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第38話 姫を追う七人の男

 出かける準備なんて、大したものは出来ない。

 一応スコットの前に一緒に乗せて貰う予定なのだが、食事として携帯できる簡単な行動食はスコットに集めてきてもらう。ちなみに一番高いのがスコットの雇い賃だったりする。

 それから、同行する賞金稼ぎが使う借り馬代も俺が負担することになる。


 もう一冊、ちょっと悩んだのだが少しアダルトなハウツー本があったので、それを売ってもらい準備資金にした。今まで一番高く売れたのでOKとしよう。




 そして一週間後。いよいよ出発だ。




 ~パパとママへ~


 リュミエラがチッポリーニへ旅行に行くので、僕とセヴァで護衛についていくね!

 一週間か二週間くらいだけど。心配しないでね!


 ラドクリフ



 ちゃんと置き手紙も用意した。それを父親の部屋の机の上に置き、厩舎へと向かう。賞金稼ぎ達とは街の冒険者ギルドで集合する。ぶーたれているハティに「お土産買うから」と手を振り厩舎を出る。


 俺が、スコットの前に座り館から出た時、一頭の馬がこちらに向かって来るのがみえた。その馬は俺達の姿を見ると慌てたようにその走りを止める。どうやらスコットはその相手が分かるようだ。スコットもその馬に近づいていく。


「ん? どうしたフェルト。集合はギルドだったと思うが」

「いやさ、公爵夫人の馬車は四日も前に出ちまったって話だぜ? 良いのかって思ってよ」

「……は?」


 え? 四日も前に? どういう事だ?


