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第十三話 剣の練習の開始

 パーティーから数日後、何時ものように部屋で気を練って……。いや、魔力操作の訓練をしているとトントンとノックの音がする。


「どうぞ」


 そう言うと、何時ものようにティリーが中にはいって来る。いや太極拳をやりながら背中を向けているので顔を見ていないがすぐにティリーがおずおずと声をかけてくる。


「お坊ちゃま、よろしいでしょうか」

「なんだ?」


 ちょうどその時の俺は雲手ユンショウという套路をしていた。二十四式の套路で言えば中盤辺り、俺は最後までやってしまおうと返事をしながら動きを続ける。


「今日は剣の先生をお連れいたしました……」

「ん?」


 流石に先生を連れてきたと言われて続けては居られない。俺は「単鞭ダンビェン」「高探馬ガオタンマ」から「収勢ショウシー」に繋いで手を止める。

 一応魔力を回しているので変に終われないと言うのもあるが、幼少時代からの癖だ。


 気を静めながら振り向けば、いつぞやのスコットが目を見開いて俺を見ていた。


「今のは……。武舞踏……か?」

「いえ、単なる体操ですよ」

「今のが? なんだあの魔力の使い方は……」

「え? 魔力? そういうの分かるんですか?」


 何の話だ? もしかしてスコットは魔力を見ることが出来るのか?


「……むしろお前にはわからないのか? あれだけのことをして」

「あれだけって……。えっと。僕は魔力の操作を出来るように練習していただけで……」

「……魔力操作の練習だと?」

「はい……」


 スコットはしばらく黙ったまま俺を見ていたが、やがて苛立つように髪をぐちゃぐちゃとかき回す。


「あああ。しょうがねえな。今さっきまでどう断ろうかと悩んでいたんだけどな。いいぜ。おもしれえ」

「おもしろい、ですか?」

「ああ、剣を教わりてえんだろ?」

「はい。少しは身を守れたほうが良いと思いまして」

「ふざけるな。俺のはそんな優しい剣なんかじゃねえよ」

「……えっと?」

「俺は冒険者だ。当然、魔物を殺す剣、さ」


 スコットは獰猛な笑みで笑う。


 ……。


 スコット・モーガンという名前を聞いたときから、もしかしたら? というのはあったのだが……。実はこのスコット自体はおそらく小説には出てきていない。


 ではどういう事か。


 この小説の中では、国王を支える四聖賢という存在がいる。言ってみれば家老とか、元老院みたいな存在なのだが、その四聖賢が王国内の情報を管理するためにエージェントの様な人たちを国の方方に入れている。そしてそのエージェントたちは皆「モーガン」というセカンドネームで活動していた。


 実際そんな名前を統一していれば色々とバレるきっかけになりそうで駄目な設定だとは思うが、小説の設定だ。当たり前のように使われていた。


 その「モーガン」達は王国内の各地で冒険者や一般人として溶け込んでいるのだが。おそらくスコットもモーガンの一人だろうと推測している。


 モーガンは通常は完全に一般人として生活しており、かなり自由に生きているものが多い設定だった。そして、モーガン達は皆腕利きの戦士というのもあり、俺が剣を教わるのにちょうどいいと思ったんだ。


 ……。


「んと、それでなんだけど一つお願いがあってね」

「お願い?」

「うん。もう一人、一緒に稽古をお願いしたいんだけど……」

「もう一人? 聞いてねえぞそんな話」

「うん、今初めてお願いしたからね」


 そう言いながら俺は隅にあった木剣を二本手に取りスコットに部屋から出ようと合図をする。スコットは訝し気に俺を見るが俺は笑っていなす。

 出がけにティリーに小さくウィンクをして俺は庭に向かった。


 ……。


 以前も言ったが、ティリーの妹のハティは、小説の準レギュラーの凄腕冒険者として出てくる。ここでこうして幸せに暮らしているのに、なぜ冒険者として出てきたか。そんなことを考えると一つの推測が出来る。


 ティリーが俺、もしくは両親の不興を買い家ごと追い出され、その中で食うに困って冒険者という道に入った。そんな感じだ。

 で、現時点で俺がティリーを追い出すとかありえない。そうなればハティもこのまま我が家のメイドとして落ち着くか、もしくは父親の跡を取り馬番をやっていくか、になる。


 それはそれで幸せだとは思うが……。


 あれだけ強いハティを埋もれさせるなんてありえないよな。

 

 俺は別に魔法でやってくつもりだから良いのだけど、ハティを強くすることが俺の仕事だと感じるんだ。


 それについてティリーはおそらくいい顔をしないのは分かっている。

 可愛い妹に危険な冒険者の道へといざなうんだ。


 と、まあそれでも俺はやる。


 あの「竜食らい」のハティが俺の手駒になるかもしれないんだぞ?


 ……。


 ……。


 当のハティは俺からの提案に目をパチクリさせていた。


「え? 剣の練習? なんで?」

「なんでって、こんな世界だからな。身を護る術はあった方がいいじゃないか」

「うーん……」

「それに父ちゃんだって姉ちゃんだって護れるんだぞ?」

「護るって?」

「悪い奴がいるかもしれないって事さ。強ければそれだけでお得だろ?」

「うーん。でも文字だって覚えなくちゃ」

「一緒にやればいいさ。もうだいぶ読めるようになっただろ?」

「むむむ……」


 男の子なら剣を教われると言われれば喜ぶ子も多いだろうが、女の子だしな。少し渋るハティに少し俺は焦る。

 女の子に父ちゃんや姉ちゃんを護るって言ってもピンと来ないか……。

 参ったな……。


「ほ、ほら。馬泥棒が来ても追い返せるぜ!」

「え? 馬泥棒? それはダメ! やる!」

「お、おう……」


 よし。馬泥棒な……。自分の閃きが恐ろしいぜ。

 横でスコットは嫌そうな顔をしているが、まあ教えてみろ、飛ぶぞ? って気分だ。


 ……。


 ……。


「違う、だから右手が前で左手が後ろだって!」

「分かってる!」

「いや逆だろっ!」

「だって、こっちが右でしょ!」

「……ぉぃ」


 あれ……。

 ちょっとやらせてみてすぐに「こいつは!」ってなる予定だったんだけどな……。もっと基本的なことがダメだった。


 半ギレのスコットが、ハティの常識的な部分を俺も一緒になって教えるように言う。


「いや、俺も教わろうとして……」

「少なくともお前は剣を持てるだろ?」

「振り方は……」

「まあ、悪くない」

「えー……」

「剣は小指と薬指で支える、出来てるじゃねえか。そんな事普通は知らねえぞ?」

「えっと、本に載ってたから……」

「まったく……。なんでも本だな? まあ本と実践は違うってのはな……。いや。そこはハティが剣の基本を覚えてからにしろ」

「う、うい……」


 流石にハティにも教えろと言うのは、俺のエゴも多い。突き放すことも出来ず受け入れる。


 確かに俺は太極剣は教わってるから、基本的な剣の持ち方は分かるんだけど。ハティが選んだのは両手剣だ。そっちはやったことは無いんだぜ?


 ……なんて事をスコットに言うことも出来ないが。


 そして、ハティがちゃんと剣を持って、ちゃんと振るようになるには二日ほどかかることになった。


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