第39話 襲撃される馬車
パカパッ。パカパッ。パカパッ。パカパッ。
規則正しい馬の走る音が続いている。これで六日目だ。そろそろ追いつかないとヤバい。焦りがつのるが、俺が馬を駆ってる居るわけでもない。俺は自分の焦りをグッと堪えて前を見つめる。
土地的にはファルデュラス領から少し標高は落ちている。そしてその分北へと移動しているために気候的にはあまり変わらないかもしれない。
街道は山間にある盆地などの平野をつなぐように引かれている。途中までは大きな川に沿って進むところもあったが、今は両側に小高い山に挟まれたような街道だ。
「リウル山って、どの山かわかる?」
「いや、そこまでは知らねえな」
「そうか、高い山なのかな」
「それはないだろ? 農民たちが逃げ込んで住んだりしているような山なんだ。分からねえが山の麓とかじゃねえのか?」
「なるほど……」
……ん?
んんん……。
「スピード落としてっ」
俺がスコットに声を掛けると馬が少し速度を落とす。街道沿いに少し開けたところがあり、そこで焚き火をしたような跡が残っているのが見える。
「スコットあれって……」
「ああ、新しそうだな。馬車の跡もある。そろそろ追いつくぞ」
「うん!」
再び速度を上げながら馬は更に街道を進む。その中でおれはその足跡に少し違和感を感じていた。
「スコット……。でも、馬の足跡ちょっと多くない?」
「ん? ……どうだ? わからねえが」
嫌な予感がする。
「スコット急いで」
「お、おう」
その時だった。少し林の先の方で「ドーン」という地響きが鳴り響く。
「なっ……。魔法?」
「今のそう?」
「わからんが……。護衛にエクスマギアまで付いてるのか?」
「そんなの分からないよっ」
くっ。
一体何が起こってるんだ。いや。侯爵夫人の護衛だ、エクスガードだけじゃなく、エクスマギアだって同行していてもおかしくない。そう思った時だ、先程の音より更に大きい音が鳴り響いた……。
――魔法の打ち合い?
わからない。が、なにか危険な気がする。おれはスッと後ろからついてくるフェルトに声を張り上げる。
「フェルト! セヴァをお願い」
「……良いのか?」
フェルトの言葉の意味は分かる。セヴァの護衛に凄腕のフェルトを使うのはどうなんだと言うのだろう。俺にとってはリュミエラも大事だが、セヴァだって大事な友だ。
そのセヴァはすぐに俺の言っている言葉の意味を理解したようだ、すぐに不満な態度を示す。
「おい、ラド! 何考えてるっ!」
「セヴァは黙って。魔法使いが打ち合いしてるかも」
「は?」
俺の言葉にその後ろの三人の顔色が変わる。……そうか。
「フェルト、セヴァをドマーネ達にっ!」
「だな……」
「お、おい!」
この際セヴァの抗議は受け付けない。フェルトはスコットから俺のことは聞いているのだろう、言う通りにすぐに動く。
三人組……。ドマーネ、モドン、エドモンドの三人は道中にすげえいい奴らだって痛いほど感じていた。だが冒険者としてはC級。文字が書けなくてB級に上がれないんだと誤魔化しては居たが、三人いてもフェルト一人のほうが絶対に強いだろう。
農民たちと戦うだけなら問題ないが、魔法使いが居るとしたらちょっと厳しい。魔法を使えない戦士達でもそれなりに魔法使いとの戦い方のコツはあるという。
自分の体内の魔力循環を利用した物なのだが。それは冒険者として魔物と対峙する場合にも直接的に差の出る技術だ。
つまり、A級冒険者とC級冒険者の間には、それだけ魔法に関しての対応力にも差があるという事だ。
「三人はセヴァをお願い! 様子を見ながら周りから」
「坊主はどうするんだっ!」
「僕は魔法が使える! やるさ」
「ガキが何を言ってる。無理だっ。お前も俺達とっ」
「早く!」
思わず言葉に魔力を込めてしまう。それだけで言葉の力は強くドマーネ達に届く。それを聞いてドマーネは諦めたように馬の歩みを緩めていく。そのドマーネの腕の中でセヴァが怒鳴っているが……、おれは前を向く。
「一気に行こう」
「くっそ、魔法使いだなんてよ。高えからなっ!」
「侯爵夫人を救出したら凄い恩賞もらえるさっ」
「また、人任せかよっ ははは」
スコットも意を決したようだ。鐙を蹴る。同時にすっと馬が速度を上げた。
風を切り、二頭の馬が街道を駆けていく。
もう襲われているのは確実だった。途中途中に山賊らしき遺体が街道に転がる。護衛のそんな姿が無いことにホッとした時だった。確実に豪華な鎧に身を包んだ男が倒れていた、脇には足を折った馬が倒れている。
――どうするか。
幸いなことに男は俺達の足音を聞き立ち上がり剣を抜こうとする。それを見て俺はスコットの前に立ち上がる。
「ラドクリフ・プロスパーだ。リュミエラは無事か!」
魔力を乗せた声は確実に兵士の耳に届いたようだ、目を見開いて道の先を指差す。
「フェルト。乗せられる?」
「でけえな……。でもまあ、いける」
俺はフェルトの声に頷いて兵士に再び声を掛ける。
「戦えるなら後ろの馬に飛び乗れっ!」
それで十分だった。わずかにスピードを落とし、近づいたフェルトの馬に男が飛び乗る。
「ラドクリフ様、なぜ……」
「スコットが、こっちの地方が危ないって情報を入れて、心配で」
「かたじけないっ!」
兵士は落馬で肩をやられているようだが、利き腕は動くようだ。職業柄ここで何も出来ないより戦場に放り込んだほうが幸せだ。俺は勝手にそう決めつける。
前を見れば、道の先には一筋の煙が見える。
「リュミエラ……」
俺はグッと拳を握りしめた。
……。
……。
現状は最低だった。
おそらく魔法でやられたのだろう、車輪が外れ動けなくなった馬車を盗賊たちが襲撃しているのが見えた。
せめてもの救いが、馬車の中からあの光が広がっていたことだ。
「スコット。まだリュミエラが頑張ってる……。ん? スコット?」
返事のないスコットを見上げると、スコットは緊張した顔で盗賊たちの後ろに居る一人の男を見つめていた。
「最悪だな……」
「え?」
そのスコットのつぶやきにフェルトが続ける。
「サーベロかよ……。あんなのまで居るのか」
サーベロ? あの魔法使いっぽい男のことだろうか。俺には全く分からなかったが、それを考える余裕も、聞く余裕も今はない。
走る馬の上に立ち上がり、馬車に近づきながら、俺は魔力を込める。
サーベロは馬車の方を向き、杖を持ち上げる。魔力の流れは完全の魔法を打つ流れだ。頭と口に魔力が溜まっていく。
くっそ。それをさせるわけにはいかない。
「我が魔力よ……。鉛弾のマナとなり……」
聞こえるわけは無かった。だが、サーベロと言われた男がふとこちらに視線を向けた。一瞬背筋を寒気がよぎる。いや、もう準備は出来ている。
「撃ち抜け!」
俺はそのまま魔法使いに向けて魔銃を打ち込んだ。