「おい、ラド。どういうことだ?」

「え? いや。だって今日アドリック達は旅に出るって……」


 戸惑う俺にフェルトと呼ばれた冒険者が俺に応える。


「確かに侯爵達の出発は今日だけど、夫人の馬車は四日前に出たって聞いたぜ」

「嘘……。え? それは不味いよ。いや。でも向こうは馬車だし、馬なら間に合うよね?」

「うーん。まあ、ギリギリってところか?」

「そ、そんな……」

「くっそ、とりあえずギルドへ行くぞ」


 道中にフェルトの紹介を受ける。スコットはちょっと苦しそうに「俺の甥っ子だ」と言っていたので確かめると、確かにフェルト・モーガンというらしい。

 このタイミングでモーガンが二人になるというのはめちゃくちゃ助かる。なんたってそれだけで凄腕が保証されるんだ。

 もしかしたらスコットが危ないと踏んで呼んでくれたのかもしれない。


 でも、俺にはそんな事も喜べるほど気持ちに余裕が無かった。



 そしてギルドで待つ賞金稼ぎ達は、文字通り荒くれ者と言った男たちだった。


「ああ? 四日も前に出たとか、それなりに飛ばさねえと間に合わねえじゃねえか」

「そう。だからすぐに出よう」

「……俺は一抜けたぜ。そんな夜通し走るようなことしてそのまま連中と戦うなんてありえねえ」

「ああ、俺も抜けた」

「で、でもなるべく人がいたほうが……」

「そりゃ、出発の日取りを間違わねえやつの言える言葉だな」

「く……」


 そう言われてしまえば俺に何も言うことは出来ない。口を閉じたまま去っていく賞金稼ぎ達を見送るしか出来なかった。

 俺はうつむき、頭の中で戦力の大幅な減算をしながら自分の詰めの甘さを悔やむ。


「ふぅ……。そんな救いてえのかよ」

「……え?」


 賞金稼ぎ達が全員抜けてしまったと思っていたのだが、三人組っぽい男たちが困ったような顔で俺を見ている。


「……うん。リュミエラは僕達の仲間だから」

「リュミエラ様か? 確かに聖女のようなお人だと聞いているが……」

「そ、そうだよ。本当に良い子なんだからっ!」


 俺が必死に残りの三人に応えると、三人のリーダーらしき男がやれやれと首を振りながら呟く。


「しゃあねえな。人数も減ったし、ヤバそうなら俺達は逃げるぜ?」

「え? 来てくれるの?」

「ヤバければ逃げるって言ってるが?」

「う、うん」


 結局当初の予定より大分人数が減ったが、それでも三人は付いてくれることになる。ここに来て一人でも多く仲間が欲しい。俺は藁にでもすがる気分で頭を下げる。

 だが、男たちは手を振り「単なる商売だ」と気にするなという。人数が減った分取り分が増えるんだと言うが、どう見ても気の良いおじさんたちだ。


 俺にはここにきて良い仲間が三人も手に入った気分になり、少しだけ気分が上向く。


 ……。


 そしてそのまま、急いでセヴァの家に向かう。セヴァにはアリバイ工作の為に口裏を合わせてもらわないとならないからな。少なくとも俺が戻ってくるまで両親を騙せないとならない。


「いや、俺も行く!」

「え? いやいやいや。そう言うんじゃなくて」

「リュミエラが危ねえかもしれないんだろ?」

「そ、そうだけど……。いや、大丈夫だからっ」

「大丈夫じゃねえんだろ? いく。待ってろすぐ防具持ってくるから」

「で、でも一週間はかかるって……」

「行く!」

「お、おう……」


 失敗した。確かに脳筋のセヴァがそんな事を言われて引き下がるわけがない。くっそ。今はここで説得する時間ももったいない。


 ……連れて行くか。


 俺は、フェルトに頼んでセヴァを乗せてもらう事にする。


 そして俺達七人はリュミエラを追いかけて街を出発した。


 ……。


 ……。


 リュミエラ一行がリウル山の麓に到着するのはおそらく出発から十日だ。すでに四日経っているということは、あと六日。それまでにリュミエラに追いつかねばならない。


 通常乗馬のスピードであれば、馬車の倍は普通に出せる。馬の体力に関しても回復薬的な効果のある餌も多少は用意した。完全にぶっ通しは無理だがそれなりに無理はさせることが出来る。


 ただ、それを駆る人間が大丈夫かと言われると厳しい。

 人間用の回復薬は、ポーションと同じく非常に高価であり、どちらかと言うと使用目的は怪我に対する物だ。今回はそんなものまでは用意してなかった。


 去っていった賞金稼ぎの言葉はもっともだった。移動で体力が削られまくった状態で山賊と戦うなんて、リスクが有りすぎる。

 走りながらもスコットとギリギリのラインを相談しながら俺達は進んでいく。なるべく最初の方で飛ばして、近づいているのを確認できれば少しづつ体力を温存した走りにする。


 そして夜は野営をしてちゃんと体を休める。特に俺やセヴァは乗せてもらってる為、移動しながらも居眠りが出来るが、馬を駆る五人はそれは出来ない。


「セヴァ、辛くないか?」

「ああ? なんともねえよ。急がないといけないんだろ? このくらい」

「そうか。あ、そうだこれ飲んでくれよ」

「ん? なんだ? これ」


 移動時の栄養補給も兼ねて作ったプロテインの飲料があったのでセヴァにわたす。セヴァはあまり美味くねえと言いながらもゴクゴクと飲み干す。


「それは、筋肉が付く飲み物っていうのかな? 本当は筋肉のトレーニングをした後に飲むのが良いんだけど」

「……まじで? 筋肉の?」

「あ、ああ」


 筋肉の話題が出た途端、セヴァは食い気味に俺に聞いてくる。隠すことはないから、俺はセヴァにプロテインの作り方を教える。

 それから今回のためにクッキーみたく固めてみたガゼインプロテインの方はちょっとした行動食の足しにと持ってきてる。

 そんなのを説明しながらパクパクとガゼインクッキーを口にし、夜はしっかりと寝ることにした。


 ……。


 ……。


 次の日も、そして次の日も俺達はひたすら道を進む。途中の村でちょっとした情報を確認しながら確実に距離が縮まっているのは感じていた。


 


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