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第41話 サーベロ 2

「セヴァ! 構えるだけじゃ駄目だ。もっと魔力をっ!」


 とっさに走りながら叫ぶ。セヴァはまだそこまで魔力が充実しているわけじゃない。魔力操作にもまだぎこちなさを感じる。


 くっそ。とても駄目だ。


 俺はセヴァに覆いかぶさるように後ろから一緒にシールドの柄に手を振れる。

 同時にセヴァの腕や色んなところに触れてしまうが、体勢を調整できるほどの余裕なんて無い。


「フンッ!」


 もう無我夢中だ。銃の魔法の為にためていた魔力を、発勁の要領で一気にシールドに向かって流す。父親がそれなりのものを渡していたのが救いだ。


 フォオオオォオン


 俺の大量の魔力とが流し込まれたシールドは、それを確実に受け止める。すぐにシールドが淡く光り、魔力の層を盾の表面に形成していく。ギリギリ間に合った。

 そこへサーベロの火球が唸りを上げて衝突した。


 ゴォオオオオオン!


 衝突した魔法は、直進するベクトルを潰されその場で爆発を起こす。それを受け止めた盾は、一瞬内側に折れるのでは無いかと思えるほど軋む。盾の周りまで爆発の余波が広がっているはずだが、盾を覆った魔力の膜がひさしの様に広がり、その余波まで周りに受け流す。


 一瞬の攻防の後、盾は俺達を完璧に守り切る。


 ……セヴァ?


 だが盾を持っていたセヴァがそのまま崩れるように倒れ落ちていく。一瞬そちらに意識が向いてしまうが、今は……攻撃のターンだ。俺は気持ちをサーベロへと向ける。


 もうここしか無い。

 俺は魔法を詠唱しながら一歩前へ出る。この魔法にセヴァを巻き込むわけには行かない。 


「我が魔力よ…… 数多の鉄球のマナとなり……」


 発勁を一発撃った俺には、もう魔力の底が見えていた。なんとかこの一発を成功させるしか無い。幸いな事にこの場で魔法の爆発が発生したせいか、魔力濃度が高くなっている。


 俺は大気の魔力を吸いながら、両の手を站椿功の様に丸く指先を合わせる。

 手の甲はサーベロのいる方へ向ける。サーベロの周りでも、セヴァの動きに反応した何人かの野盗もこっちへ向かってきているのが見えた。


 そしてこの角度に護衛の騎士等の味方は居ない。


「クソガキめ……」


 サーベロは、爆発の土煙で一瞬視界が覆われたのが原因か、それとも殺れたという油断か、俺の魔法に気がつくのに遅れていた。そして、自分のトドメのつもりの自信の魔法が不発に終わったことへの不満なのか、不機嫌そうな表情で先ほどと同じ様に防御の魔法を詠唱する。


「何度やっても同じだ……」


 そんなサーベロの油断も、俺としては必死に作ったシチュエーションだ。思わず口元をニヤリとほころばす。


 ◇◇◇


 一度に大量の敵をと考えた時に、まず脳裏に浮かんだのはマシンガン等の連射系の銃だ。しかしそれは何度も言うように大量の魔力を消費する為厳しい。そこで考えたのが散弾銃だった。


 その散弾銃も、脳内イメージの刷り込みで撃つとどうしても放射角が弱く一体の人間に面で攻撃する、といった角度しか出ない。うまくやって並んでる二人を狙うというくらいだ。そうなると、普通に銃の魔法を連発するほうが上策に思えてくる。


 そんな中、俺は必死に他のアイデアがないかと考え続けていた。


 魔法のイメージは簡単な方がより成功しやすい。より簡単なものを、より広範囲への攻撃を……。それはもう何日も何日も悩み続けていた。

 そして、大量の敵への攻撃。それは銃でなくても良いんじゃないかと思い至る。


 M18クレイモア対人地雷。


 ミスナイ・シャルディン効果によって前面へと指向性を持たせた爆風が700粒の鉄球を前面へと弾き飛ばす。地雷としては凶悪であるが故に、対人地雷禁止条約にひっかかる。

 それでもリモコンなどでの手動で起爆をさせることで、条約をすり抜けたという武器だ。


 広範囲に対応する散弾性の攻撃としては最適に思えた。


 もちろん大量の鉄球を召喚する以上、相当な魔力を消費するのだが、マナを吸う呼吸を覚え、鉄球の数を抑える事で、それでも何とか実戦に使える目処が立った。


 ◇◇◇


 何度も試行錯誤した。

 この一発の為、二か月を費やしたと言っても間違いじゃない。枕の詠唱を終わらせた俺は、脳に確と作り上げたイメージをそのまま魔力の塊にぶち込む。ずっと練習してきたハイブリッド魔法だ。ミスなどしない。


「爆ぜろ クレイモア」


 突如相手に向けた手の甲に強い刺激が襲う。同時にミスナイ・シャルディン効果による爆風は前面への指向性の散弾を撒き散らす。

 鉄球に襲われた野盗達は一気に体を穴だらけにされ倒れていく。


 それは俺と自分とのラインを石だけで防ごうとしたサーベロも同じだった。俺の攻撃など、石の精製で十分防げる。もはやそれも油断だった。


 サーベロは石の防御で上半身に致命傷を受けずには済んでいたが、足には大量の穴が穿かれていた。俺の見ている前で、苦しそうに膝をつく。

 俺はそれを見下ろしていた。


「な、なんだ今のは……。しかも略式詠唱までしやがって……」

「略式詠唱?」


 悔しまぎれの一言だったのだろう、さがサーベロが漏らした言葉に俺は思わず反応する。


「……俺としたことが……くそ」

「え? え? もしかして、詠唱短いのって、その略式詠唱ってやつ? え? もしかして詠唱魔法に無詠唱の技術を混ぜたりしていた? どうやってたの?」


 「略式詠唱」の言葉に思わず興奮してしまった俺は、話を聞こうとする。俺のハイブリッド魔法がもうすでにこの世界にある技術なら……。もう少し先人たちが磨いた技術を聞きたい。

 ただ、俺の思いとは裏腹に、サーベロの口からは次の詠唱が始まる。


「炎獄のマナよ……」

「え? ちょっ――」

「業火――」


 完全に勝負が決まったと思っていた俺はとっさの反応が遅れる。ただ、この距離では詠唱を必要とする魔法より、俺の剣の方が……。


 しかし俺が動く必要はなさそうだ。現にサーベロはその詠唱を最後まで唱えることは出来なかった。


 俺が見ている前で、首から筋が入り、体と別れを告げる。ゴトンという重い音が、サーベロの人生の終了を表す。


「馬鹿野郎……」

「あ……。ご、ごめん」


 スコットだ。


 スコットは俺の言葉に不機嫌そうに刀を振り、血糊を払う。


「ま、だが今回は及第点ってところか?」


 そして、そう言いながら周りを見回す。俺も釣られて周りを見れば、サーベロがやられたことで、野盗達は一気に恐慌状態へと陥っていた。


 ……そうだ。


 俺はすぐに後ろを振り返り、セヴァを確認する。


 うん。大丈夫。おそらく俺の発勁による魔力がセヴァの体にも流れ、それでショックを受けただけだと思うな。今は気持ちよさそうにいびきをかいて寝ていた。


 ふふふ。


 安心と同時に、戦いの終わりを知る。



 まあ、今回はセヴァも一緒に手柄を分けよう。


 俺は重いセヴァを必死に持ち上げ、リュミエラのいる馬車に向かって歩いていった。

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