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61 ダンジョンもどき 2

 館に戻る頃にはだいぶ体調も戻ってきていた。

 どうやら、失魔症というほどの状態ではなく状態とすればエリックが魔力を増やすためにやっていた、魔力枯渇による意識喪失のレベルだとは思う。


 ……これで少し魔力量があがったりするかもな。


 そんな事をぼーっと考えるが流石にハティにそれは言えない。


 時間はようやく日が傾きだしたころだ。俺は部屋に向かって歩きながら、途中であったメイドにティリーを俺の部屋に来るように伝えてもらう。


  そして俺はそのまま部屋に戻らずに書庫へと向かう。とりあえず先ほどの現象について調べたい。


 うーん……。とりあえず二冊ほどダンジョン関連の本を手にしてそのまま部屋へと戻った。




 ……ふぅ。


 本を持ってきたものの、まだ頭はスッキリしない。だいぶ魔力は戻って来ては居るのだが、意識を失うほど魔力を失ったのは失魔症以来では初めてだ。

 本をサイドテーブルに置くと、そのままベッドに寝転がる。


 俺は天井を見ながらあれが何だったかを考える。たぶん原作ではああいった不思議現象は出て無いと思う。ハティが口にした「ダンジョンもどき」というのも初耳だ。


 単純に考えれば、魔力が噴き出る場所が発生して、その周りで魔物を呼び寄せるような効果がある……とかか?

 ダンジョンの魔物が溢れるというのもあるとは思うが、間口も小さかったりあそこから魔物が溢れるという事はあまり考えられないしな……。


 トントン


 俺が考え事をしているとノックがしてティリーが入ってくる。ティリーは俺がベッドに寝転んでいるのをみて眉を寄せる。


「ラドクリフ様。魔物狩りをした服のままベッドに上がるのは……」

「え? ああ、ごめん。少し体調が悪くて」

「体調が? 申し訳ありません、そうとは知らず」

「気にしないで良いから……。そうだね。服くらいは脱げばよかった」


 そう言うと俺はベッドから降りて、服を脱ぐ。それを見てティリーが洋服ダンスから部屋着を取り、俺に渡してくれる。


「その、大丈夫ですか?」

「うん。完全に意識を失っちゃってね。ハティには心配かけたよ」

「意識を? 本当に大丈夫なのですか?」

「調子に乗って魔力を放出しすぎちゃってね。今はもう大丈夫だから気にしないで」

「気にしないでって……。ラドクリフ様は一度失魔症になられたのですから……」

「あれは魔力をコントロール出来なかったから成っただけで、今はもう完全にコントロール出来ているんだよ。ただその、ちょっとイレギュラーがあってね」


 まあ、確かに失魔症も起こしたというのは心配のもとになるのだろう。なおも心配するティリーをなだめる。


「それでさ、今日はちょっと外で遊びすぎて体調悪いからって、夕食は部屋で取ると伝えてもらって良い?」

「わかりました……」

「あ、魔力の話は言っちゃ駄目だよ。また医者に魔法を使うなとか言われても困るしね」

「分かっております。お食事はなさいますか?」

「ああ、軽くなにか持ってきてくれれば」


 まあ、これで今日はあのグレゴリーの顔を見ないで済む。晩餐に顔を出せないわけじゃないが、理由があるというのは良いことだ。


 ……。


 ……。


 その後、食事前にティリーが用意してくれたお茶などを飲んで、更に体調は戻って来る。すっかり良くなると、なんとなく食堂に行かない事に後ろめたさが出てくるが。

 そんな気持ちを押さえつけて俺は本を調べていた。


 こんな中世みたいな世界だが、各ジャンルで割と色々な研究者がいる。こういった研究者は大抵が国の研究施設のようなところに所属していたりするが、作者の紹介欄に書いてある。ただそれが全てでなく他にもそれとは別に個人の趣味で研究をしていたりするものも居るようだ。


 読んでると、確かに研究所所属の方が内容がしっかりしている気がするが、個人の研究は結構面白い角度での研究が有ったりしてそれはそれで楽しい。


 その中で魔物関連は個人での研究が多い。冒険者を引退して、今までの経験を記したような物が多いのだが、ダンジョン関連も同じように冒険者が記した物が多いようだ。


 ……うーん。


 どうもそういった書物には、ダンジョンに出てくる魔物の話しや、ボスのポップ、トラップの種類などを経験を元に書いてあり、ダンジョンの成り立ち的なシステムに関しては書いてない。


 それでも、トラップ関係は読んでいて参考になるためいつの間にか集中して読んでしまっていた。気がつくと、俺の夕食をティリーが運んできていた。


「ありがとう……。あれ?」

「どういたしました?」

「うーん。なんか野菜が多くない?」

「体調がすぐれぬということで、油っぽい物は控えました」

「でもこれじゃあさ……」

「昨日もラドクリフ様はお肉ばかりお食べになられてましたよ、もう少しお野菜を食べたほうが良いと思います」

「そ、そうだね……」


 う。俺が野菜をあまり食べないのを気にしていたようだ。そう言えば今朝作ってくれたお弁当も妙に野菜率が高かったしな、あれはもしかしたら肉が高いとかそういうのじゃなくて、単純に俺とハティの偏った食生活を気にしてのメニューだったのかもしれない。


 おれがむしゃむしゃと食事をしているのを横でじっとティリーが見ている。


「大丈夫だよ。ちゃんと野菜は食べるから」

「そ、そうですか……」

「うん。残さず食べれるから」

「はい……」


 いつも、朝食や昼食の準備をすると出ていくのだが、今日はちょっと変だ。


「ん? どうしたの」

「い、いえ……。体調が悪いという事でしたので……」

「まあ、もう大丈夫だよ?」

「そ、そうですか……」

「ん?」

 

 なんとなくティリーの様子に違和感を感じる。えっと、何か俺に用事でもあるのだろうか。


 俺は食事の手を止めて、じっとティリーを見る。用事じゃ、無いのか?


 ……ああ。もしかして……。


「ご、ご迷惑でしたか?」

「いや、迷惑じゃないよ、そうだね。確かにまだ体調が微妙かな」

「え? 大丈夫ですか?」

「ティリーもずっと立っていると疲れちゃうからさ、座っていなよ」

「そんな。とんでもありません」

「ここに居たいんでしょ?」

「え?」

「グレゴリーでしょ?」

「あ……」


 正解か。日中も、もしかしたらグレゴリーに色々言われたのかもしれないな。昨夜の夕食時も結構ティリーに絡んでいたのを思い出し俺も少し気分が悪くなる。


 たしかにそうなるとティリーにはしんどいだろう。


 真面目な子だから、座っていいよと言ってもなかなか座ってくつろぐなんてことは出来ない子だ。俺は適当にティリーがどのくらい文字を書けるように成ったか見たいと言い、机につかせる。


「もう大体文字は書けるの?」

「多分、読むことに関してはあまり苦労をしなくなりましたが……」

「字は一杯書かないとうまくならないよ」

「そ、そうですね」


 字を練習するにも紙などは庶民には使えない。ハティに渡した黒板とチョークで書くくらいだとは思う。そのチョークも最後に渡したのは少し前だからもしかしたらもう無くなってるかもしれない。


 机の上には俺が本を読んでメモした紙が大量に積まれている。それをどかして、新しい紙を置く。そして恐縮するティリーにペンを持たせた。

 ティリーの仕事の終わる時間までは勉強をしてもらおう。

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