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104 サンヴァイン

 角笛馬車は俺達の姿を見るとスピードを落とす。

 それに先んじてフェルトが馬を駆り俺達のところまでやってきた。


「盗賊か?」

「うん。ほら、イタルカの……」

「ああ……」


 それでフェルトは話を理解したようだ。特にフェルトはリュミエラを助ける時に手伝ってくれている。同じ集団の盗賊とも戦った仲だ。


「で、そいつは?」

「コイツラのリーダー。一応話を聞きたくてさ」

「話?」

「なんか、子供にやられるのが二回目だっていうからさ」

「お前みたいな子供なんて……。シュトルツか?」

「知ってるの?」

「それはまあ噂になってたからな」

「でも、その子のほうが全然すごいと思うよ。たぶん」

「ははは。謙遜するな。同い年だって言うじゃねえか。学院で一緒になるんじゃないか?」

「ん。まあ、そんな話アドリックもしてたね」

「侯爵令息も無視はできねえってか」

「それだけすごい子なんだよ、その子」


 当然フェルトもエリックのことを知ってるのか。シュトルツ領というか、北の開拓地にもモーガンは居て、なんとなくエリックと絡むシーンはあるけど。モーガンとして絡むように成るのはまだまだ先なんだけどな。もうモーガンたちはエリックの存在をチェックしているんだな。


 流石だなあなんて思いながら鎖で束縛した男をどうしようか訊ねる。


「次の街で、軍隊にでも突き出せば良いの?」

「ん? そんな手間はかけなくても良い。ただでさえ荷物が多いんだ」

「え? じゃあ、そのまま逃がすの?」

「逃がすわけ、無いだろ?」


 そう言いながらフェルトは腰の剣を抜く。うわ、まさか……。と思うがそのまさかで、フェルトはそのまま剣を一閃させる。


「……お金にはならないの?」

「知らねえが、生かしておいても良いことはねえからな」

「……そっか」


 捕らえてしまえば、その身柄に対しては責任を取らないといけない。そんなふうに考えていたのはやっぱりまだ日本の感覚が抜けていないからなんだろうな。

 だけどまあ、俺だって他の盗賊はほぼ殺してしまってる。


 なんとも言えない気持ちで後ろから来た馬車に乗り込む。


「大丈夫だったんか?」

「このくらいならね……」

「ふむ……。何があったか知らんが、あまり無茶はするんじゃないぞ?」

「うん、ごめんね」


 年の功とでも言うのだろうか、あまり深く突っ込んで来ないグランパに感謝だな。


 角笛馬車の中には来る時に乗っていた老夫婦は居ない。聖地への巡礼と言っていたからそのまま今度は帰りの馬車に乗るということなのだろう。

 新しい客はおらず、あとは俺達三人と、若い男が一人になった。


 ……。


 この馬車は乗り続けるとそのまま王都に行く、俺達の目的地は北のシュトルツ領だ。このまま王都に行き、そのまま北へ向かう別路線の角笛馬車に乗ると思っていたのだがグランパは少し違うルートを使う予定だ。


 途中でシュトルツ領へ向かうルートのあるところまで横に迂回するルートを使うという。感覚的に言えば関越道から圏央道を使って東北道に乗り込む、みたいな感じだろうか。


 ただ、その横方向のルートは国営の馬車ではなく、その領地の領主により運営されている物で、そういった馬車は力があり、それなりに広大な領地をもつ必要もある。今回はアンカライト領の馬車を使う。


 アンカライト伯爵。原作では主人公エリック・シュトルツを色々と支える心優しき伯爵だ。学園卒業後の王位争奪の内戦では、エリックとともに第二王子側に立って戦う。

 そこにはまた一つの悲劇があるのだが、まだ今は平和な時代をのんびりと生きているはずだ。


 アンカライト領は南北に伸びる広大な領地を持つ。北にはノルヴァイン、南にサンヴァインという大都市を抱えその二つの都市を流通させる馬車のルートがある。

 角笛馬車までとは言わないが、王国ではそれなりに重要視されているルートだ。



 そしていよいよ俺達はアンカライト領の南端の大都市サンヴァインへとたどり着いた。


「なんでえ、王都までいかねえんか?」

「うん、グランパが色々ルートを考えてくれているからね」

「そうか。ま、俺もここで護衛を代わってもらえる予定だからな。戻りの角笛馬車を捕まえて帰るさ」

「そっか、まあそうだよね」


 一人の冒険者が角笛馬車のルートすべてを護衛するなんてことはまず無い。一ヶ月弱の時間がかかる馬車旅だ、途中の主要都市で護衛も変わっていくのが当然だ。

 だから、フェルトもファルクレストから護衛を受けたわけで、そこまでの間には別の護衛がついていた。このファルクレストからサンヴァインというのは一つの既定路線らしい。


「フェルトさんはこの街詳しいの?」


 ファルクレストとまた少し違う少しゴミゴミした雰囲気の都市に俺は少しワクワクしながら訊ねる。


「そら、今回みたいに護衛がみつからねって頼まれたりするからな。何度も来てる」

「じゃあ、街を案内してよっ」

「ん? ……まあ良いけどよ。先に馬車の予定を見るべきだな」


 たしかにそうだ。次の出発の日をチェックしておかないと下手したら何日も足止めを食らうこともある。

 角笛馬車の駅と領営の馬車の駅は同じ建物だ。ここで荷物を下ろして領の内地へと運ぶという役割もあるらしい。グランパが受付でしばらく話をしていると、木札を手に戻って来る。


「二日後に出発らしい。二泊宿をとらんとな」

「じゃ、この街を少し見れるね」

「そうじゃな。ラドは本当に街を歩くのが好きじゃな」

「そりゃあそうだよ。この街も、またぜんぜん違うんだもん。ちょっとワクワクしちゃうよ」

「そうか」


 俺達の話を聞いてフェルトも苦笑いをする。


「確かに街が違えば建物も違うけどな、でもまあそんな違うか?」

「見たことのない街ってなんか歩きたくなるんだよ」

「ふうん」

「それに、美味しい食べ物もあるかな? アンカライトも名物とかあるの?」

「名物か……。確かにどこの店に行ってもサバ料理が出てくるかもな」

「……サバ? でもここの領って海は無いでしょ?」

「ああ、サバと言ってもオイル漬けだ。保存食だからなアンカライトまでも運べる」

「オイル漬けかあ。確かに、うちでも食卓に出てきたことあるね」

「そりゃそうだろ。プロスパーは漁港を一つ持ってるはずだぞ」

「まじ?」

「なんだ、知らないのか。プロスパーのオイル漬けもおそらくこの街に入ってきてるだろうしな」

「へ、へえ……」


 そんな話、聞いたことねえよ。って目でグランパを見るが、グランパも少し驚いたような顔をしている。多分知らなかったんだろうな。


 内地で、海の保存食が名物になるなんて少し不思議に感じるが、言われて見れば日本でもサバ缶の消費量は長野県が一番高いという。缶詰でもオイル漬けでも、その土地の料理に浸透すればそういう事もあるのかもしれないな。


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