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59 ハティと魔物狩り

 翌日俺はまだ朝早く薄暗い時間にハティと出かける。迎えに行くとティリーが呆れたように笑って、俺達にお弁当を手渡してくれる。

 なんか気楽に釣りにでも出かける感じだが、よく考えれば危険もある魔物狩りというから、慣れとは怖いものだ。普通に出かけてしまう。



 昨日ハティと約束した通り、山にレベル上げに行く予定だ。もう雪は無いので馬で一気に登れるので楽だ。


 山の麓まで来ると、入口に馬を繋ぎ、魔物よけと言われる護符を張っておく。どこまで効果があるのかは分からないが、隊商の馬車などにもよく貼られたりするような簡単な物だ。強い魔物には効果があまり無いらしいが、ここらへんなら問題ないだろう。


 そして俺達は山の中へと入っていく。


 ここは、シロップの採取をしている山とは少し別の山になる。ここ最近魔物が少し多いということで去年くらいからたまに駆除の依頼がギルドに貼られている。

 と言っても、エクスハントが出張る程問題があるわけでもなく、スコットはハティのレベルを上げるためにここが良いと教えてくれた場所だ。


 俺もハティも魔力の操作はかなり上達している。

 足に魔力を集めると、駆け上っていく。二人とも平地をダッシュするようなスピードをキープしながら一気に山奥深くまで侵入していく。魔物狩りをするには山の奥に行くほどエンカウントも増えるんだ。


「どうだ? 感じるか?」


 魔物の気配を察知する技能に関しては、ハティはかなり優れている。俺はどちらかと言うと目に魔力を集め、空気中の魔素の乱れなどで魔物を探してしまう。そのせいかなかなか気配を察知するといった能力が伸びない。


 スコットに目に頼るなとは言われているのだが、どうしても癖で見てしまう。


 そこら辺は、俺が臆病だと言うのに原因があるのだろう。情報が無いと怖いというのがあるんだ。その点ハティはスコットの言う事をちゃんと守ってるようだ。


「あっちの方、かな?」

「おっけ」


 二人のときは俺も魔法使いとしてきっちり戦う。山の中を駆け回るにはローブは若干邪魔だが、魔法使いのアイデンティティを堅持するためにこれを脱ぐわけにはいかない。


 俺はハティの後ろを魔物に向かって走る。やがて木々の向こうに魔素の乱れが見えてくる。


「あれか……」

「まためんどくさい奴ぅ!」

「よし、俺だな」


 この山にはストーンドールと呼ばれる魔物が出る。行ってみればゴーレム劣化版でその名の通り石でできた人形だ。

 スコットの話だとレッドボアなどの動物系の魔物とは違うカテゴリの魔物だという。精霊系の魔物だという話で、その中でも地属性の精霊だ。

 地魔法を使う俺にとっては同類系になるのかもしれない。


 ストーンドールは剣に分厚く魔力を通さないと、すぐに刃こぼれをする。ハティでも倒すことが出来ないわけでも無いのだが、石に向かって自分の剣を向けるというのは感覚的に嫌なんだろう。


