第27話 リヴァンスハント 4
「う。うう……」
三回目だな、このスタート。
俺が目を覚ますと、俺はスコットの腕に支えられて馬に揺られていた。
どうやら今は帰還中の様だ。
「スコット?」
「起きたか……。ふう。何にしろリヴァンスハントは成功って所だな」
「で、アドリックは?」
「おいおい、自分の事は興味無いのか?」
「そんな事は無いけど、まあ、こうして気絶したわけだし」
「安心しろ、完璧にやり遂げてる」
「そう……。よかった」
うん、気絶しちまっていたからこの後アドリックがどうなったか分からないからな。やっぱりそこは気になる。少し体を乗り出して周りを見れば、ファラド将軍の腕の中でアドリックがスヤスヤと寝ているのが見えた。
「どのくらい寝てた?」
「そうだな……。五、六時間ってところかな」
「そんなに?」
「しかし貴族ってやつは恵まれてるなあ」
「なんで?」
「なんでって、ハティがこのくらいまでレベルを上げるには、一年は狩りを続けないと追いつかないんだぞ? こんな恵まれたレベル上げなんて普通はまず出来ねえ」
「……まあ、そうだね」
本当だ。たぶん原作主人公のエリックは今頃毎日こっそりと森へ入り魔物を倒しまくってるに違いない。それをしながら、砂糖の生産をしたりとマルチに働きまくる。
俺なんて、こんな恵まれてるけどまだ魔法すら打てない。エリックのチート差を改めて感じる。
「そうか、でもこのレベル差なら何とかハティとも戦えるかもね」
「何言ってるんだ。レベル差無くてもお前なら良いところまで行けると思うぜ」
「それは無いね。まあ、魔法を使えるようになればもう少し良いかもだけど」
「……自己評価はちゃんとするべきだぜ」
「してるさ。でも、これで父の外出許可も貰えるかな」
「どうだろうな。そんな事まで俺は知らねえよ」
「何言ってるんだよ。スコットが護衛で付いて来てくれるって条件を付けるつもりだよ?」
「……は?」
「良いじゃん。引退した冒険者なんでしょ? そうだ。こんどハティのリヴァスハントをしようよ」
「まったくよ。貴族ってやつは人使いが荒いぜ……」
それでもスコットは拒絶はしない。スコットもハティの可能性を育てたいという気になって来ていると思う。
それにしても何だろうな、このレベルってやつは。
俺の中に力が入り込んだ感覚がキッチリとあるんだ。そしてその力が、こうして馬に揺られている間にも徐々に力が俺と馴染んできているのが分かる。
原作の設定でもこのレベルがどこから来るのかは書いていなかったと思うが、こういった感覚に関してはあまり記述が無かったな。ゲームみたいにレベルが上がってすぐに力が発揮できる感じだったと思う。
ちなみに、人それぞれ特性によってレベルが上がった時の能力の上がり方が違うらしい。
攻撃型、防御型、敏捷型、バランス型、知能型、魔法型、といった具合に、自分の得意分野が上がるというのが基本で、たしかエリックはバランス型で、魔法も腕力もすべて上がる。
そして、原作で魔法使いだったラドクリフの体はきっと魔法型だと思われる。アドリックもバランス型で、実は魔法も使えるようになっていた。
セヴァは攻撃型か防御型のどっちかだったと思う。
ちなみに帰りの行軍は行と比べ殆ど兵士がいない。俺達三人を運んでくれている三者と、魔法使い、それから護衛の兵士が三人。それだけだ。
残りは巨大なレッドベアを解体して街に運ぶ為に残っていると聞いた。レッドベアの素材は肉も骨も貴重品だ。狩りをしてそのまま放置することは無い。
それもあり、帰りはかなりの強行軍で帰ってくる。俺達三人の子供をもう一泊野営させるというのも負担と考えての事だと思うが、道もずっと下りというのもあり行軍スピードもかなり速い。
夕暮れ、俺達は無事にプロスパーの屋敷へとたどり着く。今日はプロスパーの館でアドリックとセヴァも館で一泊するのは初めから決まっていた予定だ。
帰りは人数が少なくなっているとはいえ、この人数を受け入れられるだけゲストルームがあるというのは改めて我が家は金持ちなんだなと感じる。
食事はホールに机を集めるだけ集め、兵士たちも含めて全員に振る舞う。父親も上機嫌で、リヴァンスハントの成功を皆で祝い合った。
テーブルには俺達三人は並んで座る。アドリックとセヴァは興奮気味に、自分の狩りの話などを競うように話す。
「どうだ? 結構変わった感じするよな」
「おう! 筋肉が三倍になったような気分だぜ」
「三倍? セヴァはきっと防御タイプだろうな」
「防御か、俺もオヤジみたいな騎士に成れるかな」
「もちろんだ。期待してるぜ」
そうだな、アドリックも相当な才能があるが、脳筋特化のセヴァと比べるとバランスよく全体的に上がっていくから、ちょっとレベルアップで感じる感覚は違うのかもしれないな。
そんなことを思って二人の話を聞いていると、俺がしゃべらないのに気が付いたアドリックが、聞いてくる。
「ラドはどうなんだ?」
「僕はたぶん魔法タイプなんだと思う。少し力は上がった感じがするけど、三倍とかみたいな感覚はないよ」
「ああ、魔法タイプか……。でもラドはよく倒したな。あれは危なかったんじゃないか?」
「あ……。二匹も出たからちょっと慌てちゃって」
「まあ分かるぜ、それは」
セヴァは俺がやってるときはもう気絶していたから、そこら辺の話を知らないようだ。
「二匹? マジで?」
「うん、そうなんだよ」
「え? じゃあラドは二匹倒したの?」
「いやいや、まさか。一匹はファラド将軍が倒したんだ。すごいかっこよかったぜ」
「マジか! 良いなあ。ファラド将軍の戦い観たかったなあ」
俺達の盛り上がりを聞いて、向いに座っていたファラド将軍がこっちを見る。
「坊主は魔法使いになるというのは本当か?」
「あ、はい。失魔症になったので」
「失魔症に? なるほどな……。魔法が上手く行かなかったらいつでもエクスハントに来い。あの勇気は欲しい所だな。はっはっは」
「ははは……」
笑いながらもファラド将軍の目は笑っていない。魔法をかける前に倒しちゃったのがまずかったか。まあ、怒っては無いとは思うが……。
そして夜は、三人で同じ部屋に泊り、五時間近く気絶したのがあったのかなかなか眠れない夜を三人は楽しく過ごした。
こうして俺達三人のリヴァスハントは無事に終えることが出来た。
 




