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第37話 ハイブリッド魔法

 それから数週間、俺は毎日射撃場にこもり魔法の研鑽に努める。たまにスコットが顔をのぞかせるが、不思議そうな顔で俺の訓練を眺め、厩舎の方へ戻っていく。


 モーガンであるスコットに俺の練習を見せるのは多少リスクを感じるが、スコットの前では俺は拳銃の魔法しか使っていない。それでも冒険者として色々な経験を詰んだスコットから見れば、少しめずらしい魔法に感じると思う。


 あとは、常に本を積んでおいて、本から知識を得てる印象はちゃんと付与してる……はずだ。


 ……。


 少しづつハイブリッドの魔法も形になりつつある。

 むしろ、地球の俺のイメージをそのまま乗せるにはハイブリッドが最適に感じていた。もっと技術が上がって最終的には無詠唱で全て行けるようにはなりたいのだが……。まだまだ俺の異世界ライフは始まったばかりだ。



 正直な希望を言えば、一番はミニガンの様な魔法が使えれば、敵が大人数居たとしても何ら怖くないのだが、それを維持する魔力は無理だ。そこで考えたのがショットガンだったのだが、それにも俺は少し悩んでいた。


 確かに、地球のイメージを乗せる方法でなんとかショットガンは使えるように成った。そのショットガンは確かに一発で多くの弾が出せるのだが日本でのイメージで使うと広範囲での攻撃という感じにならないんだ。一人の人間に面で攻撃するには良いのだが、そこまで周りに広がる角度が広くはない。

 もちろん遠くにいる敵であればそれなりに範囲が広がるのだが、その分威力は少なくなる。


 そして、悩みに悩んで、一つの攻撃方法を思いつく。出来るかは分からないが、今の俺に出来そうな範囲だと限られた選択肢しかない。


 ……。あとは、練習を積むだけだった。


 ……。


 ……。


 リュミエラの方も順調に新しい魔法は形になりつつあった。

 教師のルックも、新しい魔法を考えるという俺達の試みに興味を持ち、様々なアドバイスもしてくれる。

 そもそも、ルックも治癒魔法に関しては専門的な知識を持ち合わせていなかった。代表的な治癒魔法を教えた後の事が割と悩んでいたようで、この試みは助かるところでもあったはずだ。


 そして、何度か俺達を練習台に研鑽を続け、完成の時を迎える。


 ……。


 練習場に呼んでセヴァ、そしてアドリックと複数の対象にいっぺんに効果が出るかを見る。


「おいおい、なんで俺が敵なんだよ! おれだってリュミエラを守るぜっ!」


 ……はあ。恋に狂う脳筋め。


 実際のところ、敵にも同じ様にバフがかかってしまうと困るのでその使い分けを試したいとセヴァも呼んだのだが、どうしてもリュミエラ側で魔法を受けたいと駄々をこねるんだ。


 仕方ない。今回は大人の俺が敵役だ。


 ……。


「へっへっへ。お嬢ちゃん。覚悟しな!」


 俺が必死に敵役をこなそうとするのに反応が悪い……。いや。悪すぎる。


「……ぉぃ」

「ぶははははは! なんだそれっ!」

「ラド……」

 

 いや……。俺は単にリアル度を出そうとしていたんだが……。

 アドリックはシンプルに不機嫌になり、セヴァは笑いが止まらくなり。リュミエラはドン引きしている。


「えっと……。変?」


「本当に斬るところだった」

「ラド面白えな! ひっひっひ」

「変です……」


 三者一様な反応に俺も思わず恥ずかしくなり、黙ったまま向かって木剣を構えるだけにする。そしてようやくリュミエラが魔法を試す。


「我が魔力よ 聖なる光となり 勇ましき者たちに力を……」


 リュミエラが詠唱をすると、祈るように結んだ手から澄んだ光が辺りへ広まる。俺のところにもちゃんと光は届いていた……。


 ◇◇◇


 本当は四行まで行きたかったのだが、六歳のリュミエラにそれは酷だった。その中でシンプルにバフ的な形を確実に与えられそうなのがこの詠唱だった。


 単純な詠唱であるのだが、ここまで行き着くのに色々と大変だったんだ。


 俺は家で、「我が守護者に力を」という言葉を考えニンマリとしていたのだが、それが全然うまく行かなく、そしてその理由もわからずに悩みまくった。


 最終的に、リュミエラにはどうしても「我が守護者」という考えが難しかったことが判明する。侯爵令嬢という立場にありながら優しすぎる心が、どうしても護衛たちを自分の守護者とすると、イメージを乗せるのが困難と成っていたのだ。


