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第22話 槍の威力

 この日、俺は朝から一人馬車の中から外の景色を眺めていた。

 たまには剣の稽古をしようというお誘いがアドリックから届いたのだ。


 これは非常に俺をほっとさせる。


 前回は少し微妙な分かれ方をしてしまったので、「めんどくさい奴」認定をされて取り巻き枠から外れたらどうしようかと悩んでいたんだ。


 と、本来なら取り巻き枠から外れて、死亡エンドから逃げられるのを狙うのもありなのかもしれないが、プロスパー家がファルデュラス家の子分である以上、勝手に、もしかしたら更に悪い形で巻き込まれる恐れもある。


 コントロールできる範囲にいるに越したことは無い。



 今日は父親は用が無いようで一人で馬車に乗っている。そのせいか、御者の運転がいつもより荒い気がするんだが……。きっと気のせいだと思うことにする。




「おう、ラド。よく来てくれた」

「今日は誘ってくれてありがとう、ございます」

「ん? なんだよ、ございます。って、普通でいい」


 なんとなく怒ってるかな? って気持ちで思わず敬語で挨拶してしまうと、アドリックは笑いながら「普通でいい」と言う。

 俺はホッとしながらアドリックについて訓練場へ向かう。


「あれからどうだ。剣の練習は」

「がんばってるよ。だいぶ良くはなったと思うけど」

「魔法はまだか?」

「うーん。まだこなくて。特に失魔症からそんな経って無いから……。先生が来るまで魔法の練習も出来なくて」

「ああ……。たしかに怖いもんな」


 そんな話をしながら訓練場へ向かう。


 訓練場に行くと既にセヴァが練習を始めていたのだが……。なぜか長槍を持っている。


 原作の記憶をたどるがそこら辺のキャラで槍を使っているイメージは全く無い。もしかしたら貴族は色んな武器を覚えないといけないのか、などと考える。


 それにしても大人用の槍だよな。妙に長すぎないか?


 セヴァが持つ槍は、俺達の体の倍もありそうな長槍だ。しかも持ち手も付いており、なんだか突撃兵が体重をかけて突っ込んでいくのに使いそうなデザインだ。

 現に、セヴァは槍の柄から枝のように伸びている持ち手を左手で掴み、前側は右手で柄をグッとつかむ。そして走り出し、そのまま体重を乗せるように標的へ突きさす。


「す、すごいね……。え? 槍?」

「ああ。今日はラドにこの槍の練習をしてもらおうと呼んだんだ」

「え? 僕も? なんで?」


 突然アドリックがおかしなことを言う。俺にも槍を使えと?


「なんでって、狩りに行くっていってただろ?」

「う、うん。だけど僕は剣を練習してるよ?」

「……ん? もしかしてラドはリヴァンスハントを知らないのか?」

「リヴァンスハント?」


 俺が全く分からないと答えると、アドリックは丁寧に教えてくれる。


 原作小説でもあったが、この世界にはステータスのような物は無いが、レベルという概念はある。魔物を倒すことでその命の力を得る、などと理由付けはあったが、とにかくレベルを上げることで、身体能力や魔力などを上げることが出来るんだ。


 そして、そのレベルを上げる際の経験値は、対象の魔物と、人間のレベル差が大きいほど大量の経験値が得られる。という事の様だ。もちろんこの世界で「経験値」なる言葉は無いが長年の経験でそういったことが分かっている。


 その為、まだ一度もレベル上げをしていない子供のレベル上げとして、大勢の兵士が魔物を取り押さえた状態で、止めをささせるという、いわゆるパワーレベリングが貴族の間で伝わっている。その最初の狩りを「リヴァンスハント」と言うらしい。


「それで、あの槍なんだ」

「まあ、あれは練習用だけどな。体の小さい俺達が一番力を乗せられるやり方だ」

「たしかに、セヴァも全体重を乗せているもんね」

「それでも格上の魔物を倒すには俺達は魔力も足りないし力も足りない。……そこでどうするか。わかるか?」

「え? わからない」

「セプテムを使う」

「まさかっ! 勇者シリーズの?」

「ははは。実は百年以上前から我が家でリヴァンスハントに使われている槍はあったんだが、もう古くてな。プロスパーの腕利きに打ちなおしてもらったんだ」

「おおお」


 確かに子供のレベリングだけにセプテムなんて、と思ったが。話を聞くと代々伝わるリヴァンスハント用の穂先がこのファルデュラス家には伝わっているらしい。

 その穂先が刃こぼれをしていたりと、少し傷んで来ているという事で、それを打ちなおしたという事だ。


 本来のセプテムはレア素材をふんだんに使われた武器なので簡単に頼めるようなものでは無いのだが、元々あった素材組成が、勇者シリーズのセプテムに近似していたという事で、それをセプテムとして打ちなおしたという流れの様だ。


 素材を流用すれば後は技術料だけになる。それでも相当高くはなるが、青天井のレア素材と比べれば可愛い物だ。きっと、そのくらいであればうちの父親も格安で請け負った事も考えられる。そして、今回俺に声がかかったのも、そういった背景がありきのサービスなのかもしれない。



 確かにそういった伝説級の武器を使えば、俺達子供でも動けなくなった魔物のトドメをさすこと位は出来るのだろう。もちろん俺だってレベル上げはしたい。むしろ必須だ。こんな形で美味しいパワーレベリングに参加させてもらえるなら、喜んで参加する。



 槍の使い方は至ってシンプルだ。セヴァがやっていたように半身で槍を持ち、後ろ側の手で体重を乗せられるように横に伸びた持ち手を掴む。イメージでいえばトンファーの柄の様な感じで肘をぐっと曲げ、脇を絞って固定する。槍先の方向は前の柄を持った手でコントロールする。実に理にかなっている。


 今日は俺達三人で交互に突きの練習を重ねる。その後、俺は魔物の絵を使って若い兵士に魔物ごとの急所というのを教えてもらう。アドリックとセヴァはもうその話は聞いているとの事で、突きの練習を続けていた。


 一突きで急所を狙うというのはなかなか難しいかもしれないが、練習を重ねていくと俺もだいぶ槍の狙いをコントロールできるようになってくる。


 この日も、魔力を練らないようにと、気を使っていたが。体全体で突っ込んでいくのは結構楽しかった……。




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