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第42話 章の終わり

 重いと言いながらも子供の体だ。レベルも上がってるし筋力を魔力で増幅すればなんとかなる。


 死体はそれでも、山賊側の物が多い。

 当然数で圧倒してはいても、個々の能力は正規の兵士の方が高いのは当然だ。


 問題はサーベロという存在だったのだろう。護衛の騎士でやられているのは多くがひどいやけどの痕が見られる。火に包まれたところを斬られたりなどあったのだろう。


 それでも、何とか持ちこたえた。

 原作での悲劇を止められたと思えば、大成功のはずだ……。


 だけど、俺が出発の日をちゃんと確認していればここまでの犠牲は出なかったんじゃないかと考えると、完全には喜べない。



 おそらく、確実に安全を確保できるまでは護衛対象の要人は馬車の中にいてもらう、などの手筈があるのだろう。それでも馬車の中のリュミエラは無事に山賊を退けたという話はすでに伝えられてるとは思う。


 俺はそっと馬車に近づき、戸をノックする。


「……はい」


 中からはリュミエラとは違う女性の声がした。夫人かと思ったが少し声が若い。


「えっと、ラド、ラドクリフ・プロスパーと申します」

「えっ!」


 と、今度はリュミエラの驚いたような叫びが聞こえ、ごとごとと中で動きが起こる。


「リュ、リュミエラ様!」


 どうやら中には数人の大所帯になっていたようだ。おそらくだが、戦えないメイドなどは一緒に馬車の中に入れたのではないだろうか。


 やがて、戸が開くと、堰を切ったように三人のメイドが馬車から飛び出し、次いでリュミエラが顔を出す。そのまま俺の顔を見るとぱっと顔に笑顔を浮かべ走り寄る。


「ラドっ! え? セヴァ? 大丈夫!?」

「あ、セヴァは大丈夫。ちょっと気絶しているだけだよ」

「よかった……」


 それはそうだ、リュミエラはホッとしたようにセヴァの顔を覗き込む。


「本当……ね。よかった……」


 そして、周りの光景に目をやる。リュミエラは多くの死を前にショックを受けているのがわかった。それをじっと見て何かを耐えるように……。

 俺はそれをそっとフォローしようとする。


「リュミエラのおかげで、みんな戦えたんだよ……」

「違う。私たちがいなければ襲われることは無かったのよ」

「それも違うよ。彼らは誰でも良かったんだ。お金を得られるなら」

「だけど……」

「リュミエラの魔法のおかげで、兵士たちは最後まで誇りをもって戦えたんだ。今は自分を責めるより、共に戦った仲間を讃えてあげよう」

「……仲間?」

「リュミエラの魔法は僕もセヴァもちゃんと知ってる。本当に勇気が出ていつも以上に力が出るんだ。それが無かったら本当にダメな時だってね」

「ラド……」

「ほら、それに戦える僕達が悪い奴らを退散させたんだ。今後同じように襲われるかもしれなかった他の犠牲者を減らせたかもしれない」

「うん。……ラドはすごいね」

「すごくないよ。プラスに考えたいだけ。かな?」

「そうね……。ありがとう」


 リュミエラの目には怒りや憎しみなどは一切に浮かんでいなかった。おそらく、この子は山賊側の死骸にも憐憫の情を寄せている。すべての死に悲しみを感じていた。


 それゆえに、聖女の資質……。


 泥だらけの俺には、リュミエラの頬を伝う涙を拭く物なんてない。俺はただ黙ってこの清らかな少女の隣で立っている事しか出来なかった。


 ……。


 この場はもうファルデュラス領からかなり離れた場所であり、もう数日で侯爵夫人の実家へ着く距離だ。一度侯爵領へ戻ることも提案されたが、夫人の一声でこのままピレーノを目指すことに成った。


 兵士たちはすぐに予備の車輪へと交換し、亡くなった仲間を弔うと出発する。


 セヴァもまもなく目を覚まし、リュミエラの無事を素直に喜んでいた。



 俺達はスコットやフェルトと共に欠けた護衛を補うかのように馬車につきそう。当初の約束通り、ドマーネたちは賞金首の死体を見つけては頭陀袋に放り込んでいく。一緒に俺達と行き、次の村のギルドで賞金首の清算をするという。


「悪かったな。セヴァの旦那を逃がしちまってよ」

「しょうがないよ。セヴァもレベルを上げているからね。小さいくせに素早いんだよ」

「小さいとか言うなよっ。ラドの方が小さいだろ?」

「ははは。でも、セヴァの盾のおかげでうまく行ったし、結果オーライだよ」

「お、おう……」


 それでもこの三人は気に入った。スコットしか駒の無い俺にとっては是非とも押さえておきたい人材ではあった。


「もしよかったらもう一つ手伝ってもらいたいことがあるんだよ。当然お金は払うよ?」

「手伝ってもらいたいこと? なんだ? 良いぜなんでもやってやるよ」

「すぐでは無いんだ。春……。そうだね、雪が解け始めた頃、三人にはやってもらいたいことがあるんだ。その頃には絶対ファルデュラスの街には居てよね」

「良いけどよ、春? まだまだ先だぞ? 何をやろうってんだ?」

「それはね? ふふふ。まだ内緒だよ」

「お、おう……」


 俺は新たな人足を見つけてほくそ笑む。視線を感じて上を見上がればスコットがヤレヤレと言った顔で俺を見つめていた。



 いずれにしても、そのまま護衛としてピレーネの街まで行った俺達は、夫人の両親達からも若き英雄としてもてはやされる。

 そして、俺とセヴァは楽しい夏休みを、ピレーネで満喫した。


 ……。


 ……。



 俺の当初の予定の通り、スコットやフェルトを雇った護衛の報酬は侯爵家から出してもらう事になった。俺とセヴァはわざわざリウル山の山賊の話を聞いて、人を雇ってリュミエラを追い、救出をしてくれたということで、侯爵領でも一躍ヒーローの様な扱いをされる。


 それには父親もかなりご満悦だったようで、どんな杖が欲しいかと聞いてきた。


 ただ、今の俺にはちゃんと杖がある。


 サーベロが持っていた杖だ。少し禍々しい黒檀の杖だが、かなり優秀な宝珠が埋め込まれているようだ。そして魔力回復を促進させる指輪。さすが大物魔法使いの装備だ。すばらしい。

 ただ、指輪のサイズはかなり大きいのでしばらくはチェーンを通してネックレスとしてかけて置こうと思う。


 俺はそれを親や侯爵に報告をせずにガッチリ自分のものとする。スコットに確認はしたが、冒険者の世界じゃ当たり前だと言われる。


 いずれにしても、当初の目的であるリュミエラの事故は無事に防ぐことが出来た。


 おれの「悪役更生プラン」は順調に進んでいる。

ありがとうございます。

これで1章が終了となります。

いかがでしょうか、もし楽しいんでいただけましたら評価等いただけたらと思います。


ていうか反応無さすぎて……。続きいらないかな^^;

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