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第十話 気功と魔術

 魔力量を増やす試みは失敗したが、魔力操作はかなり順調に進んでいた。

 

 ただ、物の本によるとこの魔力操作は、特に珍しい物ではない。むしろ冒険者には必須のスキルともいえる。

 

 この世界で魔法を使える者は全体の一割程という。

 それを考えても当然魔法を使えない冒険者の方が圧倒的に多いのは分かる。だからこそ、魔法の使えない冒険者は魔力操作を覚え、特定の箇所に魔力を集めることで、その部位の筋力などを増強する。

 そうやって人間よりパワーのあるモンスターとも戦えるという訳だ。


 それは俺がやってる魔力のコントロールはそれに近い物で、やはり魔力って「気」みたいな感じだなって感想になる。

 

 站樁功で始めた魔力操作の訓練も数日経てば、動きながらでも出来るようになってくる。八法五歩や、八段錦、ジュニア太極拳などもやってみたが、どうやら自分は二十四式太極拳が一番しっくりくる。


 日本じゃ最も一般的で、一番やらされた套路だから体も考えずに動けるというのがあるのだろう。


「踊り……。ですか?」


 太極拳なんて知らないティリーは不思議な顔でそれを見ていた。


 実際俺のやってる太極拳なんて武術というより体操だ。中国人の為に、中国政府が武術太極拳をベースに編纂させたのが二十四式太極拳と考えれば、そうだろう。日本のラジオ体操の様な物なのだ。


 ただ、魔力操作を覚えるにはそういったゆったりとした動作で、ゆっくりと細く呼吸をしながら体の中の魔力をしっかりと回していくというのが最適だった。


 そしてこれがかなり心地いいんだ。


 しかも日に日にスムーズに魔力を回せるようになると、ちょっとした中毒になる。俺って太極拳は嫌いじゃ無かったのかも、って思う。


「運動……かな?」

「はぁ……」

「ん? でどうしたの?」

「あ。明日のパーティーに着ていく服を着てみてほしいと」

「ああ……」


 ティリーに言われ俺はすぐに応接室へむかった。


 ……。


 応接室では仕立て屋が俺を待ち構えていた。採寸も仮縫いも既に終わっているので後は完成品を受け取るだけなのだが、念のため本番前に一度着てもらいたいとの事だった。


「ありがとうございます。こちらがお洋服でございます」

「ありがとう。うん……。じゃあ着てみるね」


 母親も俺の服を確認するために立ち会っている。「素敵ですわ」なんて言ってるが、本当に興味があるのかは不明だ。おそらく仕立て屋さんの後ろに女性物の服が吊るしてあるので、そっちがメインだろうなと思う。


 こんな仕立ての服なんて、どんどん成長する子供には勿体なさすぎな気がしてしまうが、社交界デビュー時の服というのは一応はかなり大事なポジションの様だ。

 七五三の着物みたいな存在といえばいいのだろうか。



 さらに、このスーツのスタイルで爵位が分かる。これはローザから教わった社交界マナーの授業の記憶が残っている。


 俺の服はいわゆるタキシードスタイルだ。そしてその形状で爵位などの地位が分かるようになっている。

 例えば襟の形にも決まりがある。士爵はノーカラー。男爵、子爵家はノッチドラペルだが、その太さや高さなどに違いの決まりがある。それから伯爵はショールカラー。侯爵以上からピークドラペルを着用する。

 それから、ズボンの側章の本数も爵位と関係があり、さらに燕尾服のように後ろが長いものは侯爵以上……。などというルールまである。


 パーティーでは顔の知らない貴族が居てもすぐにその服装から自分より上の爵位の貴族か分かるようにということらしい。


 かなり重要らしく、しっかりと覚えさせられていた。


 鏡を見れば、馬子にも衣装という言葉が浮かぶ。丸メガネに天パーの少年も少しはビシッとした雰囲気を出していた。


 ……。


 ……。


 パーティーの日。


 パーティーはディナーと聞いていたが、思った以上に出発は早く、昼過ぎにはもう屋敷を出発するという。


 初めての馬車に、初めての外出。これから始まるアドリックとの出会いに緊張しながらも俺は少しうきうきしていた。

 偶然なのか、ティリーの父親が気を利かせてくれたのか、初めて乗る馬車を引いてくれるのがディクシーというは嬉しい。俺はディクシーをそっと撫でて「よろしくな」と呟く。

 


 家族三人が乗り込むと馬車はゆっくりと動き出す。俺は異世界の街並みを楽しもうと、小さな窓から移り行く景色を見つめていた。


 うちの屋敷は街から見ればかなり郊外に位置している。ぽつぽつとした民家が、町の中心に向かうにつれ次第に増えていき、やがて街と呼べるような街並みへと変わっていく。



 普段はあまり会話の無い親子ではあったが、やはり息子のデビューという事で言いたいこともあるんだろう。


「アドリック様とは今回が初めてだな。せっかく同い年なんだ、仲良くやるんだぞ」

「はい。パパ」

「……会場ではお父様と呼びなさい」

「はい、お父様」

「アドリック様は最近剣を習われているようだ。お気に入りのタイプなどがあれば聞いておきなさい」

「でも、子供向けだと勇者シリーズは無いんじゃないの?」

「プロスパーの武器はそれだけじゃないからな」


 我がプロスパー商会は多種多様なものを取り扱う総合商社だが、元々は鍛冶屋から始まっている。そのため今でも一番のメインとして武器を売っている。


 プロスパーの武器はFランク冒険者向けからSランク冒険者まで幅広いグレードが用意されているが、それとは別に勇者シリーズとも言われる特殊仕様の4グレードというのが有名だ。

 それはトリニティ、セプテム、ドゥオデカ、クァドラジェシマという4つのグレードで、グレードごとに素材の違いなどで分けられている。そしてそれぞれが一流の職人により作られ、冒険者の憧れになっているのだ。


 勇者シリーズは最低ランクのトリニティの剣でも日本円の換算で一千万近く。クァドラジェシマに至っては数億という超が付く高級品だ。


 プロスパー商会の商売の上手さを感じる部分として、文化の劣るこの異世界で、冒険者に対してスポンサー契約を結んでいるという点がある。国家の最強と呼ばれるSランク冒険者パーティーがクァドラジェシマ級の装備で身を包むことで、多くの冒険者たちのあこがれとなっている。


 まあ、それも小説の主人公であるエリックはプロスパー商会のスポンサー契約の誘いを蹴り、ドワーフたちに日本刀の作り方を伝授したりしてバランスを崩していくという話があったりするのだが。それはまだまだ先の話だ。


 一般的に武器を、個人の鍛冶職人が作り、小さい個人店で販売している時代に、多くの鍛冶職人を雇い技術力を一定レベルに保ってそういったシリーズ展開をしている父親は、ある意味超有能な商人であることは間違いないのだろう。


 おそらく父親はファルデュラス侯爵に取り入るために、その子供に武器でもプレゼントしようと考えているのは察する。




 このパーティーは「テンポル・ソーリス」という毎年夏至を祝って行われるパーティーだ。ファルデュラス侯爵主催のパーティーとしては最も格式高く、息子をの社交界デビューにふさわしいと考えたようだ。


 プロスパー家や、クロフトール家のような寄子以外にも近隣の貴族などが呼ばれ盛大に行われる。


 原作に乗っていないが、俺にとっては転生後最大のビックイベントとなる。


 こうして、俺達を乗せた馬車は、領主の城門をくぐる。


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