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第28話 魔法の訓練

 リヴァンスハントからしばらく、俺は地図を眺めながら白樺シロップの抽出の計画を練っていた。

 群生地などの場所は良いとして、山の所有権などがどうなっているか気になる。


「山に所有権なんてねえだろ? 強いて言えば領主の土地か?」

「じゃあ、勝手にそこで樹液を集めても怒られない?」

「良いんじゃねえのか? 開拓地っていうのは開拓した農民が所有権を持つからな。もちろんそこの領主に対して税金は払わねえといけねえが」

「じゃあ、その林で樹液採集をするとなると税金を払わないといけないのか」

「……それで儲かるのならな」


 うーん。ま、俺としては税金を払う払わない以前に、エリック達と父親があまり揉めないという流れのほうが大事だからな。

 どうせ、エリックの砂糖の話もファルデュラス侯爵からの指示で動いてるんだし。これが儲けに繋がれば、侯爵にも金は流れるだろう。



 運転資金に関しては、本を二冊ほどスコットに頼んで売っぱらったらかなりの現金が入った。全然もったいなくもない。めちゃくちゃなトンデモ理論の本だったからむしろお金になって良かった。

 鍛冶屋に樹液採集用の道具を頼んでもらい、残りの金で村の大工にあの木の近くにちょっとした小屋を作るように依頼を出す。急がないが、冬が来る前には作っておいてもらいたいところだ。


 金が出来るだけで話が前へと進む。


 ……。


 一つの案件が前へと進み始めれば、色々なことがうまくいく。魔法の勉強についてもいい話がやってくる。


 と言っても、魔法使いの教師が見つかったわけではない。やはり魔法使いというだけである程度の立場を得られる世界だ。そんな中で家庭教師として雇うのはやはり難しかったようだ。


 今回はファルデュラス家から、城に勉強に来いという指示だった。

 話的に、前回のリヴァンスハントによって、魔力量が上がったアドリックも、魔法を練習するというのがきっかけらしい。その際に、教師の見つからない俺を一緒にどうだ? という流れだ。


 ……。


 ……。


「アドリック。呼んでくれてありがとう」

「いや、俺も初めてだからな、ラドが一緒に始めてくれるならそれはそれで心強い。でも今回はリュミエラが声をかけるようにって言ってきたんだぜ」

「リュミエラが?」

「ああ、俺も魔法を習うって話をしたら、じゃあラドも呼ばないかって。まだ魔法の教師は見つかってないんだろ?」

「そうなんだ。父親もそれなりに名のしれた魔法師ばかり声かけているみたいで」

「なるほどな。確かに難しいよな」


 リュミエラが?


 その話は俺にとっては結構意外だった。リュミエラとはまだ二回しか会ったことは無いからな。もしかしたら、前にマメを潰したときに治癒魔法をかけてもらったことがあった。その時に、俺も魔法を使いたい、みたいな話をしたかもしれない。


 ファルデュラス家には、元々お抱えのエクスマギアという魔法師団がある。その中から教師をピックアップして教えてもらうという流れのようだ。

 リュミエラは少し前からそこで治癒魔法を教わっていたようだ。


 ただ、簡単に治癒魔法と言っても、治癒魔法は魔法使いの中でもかなりレア属性になる。実際にエクスマギアには治癒魔法の使い手は居ないらしい。その為教師の魔法使いも魔法の使い方などの指導をする感じにはなっているようだ。



