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第26話 リヴァンスハント 3

 レッドボアが動きを止めると、セヴァは槍を頭上に掲げ雄叫びを上げる。


「やったな! すごい!」

「おめでとう!」


 俺とアドリックも興奮気味に駆け寄ろうとした時だった。突然セヴァの体がビクンと跳ね上がる。俺達が驚いて一瞬足を緩めた時、スッと一人の兵士が崩れるように倒れていくセヴァの体を手で支えた。

 見れば既にセヴァが意識をなくしていた。


「セヴァ?」

「大丈夫だ。ラド」

「え? でもっ」

「本当に意識を失うくらいの……。良いリヴァンスハントだ」

「……えっと?」

「リヴァンスハントは、魔物とのレベル差を利用して大量の経験値を得る狩りだ」

「あっ……。じゃあ、レベルがあがって?」

「そう。普通のレベルの上がり方じゃない。一気に何段も駆け上がったんだ。セヴァは」

「な、なるほど……」


 えっと……。マジか。


 じゃあ、次は俺が気絶をするというのか……。


 アドリックは当たり前のように言うが、中身大人の俺としては、気絶をすることを了解した上の行動というのはどうも怖さを感じてしまう……。

 子供の頃に、そういう遊びが流行って、怪我をした子もいたな。


 いやあ……。別の意味で緊張するわ。



 狩り場を再び整えると、レッドボアを引っ張ってくるために兵が森の中へと入っていく。ドキドキしながら彼らが消えていくのを見ていると、一人の兵士が俺に槍を渡してくる。


「これを」

「あ、ありがとうございます」


 俺はそれをしっかりと受け取る。もう俺の狩りも動き出してる。やるしか無い。

 俺がグッと槍を握ると、横に立っていたスコットが笑う。


「おめえのそんな顔、珍しいな」

「どんな顔してる?」

「くっくっく。緊張しまくりって顔だな」

「してるよ。当然ね」


 まったく。コイツは俺が気弱な態度をするとなぜこんな嬉しそうな顔をするんだ。俺は不満げにスコットを睨みつけるが、スコットはそれを笑顔でいなす。


 ……それにしてもセプテムか。我がプロスパー製の武器だが、やばいな。異様な存在感を持ってるクセにその重量は意外と軽い。長い槍だが、俺達のような子供が持っても穂先の重さでバランスを崩すようなこともない。

 そういった特性もあって、リヴァンスハント用の槍として選ばれたのだろう。



 俺はそのままドキドキしながら待っていると、森の中でザワザワしはじめる。そろそろかと気を入れ直した時、先触れの兵が慌てたように報告する。


「申し訳ありません。二体やってきますッ!」


 一瞬その場がざわつく。しかしさすがエクスハントの面々だ。すぐに二体に合わせた対応になる。


「えっと……。俺は手を出さないほうが?」


 横に居た兵に声を掛けると、その兵は俺を安心させるようにニッコリ笑って答える。


「大丈夫です。一体はこちらで処理しますので。魔法で捕縛したレッドボアを狙ってください」

「……わかりました。よろしくたのむ」


 よし、行けるんだな。でも、どんな感じで行くんだろう。


 俺が周りの動きをじっと見ていると、俺の前にファラド将軍が出てくる。ファラド将軍は西洋系のファンタジーのイメージから考えると少しめずらしい形の槍を手にしていた。刺すための槍というより、薙刀の様に斬る槍、といった感じだ。


「来ます!」

「一頭目は俺がやる。後ろのを止めろ」

「はっ!」


 どうやら、二頭のうち、先に来る方をファラド将軍が処分する予定のようだ。そのファラド将軍の堂々たる後ろ姿に俺は再びジーンと感動する。


 俺の頭の中をよぎったのは小説の中でのファラド将軍の最後のシーン。アドリックが窮地に陥った時、満身創痍の将軍が今と同じ様にアドリックの前に仁王立ちをし、敵を食い止める。そしてそのまま……。


 ……まあ、俺の思いとは関係なく事態は動き続ける。


 先ほどと同じ様に、木をなぎ倒しながら、レッドボアはその威容を俺達の前にさらす。二度目とはいえ、やはりその大きさには威圧される。グッと槍を握る手に力が入る。

 そこへ、ファラド将軍はゆっくりと前に出る。その殺気に反応するのか藪から顔を出したレッドボアは迷わずに将軍に向かって突撃をする。


 ――危ない!


 俺でなくともそう思うだろう。あの大質量がスピードを落とすことなく将軍へと突っ込んでいくんだ。その将軍はその場でグッと腰を落とし、腹の底から大きく気合を吐き出す。


「うぉおおおおおおおおお!」


 声量もさることながら、驚くべきはその魔力だ。体からオーラの様に魔力が溢れる。そんな将軍の圧を受け、レッドボアが一瞬怯む。そこへの一撃だ。将軍は右に足を踏み出しながら、レッドボアの正面から右にズレていく。それと同時に烈帛の気合とともに槍を下段から魔物めがけて振り上げる。


 まさに一撃だった。その一撃でレッドボアの首が宙を舞う。

 俺はそんなファラド将軍の絶技に口をあんぐりして見つめていた。


「坊主! 次はお前だ!」


 俺の呆けた姿を見たのだろう、将軍が俺に喝を入れてくれた。


 そうだ。……次のは?


「は、はい!」


 すぐに次のレッドボアが藪から飛び出す。二匹のレッドボアが居たため、発動できない罠もある。それでも両側から兵士がレッドボアの足元に重りのついた紐を引っ掛けた。兵士の手を離れた紐は、グルグルとレッドボアの4つの足を絡め、バランスを崩したレッドボアがドウと倒れる。


 俺は既に走り出している。倒れたボアが体勢を整える前に……。この時俺はかなりパニックになっていたのだろう。ボアが立つ前に殺らなければ、という強迫観念の中、魔力のブーストまで使い、走り出す。


「まだ魔法がっ!」


 後ろから声が飛んでくる。それを聞いて初めて俺は早く出過ぎたのに気がつく。


 ……もう止まれない。


 両手魔力を集め、一気にスピードを上げてしまっている。縛鎖の魔法がかかっていなければ、レッドボアは暴れ、狙いが厳しくなる。 


 ――外せない。


 レッドボアの動きをしっかり捉えるように目にも魔力を。細かい動きにすぐに狙いを合わせられるように両手に魔力を。そして素早い動きに対応できるよう、処理速度を上がるように脳に魔力を……。


 魔力袋に溜まった魔力を、必要な場所に満遍なく広げる。


 行け。


 狙いはセヴァと同じ。心の臓。


 レッドボアは起き上がろうと首をもたげ、前足でグッと地面を掴む。それを見ながら俺の脳は完璧なラインを描き、それに合わせ、槍を突き出す。

 セプテムの槍は、俺の体重を乗せて何の抵抗もなく心臓へと吸い込まれていく。


 ……。


 はぁ……。はぁ……。はぁ……。


「ラド! よくやった!」


 アドリックの興奮したような声で俺はやり遂げたことを知る。魔法での束縛の手順を無視してしまった事が、頭に残る。


 ――やべえ……。怒られるかも。


 ちょっと怯えたような目でファラド将軍の方へ目を向ける。だが、俺には将軍の表情が何を意味しているのか、全く読み取れなかった。


 突如目の前が真っ暗になる。


 ……。俺はレベルアップの衝撃で気を失ったのだ。



 ……。


 ……。


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