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第二十話 甘い話

 ま、魂を売ったとしてもそうそう簡単に情報が入るわけでもない。スコットとしても、モーガンの秘密は絶対に守るはずだ。俺が違和感感じるくらいに大量の情報を持ってくるなんてこともしないだろう。


 それでも格上の侯爵家の令嬢の情報なんて、男爵家の次男坊の俺が普通手に入れるなんて無理だ。


 そう考えれば少しはプラスだろう。


 ……プラスと考えなければ割が合わない。


 ……。


 ……。



 もう俺はスコットの目など気にすること無く一人で三十二式太極剣を繰り返す。流石に俺の部屋で剣を振るうのは難しいから、ここはちょうどいい。


 始めは自分にも教えろというハティも、ゆっくりの動きをひたすら続ける動作にすぐに飽きて、スコットとの稽古に戻ってる。


「すー。はー……」


 ここ三日ほど、魔力操作もサボっていたからな。


 俺は何時ものようにじっくりと魔力を練りながらゆっくりと動作を繰り返す。


 ……ん?


 こういった訓練を始めてから毎日やっていたが、なんとなく魔力の感じがいつもと違って感じられる。なんだろう。三日ほどサボったとか関係あるのか?

 良く分からないが少し楽しくなり、俺は少し套路のスピードを早める。ある程度のスピードでもバランスは崩れない。


 心做しか魔力も増えてる気がしないか?


 久しぶりの魔力操作の練習だから、そう錯覚してるのかもしれないが……。もしかしたら筋トレのようにに休ませる日を作ったほうが超回復みたいな効果があるのかもしれないな。


 少し色々試す価値はあるかも。


 相変わらず魔力増加のための放出は気持ちが悪くなるためやっていない。そんな中あまり自分のトレーニングに変化を感じられずに居たため、この感覚は少し嬉しかった。



 

 しばらくして、套路を終えた俺が振り向けば、何時ものように木の木陰の休憩所で二人はお茶をすすっていた。


 ――ははは。城のお茶会とはだいぶ違うな。


 そんな事を思いながら俺も休憩することにする。

 どういう訳か、こういった皆の休憩所というのは誰かしら何かを持ち寄り段々と快適化がすすむ。日本での記憶でもそういう感じの場所があったな。


 はじめ、俺達は木の下で敷物の上に座ったりしていたが、雨の後などに地面が濡れてたりすると、布地の敷物まで水がしみてきたりする。そんなこともあり、いつの間にかスコットが持ってきた木箱がだんだん増え、最近ではどこからか樽まで登場してテーブルの代わりをしている。


 そう考えればテラスのテーブルと似たようなものかもしれない。


 ……あれ?


 木箱に俺が座った時、なんとも言えない違和感が俺を包む。あれ? 何か忘れてる?


 いや……。


 ……違う?。見落としている?


 なんだ?


 心のなかに変なもやもやが残る。


「どうしたんだ?」

「いや……」


 スコットの言葉にも何と答えていいか分からない。そしてふと上を見上げて気が付く。


 ――もしかしたら!


「スコット、ナイフある?」

「あるけど、どうした?」

「ちょっと貸してっ!」


 俺はスコットからナイフをひったくるように借りると俺達の宿り木……。白樺に向かう。そして、ナイフを逆手に持って白樺の幹に突き刺した。


「お、おい、何を――」

「ちょっと! ラド!」


 それを見ていたスコットもハティも驚いたように声を上げるが無視だ。

 ガッガッ。ハティにとっても子供の頃から目の前にある木だ。突然ナイフを突き立てられたらたまったもんじゃ無いのだろう。立ち上がって俺を止めようとするが、それをスコットが停める。


「な、なんで!」

「見てろ。こいつは無駄に傷つけるなんてことはしない」

「だってしてるじゃん!」


 外野がうるさいが再び無視。


 ――ダメか?


 少し深めに開いた穴を見るが、俺の思ったような事にはならない。やはり季節が重要なのか。それでも穴に指を突っ込むと少し濡れている気がする。

 俺はナイフで穴をほじくり、木片を取り出し口に入れる。


「ほら! ラドおかしくなっちゃってる」

「おい、ラドリック。どういうことだ」


 俺は目を閉じ必死に木片に感覚を集中させる……。口に入れた木片から仄かに甘味を感じた。


「はっはははは よしっ! よしっ! なんとかなるかも!」


 俺は自分の予想がドンピシャに当たり笑いが止まらなくなる。


「あ、やっぱ駄目かも」

「リュミエラ様の事を煽りすぎたか……」


 だが、意味が分からない二人は憐れむような目で俺を見てる。


「違うよ、ほら、甘いんだ」


「もうあの頃のラドは……」

「……戻ってこない」


 うーん。やめてそう言う目で見るの。

 俺は少しづつ樹液で湿ったと思われる木片を二人に渡して舐めるように言う、二人とも一瞬顔を見合わせて悩んでいたが、やがて二人とも口にする。


「いや……。確かにほのかに甘いといえば甘いが、これがどうしたんだ? 樹液には虫がたかる物だろ?」

「そうなんだけどね、これを鍋いっぱいに集めて煮詰めれば、甘いシロップになるんだ」

「この木片がか?」

「いや、この木片を湿らせてる樹液」

「……大丈夫か?」

「え? 何が?」

「こんなちょっと湿らせるくらいの樹液をどうやって集めるんだよ」

「……ああ。まあそれはね……」


 たぶん、冬から春へと変わる雪解けの時期じゃ無いと、ダメなんだよな。


 樹液を煮詰めてシロップにする。それは誰もがメープルシロップを思い出すだろう。俺だってそうだ。だけど、同じように甘いシロップを作れる木が他にもあった。


 それが白樺だ。


 よく無糖のガムに使われるキシリトールは白樺から発見された記憶がある。日本に居た頃住んでいたところも山国信州だったし、郷土の町おこし的な事業で白樺からメイプルシロップみたいなのを作ってるのをテレビで見たような記憶もある。


 キシリトールは大量に摂取すると下痢をしたような記憶があるが、たしか白樺のシロップはブドウ糖がちゃんとメインだったような気もするんだよな。そこはちょっと要注意かもしれないが。


 どうなんだ?


 多分、実際の味としては白樺のシロップはメイプルシロップには敵わない。白樺シロップが一般的じゃなかった事からそれは分かる。まあでも、ここが日本人による創作上の異世界なら微妙な差までは無いかもしれない。


 そうなれば白樺から普通にメイプルシロップが採れてしまうかもしれないし、逆に白樺にはそういう特性が与えられて無く、春になっても大量の樹液が採取できない可能性もある。


 でも今はこれに縋ろう。


 とりあえず、やるだけやる。だな。


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