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第43話 樹液採取 1

 ファルデュラス領が高地にあるのは知っていたが、この冬の冷え込みは予想以上だった。ただ雪に関しては里の部分はそこまで多く降るわけでもない。

 元々高地ならではの内陸的な気候なのか年間の降雨量自体が少ないのだろう。それでも周りに見える高山部分は皆真っ白な雪化粧が施されていた。館から少し山に登れば雪は増え始める。


 それでも、家の館の暖房設備は完璧だった。自分の部屋にまで暖炉がある。

 北海道の冬の様に、屋内に居れば快適な生活を送れるのは助かる。




 そんな冬もそろそろ終わりの兆しが見え始めていた。俺はスコットに頼んでドマーネ、モドン、エドモンドの三人を雇い入れ、例の白樺の群生地に向かっていた。


 ザッザッザッ。


 俺の足元にはカンジキがついている。いわゆるスノーシューの元祖のような物だ。大きい輪っかになったカンジキを靴に結びつけると、深い雪の上でも割と沈まずに進んでいける。


 若干慣れは必要だがこうして雪が残る山に登るときは必須の道具だ。本当はもう少し雪が減ってからの方が良いのかもしれないが、採取一年目の今年は、色々とデーターも集めないとならない。

 少し早めに来たというわけだ。



 元々は馬でサーッと行って。とそんな予定でいたのだが流石にこの雪山で馬は厳しい。日本のように雪が降ればホイールローダーが道の雪かきをしていく、そんなこともない。

 街道はある程度通行があるため、踏み固められているが、山に登れば登るほど人通りもほとんど無くフカフカの雪が積もっている。


 俺は短い自分の足で登っていく。それでも後ろには同じくらいの身長のハティも付いてきている。ハティは体力オバケだからな、全然へっちゃらな顔で付いてくる。

 冒険者であるスコットやドマーネ達にとっても慣れたものなのだろう。もしかしてしんどくて心が折れそうなのは俺だけだったりするんじゃないかと思える。


「大丈夫? ばれてない?」

「問題ないと思いますがね」

「そっか……」


 一応、冬になると冒険者たちも行動に制限が出る。時期的に薬草なども生えていないし、魔物も冬になると活動が減る。冒険者の仕事も美味しいものは極端に減る。


 やる気のある冒険者たちは、冬になると雪の少ない地方や、ダンジョンに籠もったりするようになるため、こんな時期の仕事を受けることに対し、何者かが探りを入れてきたりなんてことを想定してる。


 一応は内緒の計画だしな。




 この世界で難に思うことの一つに繊維の技術のローテクだ。日本の速乾繊維などの技術や、防水透湿素材などの技術がいかに素晴らしいかがわかる。

 汗の処理が本当に怖い。服が汗でビショビショになれば、それが冷えて体温を奪う。


 そういうノウハウも冒険者たちはあるんだろう。予想以上にゆっくりと、汗の量もコントロールしながら登っていく。


 やがてたどり着いた予定地もまだまだ雪は残っている。


 まずはあらかじめ建ててもらってあった小屋の周りの雪かきから始める。そして中に入り荒らされてないかを確認する。


 ……。よし。秋口の完成した時に見に来たが問題無さそうだ。さっそく薪棚から持ってきた薪を中のストーブに突っ込み、魔法で火を付ける。


「こういう時、魔法使えるの羨ましいっすね」

「シケってても魔法なら割と強引に火を付けれるからね」


 俺の魔法を見てドマーネ達が羨ましがる。マッチすらない世界なので、魔法が使えなければ火打ち石から火を育てていかないとならない。



 馬で来れば半日でここまで来れるが、徒歩だと流石に一日仕事になる。もう辺りも暗くなり始めているため今日はこのまま休憩だ。


 小屋はワンフロアで奥に三段の寝るだけの棚のようなベッドが奥の壁と右手にL字に二列あり、計六人寝れるようになっている。一応今回の様に泊まり込みで作業する場合のことも考えて設計してある。