「ちょっと試したい魔法があるんだ」

「新しいやつ?」

「新しいって訳でも無いんだけど……」


 最近練習していた魔法だ。銃などの俺の地球の知識を持ち込んだ物でなく。この世界に昔からある魔法だ。そして、それはリヴァンスハントの時の魔法使いが見せたやつだ。


「縛鎖のマナよ……」


 そして、それをサーベロの見せた略式詠唱で、頭の二行を、一行に短縮する。


「罪深きものを絡め捕り その力を封じよ!」


 リヴァンスハントの時は動きを止める事に主眼を置いた魔法だった。攻撃力はセプテムという規格外の武器に任せた物だった。

 今回は、俺の作り出したチェーンに捉えられた魔物の力そのものを封じる。石の体を覆う魔力も封じることにより、その耐久性も大きく損なわれるという訳だ。


 杖から伸びたチェーンがストーンドールに絡みつく。そして俺の目にもドールから放たれる魔力量が減るのが分かる。


「よし! ハティ今だ!」

「え? 何であたしなのよ! アイアンバレットで砕くんじゃ無いの?」

「大丈夫。きっと脆くなってるから」

「ほんと?」

「早く。鎖を出してる間魔力を使い続けるんだからっ」

「うう……。分かったわよっ」


 ハティはぶつくさと文句を言いながらもストーンドールに斬り付ける。俺の言う通りハティの剣はさほど抵抗を受けることなくスッと斬られる。


「おお。本当だった!」

「だろ? どうだ。すげーだろう」

「でもさ、バンってやれば一発で終わるじゃん」

「う……。良いんだよ。新しい魔法使ってみたいだろ?」

「ま、成功していたからね」


 ハティはそう言うが、これは攻撃魔法とは少し違う。この魔法の奥深さはチェーン効果をいかようにも調節できるところにある。


 先程のように相手の魔力を削ったり、リヴァンスハントの時に魔法使いのように動きを封じることを優先させたりと、工夫次第でいろいろな効果を付与できるということだ。


 正直なところ、そういった付加の効果が地属性なのかと言われると疑問がある。混合魔法自体はこの世界にもあるのでそういった魔法なのかとも考えたりもした。そこでチェーンに雷魔法を乗せて、スタンガン効果を持たせようとしたがそれは失敗に終わる。


 わけがわからない。


 複雑な混合魔法は原作でエリックが使ったりしていたが、今の俺ではまだまだ使えない。練習はしたんだ。でもすぐに今の俺では無理だと思い知らされた。

 だから、というかそれなのにこういった効果を付与させられるというのは別の属性の魔法を混合させているワケではないんだろうな、なんて言うのが俺の結論だ……。


 とはいえ、アドリックたちとパーティープレイを楽しむならバレット系の攻撃魔法より、こういった絡め手みたいな魔法を使ったほうが良いんじゃないかと、ここのところずっと研究していたんだ。


 その後も魔物を倒しながら俺達はどんどんと山奥へと入っていく。


 ……それにしても、多いな。


 去年辺りからここらへんの魔物が多いとは言うが、確かに遭遇率が高い。いつもアドリックたちと行くあの森と比べると、効率も全然いい。


「どうした? なんか不満げだな」

「不満って言うかさ。食べられる魔物が出てこないなって」

「ん……」


 もしかしたらハティが狩りで肉を取ってこないと、ハティの家では肉の出現率が低くなるのかもしれない。

 さっき食べたティリーが作ってくれた弁当も,妙に野菜が沢山入っていたからな。そう考えると、肉はマストだな。


「確かに、ボアやラビットのような肉は出ないな」

「一匹でも良いんだけどねえ。……あ。またハンガーブランブルだ……」


 ハティの言う通り、前からは木を伝ってツタ状の魔物がヘビのように進んでくる。ハンガーブランブルと言われるツタだけの魔物だ。その動きはまさにヘビ。人に巻き付いて動けなくして徐々に養分を吸い上げていくという意味不明の魔物だ。


 ただ、近づいてくる前に気がつけば、その対処は対して大変でもない。襲いかかるツタをハティは無造作に切り捨てるだけだ。




 そして、俺にはその向こうにある異様な魔素の乱れのほうが気になっていた。


「なあ、あれ……」

「んんん? 何あれ……」

「風穴ってやつか?」

「フウケツ?」


 眼の前の岩の塊のおそらく奥の方に、何か魔力が溜まっているような場所がある。その表面に開いた穴からは、シューと言った感じで絶え間なく魔素が吹き出ていた。


 そっと近づいていくが、穴というより積み重なった岩の隙間、といった感じだ。中に空間でもあるのだろうか。魔素が吹き出ているのは分かるが、特にガスのようなものが出ているわけじゃないようだ。


 ただ、何とも言えない存在感というか異質感、気持ち悪さがそこからは感じられる。おそらくハティも同じような感じなのだろう。


「なんだろう、これ」

「ちっちゃいダンジョンだったり」

「ダンジョン? ……まさか」


 ハティの言葉に俺はますます穴への興味が深まる。


「ちょっと石どけてみようか」

「中からなんか出てこない?」

「その時はその時だよ……」

「変なことばかりするんだから」

「いやいやいや。穴があったら覗いてみるのが人間だろ?」

「よくわからないよ」


 ハティは呆れてるようだが、俺はますますこの穴の中を覗いてみたくなる。手で少しずつ穴の周りの石をどけ始めた。


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