「わかってるさ……。ただ、俺達はパーティーだろ?」

「そう、だな」

「今回はたまたま相性が悪かったかもしれないけど、セヴァは抜群に硬いタンクだ。ハティは誰よりも素早いし、リュミエラは怪我をしても治してくれる安心を与えてくれる」

「……ああ」

「アドリックは……。なんでも出来そうだけどね。ただ、それでも足りない部分を俺達が補ってる。今回は俺の魔力の扱いが上手いってのがたまたま型にはまっただけだと思うよ」

「……なるほど。ラドらしいな」

「そうかな? まあ、あとは頭は良いな。少なくともセヴァよりはな」


 俺の発言にセヴァが不満げに「筋肉は俺のほうが多いんだ!」と抗議をするが、ま、俺はこのパーティーが気に入ってるからな。


 誰が上とか……。いあ、アドリックはリーダーとして俺達の上で良いが、皆で支えあえれば、もしかしたらエリックのハーレムパーティとも張り合えるかもしれない、なんて期待だってしてるんだ。


 すっと横を見れば、ファラドも好々爺の様にうんうんと頷いている。


 ……。


 ……。


 ゴブリンの数が減った謎も解決し、集落の整理等が終わると俺達は速やかに帰路へつく。と言っても今日中に領都まで帰るのは無理なため、一泊村で野営をする形だ。


 村に戻ると、村長を始め村人たちが俺達に食事の振る舞いなどをしてくれる。

 領の問題ということで、駆除に料金は発生ししないのだが、こういったお礼はよくあることらしい。


 キャンプファイヤーの前で肉を頬張っていると、隣にアドリックが座る。


「そういえば……。あの時の魔法だけどさ」

「魔法? ……えっと。どの時?」


 げ。そう言えばあの時、リュミエラを守ろうとつい拳銃の魔法を使っていた。確かに初めて見る魔法にアドリックも気になったのだろう。


「どの時って、ラドは影食いと戦ったときしか魔法は使ってないだろ?」

「そ、そうだったね……。えっと、色々と夢中でさ」

「あの時どう考えても、二行でストーンバレットを発動してたよな?」

「え? あ、ああ……」

「どうやったんだ? ルックはそんなやり方教えてないぞ?」


 ああ、そっちか……。ルックは俺達に魔法の基礎を教えてくれているエクスマギアの魔法使いだ。

 確かにそっちも俺は練習会じゃ出さないでいたな。


 ……でもこっちの方はまだ話しやすい。


 俺は、リュミエラを助ける時に出会った魔法使いが「略式詠唱」というのをやっていたのを見て、本などを調べてその練習をこっそりやっていたのを話す。

 イメージと、詠唱のハイブリッドで行を一行減らすというやり方に、近くに居たリュミエラまで興味津々で聞いてくる。


 それはもとより隠すつもりはない。俺は、丁寧に二人にやり方を教えていく。


 とは言ってもそんな簡単には出来るものではないが、多分エクスマギアの魔法使いならある程度分かるんじゃないかとはおもう。特にルックは二行の魔法なら無詠唱で使えるほどの人材だ。


 物の本によると、詠唱タイムを短くするための上級技として「略式詠唱」をする派閥と「高速詠唱」を訓練する派閥の二種類がある。

 原作ではたしか、ラドクリフは高速詠唱をしていた。


 そうなると、もしかしたらルックは実戦では高速詠唱をやり、略式詠唱は使わないかもしれない。


 それも、今度の練習会で聞いてみるのも面白いかもしれない。



 そんな事を考えながら俺はふと空を見上げる。


 空は雲一つ無い綺麗な夜空が広がっている。半月が若干明るいため星の数は新月のときよりは少ないかもしれないが、光害も無いこの世界じゃ、日本で見られる夜空と雲泥の差だ。


 月か……。

 

 月?


 ――あれ。もしかして。


 俺はふと、大事なことを思い出す。確か原作の小説ではエリックが襲われるのは……。


 突然に攻略の道が開ける。


 よし……。もしかしたらなんとかなるかもしれない。


 と。


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