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第36話 リュミエラの力


 自主練は始めているものの、週に一度の城での練習はちゃんと行く。

 俺のやっていることは大分マニアックで、見せて良いのかちょっと不安もあるために練習会の時はこの世界の魔法の知識をきっちりと学んでいく。


 間違っても、「へ? 俺なにかやっちゃいました?」を、やらないのがラノベマスターかつ、大人の流儀だ。


 そんな俺は、練習場でアドリックが必死に雷撃を放っているのを見ながらリュミエラと話をしていた。


「ねえ、治癒魔法のコツって何かあるの?」

「うーん。コツは……。相手の事を考えるということでしょうか」

「相手の事を?」

「はい、痛そう。可愛そうだから早く治して上げないとって、そういう気持ちが治癒力を上げるって聞きました」

「へえ、気持ちね……」


 なるほど、それもイメージの精度の上げるやり方のひとつなのかもしれないな。


「我が魔力よ 癒しのマナとなれ……」


 試しに俺もやってみる。するとなんとなく手に淡い光が浮かぶ。……がなんとなく色が濁ってる気がする。


「わぁ。やっぱりラドは凄いです」

「え? なんで?」

「治癒魔法は特殊属性なので、基本の二行でも出せる人は殆ど居ないんですよ?」

「でも、なんか弱いし。色も変じゃない?」

「うーん。確かに。ちょっと私も出してみますね」


 そういうと、リュミエラも手のひらに癒しの光を光らせる。リュミエラの光は純白な濁りの無いキレイな光だ。やはりそれに比べると俺のは少し灰色っぽく濁っている。しかも光も小さく風でも吹けば消えそうだ。


「なんか、こんなんじゃ癒やせなそうじゃない?」

「ど、どうでしょう……」

「少なくとも実用的じゃ無さそうだなあ。火魔法の方が全然強いもんね」

「うーん。でも出せるだけでも凄いです」

「そうかあ。ま、リュミエラはこれだけの光が出せるんだけどね」


 少し意地悪なツッコミだったか。俺の言葉を聞いて、リュミエラは自分の言葉が誤解されたと焦る。


「ち、違うんです。私はこれだけしかちゃんと出来なくてっ。でもラドは色々な魔法が使えるじゃないですか」

「ははは。そうだね。でもやっぱり実用的なのは地魔法になっちゃうのかな?」

「あんな大きな石を飛ばせるんです。十分ですよ」

「うん。ありがとう」

「それにっ。私はこれをつけていますし……」


 そう言いながら、リュミエラは胸にかけたペンダントを見せる。なんだ? と思っていると教えてくれた。


「魔力を増幅してくれるんです」

「あ、魔法の杖みたいな?」

「はい。だからこんな大きい光になるんだと思います」


 そう言いながらそのペンダントを外して再び癒しの光を出す。

 確かに少し小さくはなったかもしれないが、それでも十分に大きい光だ。侯爵令嬢のつけているペンダントだ。それなりの宝珠が使われているはずだ。

 ということは、魔力の増幅ってそこまでものすごい効果があるって物でもないのかもしれないな。


「でも、やっぱりリュミエラの光はキレイだ」

「え? あ、ありがとうございます……」


 リュミエラは俺が褒めると妙に恥ずかしそうにうつむく。ま、治癒魔法しか使えないってことで、少し劣等感を持っているのかもしれない。そういう子には褒めてあげるのが一番だ。


 ん?


 ……そう言えば、原作に出てくる聖女も使える属性は聖属性のみで他の魔法は使えなかった。これは攻撃的な魔法を使えないというのも聖女の条件なのだろうか。


 うーん。


 聖魔法で戦いに役に立つ魔法はあったか……? 思い出されるのはホーリーシールドのような物だが、あれは邪悪な呪などを跳ね返す感じで物理的な防御は無理だ。


 うーん。最後の戦いで使った「聖戦」はやばかったが、あれは最終魔法みたいな位置づけだし魔法を習い始めたばかりのリュミエラが使えるようなものではない。


 だけど、劣化聖戦みたいなのは行けないか?


 俺が銃の魔法を必死で開発しているように、イメージさえきっちり出来れば。俺がきっちり考えて、リュミエラを導ければ……。いけるかもしれない。


「リュミエラは聖魔法だよね?」

「え? ええ……」

「他の魔法は使える?」

「えっと。最近解毒魔法を練習したりしていますが……?」

「うーん。ねえ」

「は、はい?」

「新しい魔法を一緒に考えてみない?」

「へ?」


 俺の言葉にリュミエラはきょとんと見つめ返す。


 ……。


 ……。


「そう、何ていうかな。己の正しいと思う行いを正当化させるような。そんな感じで良いんだって」

「精神系なんてそんな難しいこと」

「んと、精神系の魔法とかじゃなくて、えっと……。聖戦って知ってる?」

「それは当然……。え? 無理ですよ。私にそんなの」

「聖戦をやろうと言ってるわけじゃなくて、イメージね」

「い、イメージですか?」

「うん。聖戦は神のために自分の命も捨てることが出来るような高揚感の魔法な訳だ」

「は、はい」

「そこまでじゃなくて、誰かを守ろうとする正義の心を後押しするような。そして火事場のクソ力を出せるような精神状態にさせたいの」

「クソジカラ……」

「あ、ゴメンね。言い方悪かったね。でも……なんとなくイメージは分かる?」

「言いたいことは……」


 アドリックと同じくリュミエラも聡しい子だ。すぐの俺の言いたいことは理解してくれる。ただ、問題はそこまで必死に新しい魔法へと歩むモチベーションだ。理由もわからず言われても、必死さが足りない。


 どうするか。


「なんでこの魔法を僕が思いついたと思う?」

「えっと……。なぜです?」

「リュミエラのお父様、えっと、侯爵が外に出るときっていつも護衛の兵士がいるよね?」

「はい」

「それってやっぱり位の高い人って、悪い人に狙われることも多いんだってことだと思うんだよ。そしてそういう時に、こういう魔法があれば兵士たちの力を底上げして、護衛の力を上げることが出来るかなって」

「護衛の力、ですか」

「そう、そうなれば、守られる自分たちもより安全だし、兵士の人たちだって悪い人たちに負けないで生き残る可能性も高くなるじゃん?」


 うーん。ちょっと苦しいかな。でも言ってることは間違ってないんだよな。

 聖戦だって結局は信者の正義の心を利用するような魔法だしな。


 リュミエラは俺の言葉を反芻するように考え込む。


「……兵士の人たちのためにも、良いんですね」

「うんうん。僕もセヴァも将来はアドリックの護衛にもなるつもりだ、そんな時にもこんな魔法があったらなって思ったんだ」

「ラドと、セヴァもですか?」

「そう。そうなんだよ。仲間を守る力になる。だから聖魔法なんだ。」

「それは、素敵な魔法ですねっ! はい。私もやってみたいですっ!」

「う、うん!」


 よし、リュミエラの心のスイッチは入れた。きっと人の事を誰よりも考えられるリュミエラなら、この魔法は強い力を持つ。


 詠唱の言葉は来週までの二人の宿題とし、俺は必死にリュミエラに俺が考えるイメージを伝えその日の練習は終わった。


 ……。


 


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