 と言ってもサイズ的には十畳位の細長いベッド付きの倉庫といった感じだ。作業小屋として使うには十分だとは思う。もし大量に樹液が取れるとやや手狭に感じるのかもしれないが、表にもひさしの下の薪棚があり、そこに樽をおけるスペースがあるので問題ないだろう。

 とりあえずまずは試しの段階だ。


 薪ストーブは煙突が付いているので換気に関してもそこまで気を使わないで済む。そしてストーブの上で、樹液を煮詰める事も想定している形だ。

 今はそこでちょっとした料理を作っていた。


「おぅ。料理まで作れるのな」

「料理ってほどでもないよ。肉と野菜入れて煮込むだけだし」

「まあ、こんな山で温かいものが飲めるだけで十分だな」


 リュミエラの件以降、使用人とはだいぶ関係が良くはなってきたが、普段は料理などをさせてくれなんてまだまだ言えない。

 こういう時にキャンプ飯レベルだが自分で料理を作れるというのは実はなにげに楽しい。


 ま、ぶっちゃけスコットは放っておけば酒のんで済ましそうだし、ハティなんて料理は無理だ。ドマーネ達だって似たようなもので、肉を焼くくらいなら。という感じだ。


 それなりのものを食べるなら俺が作らないとならない。


 最近、少しだけ自由が効くようになった俺が少しづつ集めたスパイスを試しながらシチューを作ってる。煮込むだけだが結構楽しいんだ。


 ……。



 それにしてもハティは連れてくるつもりは無かったんだ。

 去年の秋口に何度かスコットとレベル上げをさせに山につれてきたのは確かだ。今回の出発時、冬は何も居ないと散々言いくるめたが、どうしても言うことを聞かない。

 俺がこっそりと修行をするんじゃないかといまだに疑ってる模様だ。



 そんなハティを無視して俺はドマーネ達に今回の依頼の趣旨を伝える。

 実はここまでほとんど情報無く来てもらってるんだ。申し訳ないが結構企業秘密だと思うので、そこら辺は大事だ。


 白樺の樹液を集める話をすると、不思議そうにモドンが聞いてくる。


「そんな樹液っていっぱい出てくる物なのか?」

「春のこの時期。ぐっと新芽を作ったりするような季節に根から大量の水分を吸い上げるんだよ」

「それが甘い、と?」

「集めた樹液だけだと、そこまで甘くないけどね。それを煮詰めてシロップ状にするつもりなんだ」

「煮詰めるほど集まれるのかよ、本当に」

「まあ、それを確かめる実験でもあるんだ。色々データも取りたいから頼むよ」


 本当かどうか分からないが、たしか地球で見たテレビでは、不凍液のように冬の間樹液の糖度を上げて居るのではないか、というのはなんとなく記憶にある。

 しかし、まあ固体液体気体の話をしてもどこまで理解してもらえるか分からないのでそこらへんは適当に説明する。


 そして三人にこれからしばらくの仕事の指示をしていく。


 樹液の採取方法は明日やってみせるとして、必要な事項を伝えていく。

 三人とも文字は読めないが、数字くらいは分かる。俺が必死に作ったノートに毎日の採れた量や、その日の朝、昼、夕の気温など書き込んでもらう。


 厳密にどの時期が一番シロップが採れるかははっきり言って分からない。テレビで雪解けの時期に、山の中で作業していたのを覚えていた為今日から始めることにしたが、今後ビジネスとしてちゃんとやっていくにはデーターが必要になる。 


 本当はずっと俺がここに籠って居れば良いのだが、そうもいかない。ここでドマーネ達の働きが大事になる。


「いったいこんな情報集めてどうするんだ?」

「樹液の出る正確な時期や特性をしりたいからね」

「……よくわからんがプロスパーのやり方って事だな」

「うーん。まあ、そんな感じで」


 最近ちょっと父親の機嫌が悪い気がする。そんな姿を見ていても勝手にエリックとの交渉が決裂したのか、などと邪推しているが。俺としても出来るだけキッチリしたデーターを父親に見せてエリックから手を引かせないといけない。


 遊び半分の気分でも無いんだよな。


 いよいよ明日からシロップの採取が始まる。

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