表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/90

第21話 プロテイン

 本当はすぐにでも動きたいんだけど、動けないのが六歳の俺の限界。


 ただ、そんなに焦っても仕方ないんだ。時間はたっぷりある。


 エリックが行っている甜菜からの砂糖作りだって、作物を育てるところから始まる。六歳ならまだ実験段階で、ここから畑を広げ作付けをし、収穫するのだってまだまだ時間がかかる。多分収穫だって一年に一回くらいだろう。しらんけど。


 それから精製施設の作成、そして精製、さらに商品としての体裁を整えるための包装的な物の準備、その販路構築。……と、まだまだ完成には時間はかかると思われる。

 そこまで考えれば全然急がなくていいだろう。


 間にいろんなイベントはあったものの、エリックが学院へ入学する十二歳になるまでに何とか仲間たちだけでやっていけるように整備できたくらいのスピードだったと思う。


 そう考えれば六年もある。


 まあ、たぶん俺の父親はもう動いて、投資するから権利をよこせとエリックに圧力をかけているんだろう。そちらは無様に追い返されるのも時間の問題だと思う。


 もうそれは防げないので諦めるとして、俺としては関係が最悪の段階までこじれる前に、こっちの話を父親に持っていければ良い。


 そして学院に入り、うまく友達になれれば、その伝手で父親とも和解させる事だって出来るかもしれない。


 うん。行ける気がする。

 というか、上手くやらないと俺の優雅な異世界ライフが消滅する。


 それには綿密に計画をたてないとな……。


 ……。


 ……。


 まず何時ものように俺は本を調べまくる。こういう時、ローザが居ればよかったと本気で思う。ローザは割と何でも俺の質問に答えてくれた。


 数は少ないが樹木関係についての書籍もあるにはあるんだ。しかしいくら調べても、甘い樹液の樹についての記載は見つからない。これは植物学の研究が進んでいないと言うより、父親がそういう本を買っていないというのも有るかもしれないが。


 かと言って手を止めるわけにはいかない。俺の知識を総動員して、樹液の採取に必要なものを考えていく。


 俺の見たニュース番組でやっていたドキュメントだと、雪が残る林の中で幹に電動ドリルで穴を開け、そこにゴムホースを差し込んでペットボトルに集めていた。


 この世界には電動ドリルもビニールホースもペットボトルもない。どうやって採取するかだ。この世界の技術で出来そうなシステムを考える。


 ……。


 ……。


 ある程度道具の設計図みたいなものが出来るとそれをスコットに渡す。


「これを注文するのか? ん? 十個も?」


 当然お願いするのはスコットだ。街に出れない俺は鍛冶屋も知らない。ゴムホースが無いなら金属の筒みたいなのを差し込むしか無いからな。メガネが有るんだ。きっと作れる。


「まあいいけどよ、金は?」

「……え?」

「当然それなりに掛かるだろうよ……」

「あ、ちょっと待って、そっか、お金あ……」

「くっくっく。しっかりしてるようで、そういうのを見ればやっぱり子供だな」


 くっそ。金か。そういえば自由に使える金なんてねえよ。マジか……。

 スコットは呆れたように、それでも楽しそうに笑う。


「えっと……。建て替えとかは?」

「しねえよ」

「ぐっ」


 再び壁にぶち当たる。一度シロップを試作できればそれを持って父親を説得する自信は有るんだが、今の段階ではまだ厳しい。


 くっそ。金か……。俺のラノベの知識を総動員して……。


 ……。


 ……。 

 

 「金」。それは手が届きそうで届かない物。


 ……おいおい、どうやって知識チートをすりゃいんだ。俺は何か無いかと必死で考える。


 よくあるのはリバーシだ。ただこれはエリックがちゃんと行う。学園編に成れば王都でセレブ相手にシャンプーみたいなのも作ってた。一般人の知識で出来るものは大抵が主人公の大事なポイントだから、俺が使うわけには行かないんだよな。


 それと、問題は俺達が知識チートをするためには、大人の後ろ盾がある程度必要になるということ。エリックの場合はエリックのアイデアに乗り、大儲けをする仲の良い商人が出てきて、事前投資や、材料の提供などしてくれるのが大きい。


 俺が動かせる金……。そんな事を考えながら、以前ちょっと考えた知識チート的なアイデアを思い出した。


 プロテインだ。


 牛乳を温めて、レモン水を入れると成分が分離する。それを濾して、出た水分がプロテインになるんだ。本当にそれだけなんだ。

 で、そのタンパク質は、牛乳よりも速やかに体に吸収される性質を持っている。


 ただ、保存料とか無いから作ってすぐ飲む感じにはなってしまうけどな。よく売ってる粉のやつはちょっと作り方が分からないが。液体のものなら作れる。


 悩んでいても仕方ないしな。気分転換に作ってみるか。


 ……。


 ……。


「お坊ちゃま、厨房に入られては困りますっ!」

「あ、その牛乳はっ!」

「あ、そのレモンはっ!」

「すいません、鍋はおもちゃじゃないのですが……」

「ああ、その器は、歴史ある……」

「ああ、その布は洗ったばかりで……」


 気分転換のつもりだったのに、俺が厩舎にたどり着く頃には、ガッツリ精神を削られていた。


 それでも、強引に持ち出せば身を挺して俺を止める使用人など居ない。俺はこの家のご主人様の息子だからな。やりたいことは、何だって出来るんだ!


 俺は、お坊ちゃまだぞ!


 ……あれ? 


 これじゃ、いつまで経っても人気者になれないのでは?


 後で謝りに行こう……。




 この世界にはガスコンロなんて無いが、魔道具のコンロはある。そういう面ではかなり日本の感覚に近い状態で料理なども出来る。

 厩舎の脇にティリーの家族の家、というか住処がある。そこの厨房で俺はプロテインの作成を始めた。


 といっても少し温めて、混ぜて濾すだけだが。


 濾して取り出した液体がホエイプロテインと言って吸収の早いタンパク質。で、凝固して固まったほうがガゼインプロテインと言って吸収の遅いプロテインとなる。


 まあ、大学時代に仲良かった筋トレマニアの友達が、金が無いからといつも自作していたのを見てて覚えたんだけど。

 トレーニングした後にハティとこの液体の方を飲めば、効果はありだと思う。


 ガゼインの方は味が無いから塩と残ったレモン汁でなんとなくチーズっぽくして完成。大学時代の友達はこれをブラウニーっぽく加工していたが、そんなのは無理だ。


 そして今回のお目当てのホエイの方は、なんとなくヨーグルトから出る汁みたいな感じだ。まあ、そのまま飲むのが良いのかもな。



 この国の庶民の食生活とかのレベルは分からないが、一応ハティを強い冒険者へと育てるには、絶対ありなアイデアだと思うんだ。


 ただ、作ってみてわかったが。これで金を儲けるのは無理だ。防腐剤とかもわからないし。市販で売っているプロテインは粉状だったから、大豆とか、元々の作り方から違うのかもしれない。

 俺には残念ながらそこまでの知識は無い。


 うん、正直に言うとこのプロテインを作る前からそれはなんとなくわかってた。

 思いついたからハティの為に作りたかっただけだ。


 ……金か。


 やりたくなかったが、手段はあるにはあるんだ。


 親の蔵書は俺にとって役に立ついい情報が沢山ある。

 しかし、その中にもかなりデタラメ感が強くて、参考にならないものも有るんだ。そういうのを売るのもありかもしれない。本というだけどこの世界では貴重なものなんだ。


 ……。


 結局親のスネをしゃぶる思考へと流れる自分が悲しい。


 が、いらない本はブックオフだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