第24話 リヴァンスハント 1
それからしばらくして、狩りの知らせが届く。
狩場の方向は、城から見ると俺の館の方面の為、向かう途中で我が家へ寄るという話だった。おそらくここで少し休憩をしてからさらに山の方へと向かうようだ。
俺としては一度城へ行く必要も無い為助かるのだが、両親たちはアドリック達がうちへ寄った時の休憩時にお出しするお菓子などをどうするか、と、てんやわんやになっていた。
更に帰りはうちで一泊することにもなるかもしれないらしい。
「ぶー。ぶー」
「ああ! だから、侯爵家主催のリヴァンスハントに連れていけるわけ無いだろっ!」
「また自分だけ強くなろうって魂胆なんでしょ!」
「違うって、これもお付き合いなの!」
当然のごとくハティが俺だけレベル上げに行くという事にひどく嫉妬している。
もちろんアドリックのルード差別の撤廃は更生プランの主軸ではあるのだが、まだ外堀も埋まっていない。
そんな中ルードのハティを、それも使用人の家の人間を一緒にやらせてくれなんて、とてもじゃ無いが頼めないんだ。
ハティだってそれは分かってるはずだが……。俺の護衛としてスコットが同行するというのにもハティは我慢が出来ないらしく。朝からプリプリと怒ってる。
リヴァスハントは一発でかなりのレベルが上がる効率のいいパワーレベリングではあるのだが、ハティだって冒険者になって魔物を狩りまくればすぐに追いつくんだ。
貴族のやり方を真似した方がいいって訳でも無い。
「はっはっは。おい、ハティ。もう少ししたら俺がお前をレベル上げに連れてってやる」
「ほんとに?」
「ああ。きっとラドがその料金を出してくれるさ」
「うっぁ。まあ、払うのは俺じゃ無くて父親だからいいか……」
パワーレベリングの効果は割と高いらしく、それでレベルを上げた子はその後は自分たちだけでも狩りを出来るようになるとも聞いている。
ま、その時には俺も外出の許可をもらって一緒に行けるようになりたいものだ。
……。
……。
当日の朝、俺は皮鎧を見に纏い、朝からウキウキしていた。
皮鎧は兄が昔使っていた物らしい。そして、腰に差した剣も……。兄が子供の頃に渡されたもののようだ。
助かる事に剣は片手剣で、小さめのラウンドシールドも付属していたのだが、盾は使わない予定なので部屋に置いたままだ。
今更だが、うちは金がある割にこういうところはお下がりを使ったりとケチケチしている気がする。というか、俺がそういう扱いをされているのか。はたまた、親の教育的な考えなのか。良く分からないが、まあ、この皮鎧はカッコいいから何でもいい。
「お似合いですよ」
「ありがとう」
「気を付けてくださいね。あまり無茶をしないように」
「うん、わかってる」
「お坊ちゃん……。ほんとに無茶しそうで」
「いやいやいや、そんな事無いよ」
あまり信用されていないが、心配はされているというのは悪役転生者にとっては割と良い流れなんだろう。
それにしても初めての外泊だ。しかも野営。ワクワクは止まらない。
そして、いよいよアドリック達が屋敷に到着する。
そしてその規模に俺は唖然とする。
……これ、軍隊じゃん。って、マジか、義将ファラド……。
アドリックは五十人ほどの兵士を連れている。なる程、父親たちが準備に慌てるわけだ。兵士たちは家の中には入らないという事で、庭にはテントが張られ、炊き出し的な物まで行っている。
隊を率いるのは、セヴァの父親かと思っていたのだが、もっと大物だ。ファラド将軍という初老の兵士だった。
ファルデュラスの兵士は大きく三つに分かれており、一つはセヴァの父親の属する侯爵の近衛兵的な『エクスガード』。もう一つは一般的な兵士たちの『エクスフォース』。それから領地の有害な魔物などを狩る『エクスハント』、の三つだ。
ファラド将軍はそのエクスハントの将軍であり、この国でも有数な猛者としてもしられていた。
原作にも老兵として出てくる。しかも挿絵まであるキャラだ。内戦が始まるとエクスガードやエクスフォースは父親である侯爵と共に行動していたが、エクスハントの将軍であるファラドはアドリックと共に行動する。
ファラドは最後までアドリックを諫めながらも、裏切ること無く死んでいく。ファンたちの中でも義将ファラドとして愛されていたキャラだ。そんなファラド将軍が原作の登場時の老兵とは違い、まだまだ元気な姿で俺の前に現れたんだ。
思わず感動して目頭が熱くなる……。
「ん? どうした。ラド」
「え? いや。ちょっと目にゴミが……」
「今日は風が強いからな、天気が荒れる前に少し休んだらすぐに出よう」
「う、うん」
そうか……。俺が旨くやれば、ファラド将軍も……。
責任重大だな。
……。
……。
狩場はうちの屋敷からさらに数時間かけて登っていく。途中に当然魔物は出てくるがそれらはすべて兵士がしとめていく。
どうやら、先月辺りからここら辺にちょっと魔物の被害増えだしているらしい。
斥候の調査によると、レッドボアの一群が移動してきているのではという話だ。その魔物を俺達のパワーレベリングに利用しようというのが今回急遽決まった理由になるらしい。
レッドボアは、俺達が普段食卓で口にするフォレストボアの上位種で、額の真ん中にトサカのような真っ赤なタテガミを持つボア種だ。ボア種は基本的にどのタイプも猪突猛進型であるがその突進力は他の魔物とは次元が違う。こちらの陣形が崩れると一気に負傷者などが出る危険もある。
こんな六歳の子供で行けるのかと不安にもなるのだが、あのファラド将軍だ。しかも将軍の脇に居るのは間違いなく魔法使いだ。先日のリュミエラに引き続き、再び魔法が見れるのかと思うとウキウキする。
そのレッドボアのいる場所は、かなり山深い場所であるのだが、今回は一泊予定という事で、素早い行軍をするために全員騎馬に騎乗している。
そんな中、俺達三人の子供は、大きな馬に乗れるわけもなく。大人たちの駆る馬に乗せてもらっていた。
俺が乗っている馬はディクシーでは無いが、普段餌など上げたりして懐いている馬だ。そして俺はスコットの前にちょこんと抱かれるように座っている。
それが少し恥ずかしい。
だが、これはこれでしょうがないのだろう。俺のサイズ的に馬には一人じゃ乗れないからな。俺はスコットの腕の中でノートを広げる。今回は例のシロップ採取の為に白樺などの多い場所を調べるのも大事な予定だ。
……。
目的地は山の向こうになるので、初日は割と山を登っていく行程になる。ある程度山を登るとポツポツと白樺の群生している箇所もある。そんな場所を見つければ、折りたたんだ地図にメモを入れていく。レベル上げなんかはいつだって出来ると考えれば、むしろ俺の本当の目的はこっちだ。
「ここらへんなら、あまり魔物もいないかな?」
「居ることは居るが、まあ、大した脅威ではねえな」
「そっか……。あそこら辺が良さそうだね」
「……本当にそんな樹液が出るならな」
「出るよ。……多分」
一日で行ける場所にこれがあれば十分だ。しかも、馬の通れるような街道からそんなに外れない。
贅沢を言えば作業するための小屋などをつくりたいが、それは父親にプレゼンをきっちりやったあとの交渉だろう。
俺はホクホク顔でメモ帳を鞄にしまう。




