52 アルカとルード 1
俺達がギルドに入ると、ギルド内の空気がおかしいのに気がつく。
その理由としてカウンターで冒険者登録をしていると思われるアドリックとリュミエラの二人が真っ先に疑われる。
そこへ更に俺とセヴァ、そしてハティが入ってくれば、さらに違和感極まりない。なんせ、六歳~七歳の男女が五人で冒険者ギルドに入ってきているのだ。
と言っても、別の原因もあった。
「おう、坊主も来たか」
「あ、ど、どうも……」
義将ファラドだ。
侯爵お抱えのエクスハントのトップがいれば、どうしても目立つ。しかもエクスハントは領内の魔物を狩るのが仕事だ。
冒険者と仕事としては被っているわけだし。その冒険者が対応できないような魔物はエクスハントが出向いて討伐するものだ。
冒険者にとってもファラド将軍は憧れる存在でもあった。
当然侯爵令息と令嬢の二人が、こんな治安の悪そうな冒険者ギルドに二人だけで来るわけはない。護衛は居ると思っていたが……。まさかファラド将軍だとは考えもしなかった。
それにしても相変わらずファラド将軍の圧はやべえ。隣に立っているだけで背筋がひり付く。何をしゃべって良いかも分からず、俺は口数も少なく冒険者登録をしている三人の姿を見ているだけだった。
「ラドは登録しないのか?」
「え? あ、ああ……。もう登録してあるんです……」
「ん? ほう……。なるほどな」
「ははは……」
何が「なるほど」なんだよ……。しかもいつの間にか「ラド」になってるしよ。なんか色々見られてそうで怖えんだけど。
ビビり散らかす俺とは違い、ハティはマイペースだ。
「あたしももう登録したんだっ!」
「お? なんだ? おまえさんは」
「ハティだよっ」
「ハティ?」
だめだ、ハティに任せていると会話が怪しくなる。俺は慌てて間に入る。
「えっと。その僕の友達で――」
「今日はハティがラドの護衛なのっ」
「ほう? 坊主の護衛か?」
と、ファラド将軍の雰囲気が変わる。ジロッと鋭い眼差しでハティを見つめる。それでもハティは一向に気にもしない。
「ラド、馬にも乗れないからね。あたしが居ないと駄目なのよ」
「馬? ……なんだ、坊主。もしかして馬に乗れないのか?」
「あ、いやあ……。すぐだとは思うんですが」
「早く練習しておいた方が良いぞ」
「そうですね」
「エクスハントでは、乗馬技術が鍛えられる。荒れた山道でも走らないかんからな」
「そ、そうなんですね」
いやいやいや。なんか怖えよ。エクスハントの訓練所に来いとか暗に言ってそうで怖い。
それにしても。どうやら馬に乗れないのは俺だけなのか? そんな事を考えるが。ファラドは俺をまだまだ逃がすつもりは無いようだ。
「で、その格好って事は。魔法職で行くのか?」
「え? あ、はい」
「一応剣は持ってるな」
「……そう、ですね」
「魔剣士とかも目指してみねえか?」
「えっと? それはアドリックが行けそうじゃないですかね」
「ああ。あの子も才能は十分だからな」
「ですよね……」
「も」ってなんだよ……。
なんだこの空気感。俺はジリジリとした空気の中次第に疲弊していた。
「なんだ、ラドはもう登録していたんだ」
「うん。ちょっと前にこのハティと一緒にね」
「ん? ハティっていうのか? アドリックだ」
「こんにちは。ハティだよ」
そこへ冒険者登録を終えたアドリックが戻って来る。俺は少しホッとしながら、何気なくハティを紹介する。
アドリックは爽やかな笑顔でハティに挨拶をする。
お、一見してルードであるハティを前にしてもアドリックは普通の対応だ。俺はそれに少しホッとする。
「こんにちわ!」
「あ、リュミエラも冒険者登録するんだって? どうして?」
「どうしてって……。ラドだって冒険者登録するんでしょ?」
「そう、だけど?」
「私だって……。ら、皆と一緒に色んなところに行きたいから……」
「それは分かるけど。でもそんなの、危険だよ」
「それは……。その時は、また守ってくれますか?」
「え?」
「私だって怪我をした皆を治したいんです」
「あ、ああ……」
まあ、籠の鳥のように、ずっと家から出れないままでってのも辛いものか。外に出たいというリュミエラに俺は何も言えなくなる。
そして、登録をし終えたセヴァもやってくる。お互いに初めての冒険者証を嬉しそうに見せ合う。
……と。
「あれ?」
「どうした?」
「なんか、三人ともE級になってない?」
「ん? ……ラドは違うのか?」
「お、俺は……」
そう言いながら胸元のチェーンを引っ張り自分の冒険者証を取り出す。やっぱり俺の冒険者証には紛れもなく「F級」となっている。
「F級だよ? え? どうして?」
俺が慌てると、話を聞いていたファラド将軍が教えてくれる。
「ここはファルデュラス領だぞ? 当然アドリックが登録すれば優遇はされる」
「え? セヴァも?」
「一緒に登録したんだ。子爵家令息なら当然だろ?」
「そんな……」
やばい。そんな事を知らないで勢いで登録をしたため、そんな優遇措置を受けてない。俺は慌てて受付に向かう。
「申し訳ありません。冒険者証は一度登録をいたしますと、作り直しは出来ないのです」
「え……。そうなん、ですか」
「良いじゃん。私も同じF級なんだし」
「ああ、まあ、そうか……」
確かに、ハティだってF級だ。エリック達とあってそこから一気にS級まで行けるんだ。よく考えればそんなに気にする話でもなかったのか。
そう思いながら、アドリックに駄目だったと報告する。
「まあ、それは仕方ない。これから入学までにC級までは上げたい所だが、きっとF級からE級ならそんな時間はかからないだろう」
「う、うん……」
「ただ、パーティー登録は同じランクじゃないと駄目だったんじゃないか?」
と、アドリックはパーティーの登録を心配するが、それは問題なさそうだ。
前後一つづつ離れている分には問題ないらしい。
Eランクパーティーなら、D級、E級、F級の冒険者が所属できる、といった感じだ。逆を言えば、D級、E級、F級の冒険者が集まったパーティーだと、そのパーティーのランクは中央値が取られ、Eランク扱いとなる。
全く問題ないだろう。
よし。
「あの、パーティーなんだけど」
「なんだ?」
「この、ハティも一緒に入れてもらいたいんだけど」
「何?」
今まで穏やかだった空気が突然固まる。アドリックも一瞬俺の言葉を理解できなかったかのように眉を寄せて言葉をつまらせる。
そして少し逡巡した後に俺に訪ねた。
「ラド。一応聞いておこうか。なぜ彼女を?」
多分、アドリックは同じパーティーにルードが入るというのは間違いなく抵抗がある。その上で頭ごなしに拒否すること無く、理由を聞いてくる。
リュミエラが生き延び、闇落ちの一番の原因は潰した。そしてリュミエラが言うように、日常でもルードのメイドに「ありがとう」を言うように成ったという。以前のアドリックとは違う。
俺は確実に手応えを感じていた。