 勇ましき者たち、というのはリュミエラが自分で考えた言葉だ。


 結局その魔法を使う人が考えた言葉が、一番しっくり来るのだと強く感じた。


 ◇◇◇



「おお! なんだこれっ! すげー! すげーぞ!」


 この語彙力の拙い感想はセヴァだ。だが、効果がきっちりあるのは理解できる。アドリックも不思議そうに自分の手を開いたり閉じたりと確認している。


 俺は……。大丈夫。来ていない。


 要のイメージも、ちゃんと味方サイドを分別出来ている。



 よし。色々と準備が出来た。アドリックは王都に一週間後に出発する為に来週の魔法の練習会は無い。リュミエラの魔法の方は十分に間に合った。これで希望が増える。


 ただ、一つ大事な問題が片付いていない。

 俺はリュミエラの旅立ちに合わせて、こっそりと後から付いていく予定なのだが……。その理由付けだ。あまり俺に干渉してこない親だが、流石に一週間以上も勝手に外出すれば問題になるだろう……。


 うーん。

 やはり、困ったときはスコットだな。


 ……。


 ……。


「ああ? そんなの俺に言われてもなあ」

「なんかいい話無いの? ほら、リュミエラになんかあったら大変なんだよ」

「なんかって何だよ……。まあ、お前に言われて聞いてみたけどよ、確かにリウル山の野盗は大分デカくなってるらしいな」

「大きく……」

「ああ、しかも最近は本物のヤベエ奴らも合流しだしてるらしい。賞金稼ぎ達が手を出しにくく成ったって嘆いてたぜ」

「くっ……」

「……と言ってもお前が行って何かなるんか?」


 ……そのとおりだ。色々と準備はしてきたがスコットから見れば俺は六歳の子供。そんなところに護衛に行くからと言ってなにかなるとは考えないだろう。


「行かなくちゃ駄目なんだ……。人は集められる?」

「金はあるのか? 本の代金だって限界があるだろ?」

「金……。ん? そうだスコット。賞金稼ぎは集められたりはしないの?」

「どうやって?」

「リュミエラを狙った野盗の賞金首を全部持ってっていいって」

「本当にうまい話ならな、乗るのは居るだろうけど、相手は軍隊並みに人数の揃った野盗なんだぜ?」

「……なんか、美味しい話にできないかな?」

「どうやって?」


 あくまでも考えを出すのは俺というわけか。スコットは何か言ってみろとばかりに俺を見つめる。


「元A級冒険者が一緒に来る……とか」

「俺か? 俺を動かせる程金を出せるのか?」

「……教師の日当じゃだめ?」

「当たり前だ。命をかける値段が必要だ。それに現役A級ならまだしも、元A級の引退冒険者じゃ無理だな」


 スコットは首を横にふる。くっそ、後は何か無いか……。


「リュミエラを襲うなら、野盗全部が来るわけじゃないだろ? 野盗の中でも賞金首とかの危険な奴らが勝手に動くんじゃないのか? そんな数は居ないはず」

「言いたいことは分かるけどな。それでも賞金稼ぎの数だってそこまで多くないぜ」

「……リュミエラには護衛が付いている」

「護衛?」

「そう、エクスガードの護衛がちゃんと。襲われても彼らだったらかなり強いはずだよ。そこに援軍って形で参戦すれば領主からも報奨が出るかもっ!」

「……それが精一杯か?」

「駄目かな……」

「ふぅ……。まあ、少し声をかけてみる。だが奴らは自分の身一つで稼いでいるんだ。無理だと判断すればすぐに手を引くぞ?」

「わかってる」


 これで動いてくれるのか……。どこまで集まるかはスコットの腕次第だな。




 ……それにしても、出かける理由はどうするか。

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