第40話 サーベロ
ん?
俺の詠唱に気が付いたのだろうか、サーベロは突然魔法の詠唱を止めこちらに目を向ける。その魔力の込められた目は、目が合った瞬間に背中をゾクリとした寒気が襲う。だが俺の詠唱は完成間際だ。俺は一気に魔法を完成させる。
と、一度魔法をキャンセルしたサーベロに再び魔力の動きが見える。
――もう遅い!
俺の魔法は言ってみれば拳銃で撃ちこむようなものだ。撃った瞬間には相手へ当たる。つまり撃った瞬間に勝ちを見た俺だったが……。
「なっ……」
突然魔法使いの目の前に石の塊が出現する。そして俺の弾丸はその石塊に辺り弾かれてしまう。その発生の素早さに俺は驚愕する。
耳元でスコットが囁く。
「あれがサーベロだ。ザ・グリル……。そう呼ばれてる」
「えっと。な、なんか、やばそうだね」
「……逃げるか?」
「いや……。このまま、行って」
「了解」
相手がやばそうだからといってここで逃げるわけにはいかない。原作ではリュミエラが護衛ごとやられたんだ。強い奴がいる事なんて分かっていた。
今の一連の動きでわかった。魔法使い同士の戦闘では、視力の強化は必須だ。この世界の魔法の特性上、詠唱が聞こえない場所でも、それで相手の魔法の発動をある程度予測できる。
俺は少し離れたところで馬からおろしてもらう。馬車を背にしての魔法の撃ち合いもちょっと危険だし。どうやらサーベロは魔法使いの俺を標的にするようだ。馬やスコットを狙われても、ちょっと対応ができない。
地に足をつけて戦うのが正解だろう。
本当はリュミエラに俺が来たのを知らせて元気付けてあげたいが……。この男を前にしてそんな暇も無いと知る。
「ガキが、こんなところに何のようだ」
「……」
そう言いながらもサーベロの体は魔力が渦巻いていた。これが有名な魔法使ってやつか。俺のようにいちいち魔法を使うたびに魔力袋から引っ張り出すのとは少し違う。
……なるほど。
それを見ながら俺も魔力袋に溜まってる魔力を体に回し、なるべくクイックに魔法を撃てるようにと調整する。サーベロも俺をじっと観察している。パクリがバレてるだろうが恥ずかしくもなんとも無いぜ。
「我が魔力よ 巌のマナとなり 敵を穿て」
そして突如走りだしながらストーンバレットを撃つ。
「石のマナよ……」
それに対してサーベロの詠唱は一行。一瞬で眼の前に先ほどと同じ岩が生まれ、俺のストーンバレッドを弾く。
驚愕だった。わずか一行だ。俺は走りながらも理由がわからずに混乱する。今まで教わった魔法で一行なんてものは見たことがない。
「な、なんで……」
「なんで? くっくっく。ガキには早かったか?」
俺のつぶやきが聞こえたのか、サーベロは呆れたように笑う。くっそ。
馬車へ視線を送ると、状態の悪さが見えてくる。周りには黒焦げになった死体も転がってた……。どうやらエクスマギアの魔法使いはすでにやられているようだ。だが、聖魔法の光でリュミエラが生きているのは、わかる。
そして、敵はサーベロだけじゃない。大量の野盗達が四方八方から攻撃を仕掛けてきていた。おそらく魔法使いはサーベロだけなのだろうが、同じ様な腕利きの剣士はいるようだ。
そちらは護衛の兵や、スコット達に任せて俺はサーベロに集中する。というか、集中しなければ戦えそうにもない。
大丈夫。こいつさえ俺が抑えられれば……。護衛たちはなんとか持ちこたえている。きっとこれもリュミエラの魔法のおかげだろう。とはいえリュミエラの魔力にだって限界はある。急がないといけない。
スコットやフェルト、そして途中で拾った騎士もすでに混戦の中に入り込んでいた。
俺が再び魔法を唱えようとした時、今度はサーベロが先に動く。
「炎のマナよ。 奴を燃やせ」
くっ。凶悪極まりない。サーベロは今度は二行の魔法でファイヤーボールを飛ばす。それもデカい。俺は必死に横に走りその攻撃を避ける。避けると言っても熱波がすぐわきを駆け抜けていくのは恐怖そのものだ。
仕組みは分からないが、一行少ないだけでこれだけ戦いにくくなる。俺は戦いながらもエリックが見せる無詠唱がいかに周りを驚愕させたか、改めて感じていた。
それでも今出来ることから選択していくしか無い……。俺は歯を食いしばり、足にも魔力を回しサーベロの魔法を避けながら必死に詠唱を構築する。
「我が魔力よ 巌のマナとなり 敵を穿て」
直感で、まだ手の内を明かすのは危険だと感じていた。相手の魔法は二行で撃ち込んでくるだけじゃなく、防御まですべて一行の魔法で弾く。
不公平感半端なかった。
俺がそんな中でも攻撃を出来ているのは、足があるからだ。防御の魔法などを使わずに足で逃げ逃げながら詠唱をする。俺の魔法はすべて攻撃に振ることで、なんとか成っていた。
「……先程の速い魔法はどうした?」
「……」
やはりあの魔法か。
それは気にはなるだろう。一発目で見せた拳銃の魔法は俺がこうして連発しているストーンバレッドと比べてもスピードが段違いに違う。
当然サーベロも警戒しているようだ。
その探るようなセリフにも俺は答えずにストーンバレットを撃ち続ける。俺はその間もサーベロの行の少ない魔法の秘密を必死に探ろうとする。
「やはり、四行はじっくりと準備をしないと撃てないようだな」
「……」
結局サーベロは、先ほどの魔法は馬上でゆっくりと作り上げた四行魔法だと判断したようだ。
「まあいい。十分遊んだだろう?」
サーベロの表情が無くなる。
……デカいのが来る。
直感で分かった。
……おそらくだが、もう一行増える。四行相当の魔法だろう。そう考え俺はサーベロの魔法に銃の魔法をカウンターで合わせようと決める。
ぐっと足を止め、サーベロに向かい意識を集中し始める。
その時だった。
「ラド! お前っ! ふっざけんなよ!」
「げっ! 来るなセヴァ!」
おいてきたはずのセヴァが顔面を怒りで真っ赤にしてこっちへ走ってくる。
「炎獄のマナよ……」
すでにサーベロの詠唱が始まっている。くっそ。これではセヴァが巻き込まれる。というより、サーベロの殺意が明らかに俺からセヴァへと移っている。
「業火の火球となり……」
くっそ。汚ねえ……。俺がセヴァを見捨てられないのも理解した目だ。サーベロの表情に愉悦が浮かび上がる。
もう受けるしか無い。セヴァの左腕のシールドにもちゃんとミスリルが含有されている。まあ、含有率はそこまで高いわけじゃないが、プロスパーの金印入だ。
「よくも俺をガキあつかい――」
「セヴァ! 盾を。魔法が来る!」
「へ?」
怒りに我を失っていたセヴァがようやくサーベロに気がつく。
同時にサーベロの魔法が完成する。
「すべてを燃やし尽くせ!」
そしてサーベロの杖から今までとは違う熱が膨らみ上がる。
「うぉおお。マジかよ!」
今までの単なるファイヤーボールじゃない。禍々しく黒い魔力の渦巻く豪火球だ。セヴァが慌てたようにシールドを前に突き出す。
魔力を集めた俺の目には、絶望的な魔力差が映っていた。




