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第34話 魔法実験

 さて、これで準備はOKだ。俺は練習場で右手を伸ばし、手の形をピストルのように人差し指を伸ばす。金属属性のイメージを銃にするなら、形から入ったほうが更に良いだろう。


「我が魔力よ 鉛弾のマナとなり 敵を貫け」


 必死に考えた呪文だ。鉛をなんと表現していいか分からず結局ストレートにする。俺は教わった手順で詠唱を交え、魔力を放出する。


 その間も俺は目に魔力を通し、どの様に魔力が集まり魔法となっていくかの確認もしていく。丹田に溜まった魔力が瞬時に体を伝わり、手に向かって流れていくさまはなんとなくSFチックでカッコいい。


 ただ、拳銃のように火薬を破裂させて撃つものでは無いので音はしない。


 そして飛び出た鉛玉は三十メートル程先にある的を掠める。


「うーん。なんか、しょぼいか?」


 視力も強化されてる目で見ても、土壁にあたった鉛弾が潰れるような感じにはならない。拳銃の銃弾は対象物に当たった時に衝撃で潰れるからより大きいダメージが与えられる事を考えると、どうも違う。


 俺は、悩んで手のひらに先ほど撃ったのと同じイメージで鉛弾を作る。消滅しないように魔力を供給しながらそれの感触や質量感を確認するが、多分鉛は出来ている感じはする。


 ……と、言うことは。


 スピードか。どうすればスピードが上がるんだ? イメージをより強くするのか。加速するイメージ。やはり銃なら火薬の爆発で押し出されるようなイメージなのか。



「我が魔力よ 巌のマナとなり 敵を穿て」


 俺はストーンバレッドを試す。小説の中でラドクリフが使っていたのはこれだと思う。詠唱に関しては城で教わったものだが、だとすれば一緒だ。

 放たれた石礫は30m先の壁にぶつかり土に食い込む。


 うーん。多分速度的にはそこまで変わらないか。

 

 速度を上げるにはどうしたら良いのか。再び部屋に戻り本をまくる。

 簡単なのは、もう一行詩を足して、スピード感を感じさせるようにする。ただ、出来れば行を足さないほうが詠唱の完了も早く、安心では有るんだよな。



 その後も俺は試行錯誤を繰り返す。


 得意属性じゃないファイヤーボールや、ウォーターボールも試してみる。すると、威力はだいぶ落ちるがスピード自体はどの魔法もあまり変わらないことに気がつく。


 これって……。どういう事だ?


 思い至ったのは、この小説の魔法のイメージがゲーム的な要素から来ているのではないかという点。ファンタジー系のゲームで魔法を打つ時に、属性の違うような攻撃でも全部スピードは同じというものがほとんどだった。

 そういった設定じゃないかと。


 ただ、流石に雷撃だけは速いが、これは物理学的な特性なのだろう。


 いずれにしても魔法で攻撃する時の攻撃性の魔法物質が飛んでいくスピードはほぼ同じなのではと仮定する。そして、おそらく行を足すことでそのスピードを上げてきたという歴史が有るのだろう。


「我が魔力よ 鉛弾のマナとなり 迅雷のスピードで 敵を貫け」


 四行が、実は俺の現状だと結構ギリギリだ。


 しかしこうすることでスピードが一気に上る。当然使う魔力も多いし、集中力も要する。それでも弾の当たった土壁を確認してみれば、多分鉛の弾は潰れているのだろう、穴が大きく広がっている。


「これで我慢しろってことなのかな……」


 四行の魔法自体でも、イメージを作るのが難しく、必要とする魔力量も一気に増える。それ以上に抵抗感が有るのは前述したように詠唱にかかる時間が長くなるという問題だ。


 単純に詩をただ早口で喋るだけなら一行増やした程度でも数秒位なものなのだが、詠唱となると勝手が違う。詠唱は確実に魔法のイメージを魔力に転写するための物なので、ある程度ゆっくりしっかりと言葉にしないとならないのだ。


 ベテラン魔法使いに成れば、高速詠唱といった、詠唱の速さを上げることは出来るのだが、まだまだそんな域には成っていない。


 ……やはり無詠唱がやりたいな。


 そうなる。

 俺は更に脳へと回す魔力を濃くしていく。


 ――我が魔力よ 鉛弾のマナとなれ……。


 脳で増幅させたイメージをそのまま手のひらの魔力へと転写していく。しかし、今までの詠唱での感覚と大分違うため上手くいか無いのが分かる。ルックが俺に見せた二行の無詠唱でさえ俺には厳しい。


「うーん……。とりあえず数、だな」


 くっそ、エリックは何事も問題なく無詠唱を完成させ「え? 俺何かやっちゃいました?」位に当然のようなムーブをカマしていたんだ。この差はなんだってんだ。


 ぜってー負けねえ。


 俺はその日1日中、無詠唱の練習を続ける……。


 ……。


 ……。


 翌日も朝から俺は射撃場に籠もっていた。

 それにしても難しい、あの時ルック先生が無詠唱をした時にちゃんと魔力の流れを確認しておけばよかったと後悔する。


 脳へ流す魔力を更に増やしたいが、ちょっと場所が場所だけに怖い。軽いブーストなら良いのだが、あまり過度にして障害とか発生したらマジで最悪だからな。脳溢血で半身不随になりましたとかなったら、それこそ楽しい異世界ライフが終了する。


 ……。


 ん……?


 あれ?


 もしかして、この感覚が俺に歯止めをかけてるのか?


 ふと、そんな事を感じた。俺には日本に居た頃の知識がある。それ故に変なところでストッパーをかけているんじゃないのか?

 たしかエリックは……いや、あいつもそこそこの大人で転生してるはずだ。ということは小説の感覚でそこら辺が端折られているとか有るのかもしれない。


「いや、怖えんだよな……」


 それでも今出来るとしたらそのくらいだ。とりあえず少しずつ、少しづつ脳の負担的なものもしっかりと見ながら、魔力の圧を増やしていく。

 脳だけじゃなく、脳の血管などにも補強として魔力を増やす感じだ。


「んぐぐぐ」


 恐怖からか、ぐっと目を閉じて徐々に魔力量を増やしていく。


 増やしては試し、増やしては試し、と、徐々に魔力量も最初の倍ほどまで増やしていく。それでも俺の脳はなんとか稼働していた。


 ……。


 俺はさらに魔力を増やしながらトライをしていく。まるで脳が焼き切れるような感覚に怯えながら……。


 ここまでの恐怖を感じながらも、なぜ俺は続けているのか……。それは脳へのブーストを増やすごとに確かな手ごたえが出るんだ。


 もうこれが正解だろうと感じながら徐々にあげていく、


 ……。


 そしてついに無詠唱が成功した。


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