 魔法は持ってる属性しか使えない訳では無い。だが、自分の得意属性の魔法が特に使い勝手が良い。その得意属性を伸ばすというのがこの世界では基本となる。


 その属性を調べる方法はかなり原始的だ。

 いろいろな属性の魔法を使ってみて、その威力を確認するだけなのだが……。当然俺は自分の属性を知っている。地属性だ。


 火、水、氷、雷、そういった華やかな魔法は主人公や、そのハーレム要員のヒロインたちが使いまくっている。

 そして、悪役モブのラドクリフが貰えた属性は、地属性。というわけだ。



 アドリックに案内された場所は、周りを分厚い石の壁に囲まれた練習場だった。魔法の特性上、火魔法などで城が火事になったりするのを防ぐための壁なのだろう。

 訓練場には、一人の若い魔法使いが、リュミエラと話をしていた。リュミエラは俺達に気がつくとパッと笑顔を向け、嬉しそうに手を振る。


「お兄様っ。ラド!」


 アドリックはリュミエラに軽く頷くと、隣りにいた魔法使いに挨拶をし、俺を紹介する。


「ああ、今日からよろしく頼む。彼がラドクリフだ」

「おお、アドリック様、そしてラドクリフ様。ルックと申します。よろしくお願いします」


 俺達が訓練場に行くとその若い魔法使いは恭しく頭を下げる。そして名前をルックと名乗る。立場的にはルックに教わる立場だ、俺も丁寧に挨拶をする。


「よろしくお願いします。ラドクリフと申します」

「え? あ、はい。よろしくお願いします」


 ん? 丁寧に挨拶をしすぎたか。ルックは意外そうな顔で俺を見た。

 そして、俺達は訓練場の端っこに有る椅子を勧められて座る。


「ラドクリフ君は、魔法を習ったことは?」

「失魔症になって、医者に魔法はしばらく使わないように言われていて」

「なるほど……。今はもう使って大丈夫なのかな?」

「先生に見てもらった上でやるなら良いと言われています」

「そうですか。よかった」


 ルックはそれを確認すると、俺達にゆっくりと魔法についての説明を始める。


「まず、なぜ失魔症を発症した子が魔法使いに向いていると言われるかわかりますか?」

「それは、一度魔力を使い切ることで、体がもっと魔力が必要だって魔力量が増えるからと聞いていますが」

「そうですね、それも重要です。でももっと重要なことが有るんです」

「もっと重要?」

「アドリック様はわかりますか?」

「……いや」

「失魔症は魔力の暴走で起こりますが、普通の人の場合そこまで魔力を押し出すなんて無理なんです。途中で欠乏症の症状がでますからね」


 確かに欠乏症で吐きまくった俺だ。言いたいことは十分にわかる。でもだから暴走なんだろ? むしろコントロールが聞きにくいって事じゃないのか?

 俺達が何のことだ? と悩んでるとルックは笑いながら話を続ける。


「魔力を放出する開放口が広いんですよ。魔法を使うための魔力を一気に排出できるんです」

「開放口が?」


 なるほど。俺はようやくルックの言いたいことを理解する。

 確かに、魔法は大量の魔力を一気に出してそれを利用するという。失魔症はそういった要件もあるのか。


「では、魔力の開放口が小さければ魔法は使えないのですか?」

「魔力のコントロールが旨ければ、魔力を圧縮して小さめの開放口から出す事は出来ますが。ただなかなか難しいですね。それに、これは魔法を普段から使ってる人が、自分の魔法の威力を上げるための工夫ですので、やはり開放口が小さい人は、限界があります」

「なるほど……」


 という事はやはり俺は魔法使いとしては十分か。よしよし。

 こう魔法の先生にキチンと適性がある理由を聞けばより納得できる。そして不安げにアドリックが質問をする。


「俺は失魔症にはなって無いのだが、魔法を使えるのか?」

「問題ないと思います。解放口が大きい子供でもちゃんとコントロール出来れば失魔症にはならないので。そもそも双子のリュミエラ様が使えるのですから大丈夫でしょう」

「そうか……」


 確かに双子だからという理論は分かるのだが、男児と女児の双子なら、二卵性の双生児だ。地球の感覚だと遺伝子が別になるから、双子だから大丈夫というのはちょっと違うんだけどな。

 ま、小説でも普通に魔法を使ってるから、そこは突っ込まないが。


「ではまず魔法の基本的な使い方を説明しましょう……」


 こうしてルックの魔法の講義が始まる。なぜか既に魔法を使い始めているリュミエラも嬉しそうにちょこんと俺の隣に座って話を聞いている。


「まず魔法を発生させるには三つの要件が必要となります。一つは魔法の元となる魔力。これは分かると思います。そして次の要件が、イメージを脳で作り上げること。そして三つめが、言葉で作り上げたイメージと己の魔力を魔法へと紡ぐ、という事です」


 魔法を作り上げる二つの要件も俺には理解できた。確かに縛鎖の魔法を使う時に、魔法使いの頭と口元に魔力が集中していたのを俺は見ていた。


 そうして俺達の魔法の練習が始まった。


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