表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

目撃者

 英麗女子高等学校の最寄り駅、英麗駅まで来たわたしたち。

 ここからはわたしは路線バスで、羅夢は電車で自宅まで帰る。


「つらい、これが別れというものか……行かないでくれ、友よ」

「なんて言ったらいいのか、あたしには分からん。却下」


 バス停の列で別れを惜しむわたしに、羅夢は突き放した言い方をする。


「そんなこと言わずに、さよならの口づけでもしようよ」

「するかっ。お前とそういうことをするのなら、いっそタワシにでも口づけしたほうがまだましだ」

「タワシ……? わたしとのキスって、実はタワシ以下だったか」

「正確には、タワシの下位互換がお前だな」

「悲しっ」

「そんなこと言うなって。せっかくバス停まで来てあげたんだから、悲しい別れにさせるなよな。……ほら」


 羅夢は両手を広げたかと思えば、そのまま正面にいるわたしを抱き寄せ……ハグ。


 途端に目頭が熱くなる。……続いて、顔も。


 わたしはすべての愛情を込めて、羅夢と同じように彼女の背中に腕を回した。


 しばらくのあいだ、わたしたちは抱きしめ合っていた。

 ようやくハグをやめたのは、バス停に路線バスが来たときだった。


 バスの発車の都合上、あまり羅夢に伝える時間がなかったので、わたしは「さよなら三角、またきて四角!」とだけ言って、彼女に手を振った。

 そのときだけは羅夢はツッコむことをせず、ただ優しく「ああ、またな」と手を振り返してくれた。


 ……あれ? 気のせいか、羅夢の奴、泣いてなかったか、今。


 わたしはもう一度羅夢の顔を見るため、後ろを振り返ろうとした。

 だが、後ろにいた客から早く乗るように急かされたため、やむを得なくバスに乗り、交通系ICカードで運賃を支払った。

 バスの外にいる羅夢のほうを見る余裕もなく、わたしは前列が客で埋まっているのを確認すると、右側後列の二人掛け席を目指した。


 この席の窓辺側には先客がいて、同じ英麗女子高等学校の生徒だったことから、わたしは安心して黒髪ショートの小柄な彼女の隣に腰かけた。

 ……だが、彼女の隣を選んだのは間違いだったのだと、わたしは座ったあとに気づいた。


「ずいぶんと仲がいいようですね。実はお二人……先輩と月城先輩はカップルだったりします?」

「ん? って、あんた……」


 ――発車します。


 何事もなく発車するバス。

 ハプニングに絶句するわたし。


 そう、この窓辺の席に座っていたのは……一学年下の冷徹な後輩、安藤麻衣あんどう・まいだったのだ。


 見られた。

 わたしと羅夢がイチャイチャしている姿を見られた。

 よりにもよって、わたしが苦手なタイプと感じるこの子に……羅夢との二人だけの世界を見られてしまった。


「オーマイガー……!」


 ショックを受けたわたしはそう声を上げたが、その声はバスのアナウンスやエンジン音にかき消される。


 おお、わたしの神よ。


 重ねて麻衣はわたしに尋ねてきた。


「ただの戯れではなく、お二人とも……本気で付き合っているのですか?」


 このように――麻衣は顔をずいと近づけてきて言うので、とうとうわたしは彼女を押し戻さなければいけなかった。

 しかし、諦めの悪い麻衣はわたしに密着すると、さらに畳みかけてきた。


「ですが、わたくしは知っているのですよ。先輩が月城先輩にちゃんと愛を伝えたがっていること……知っているのですからね」


 ヒヤリ。


「……怖いな。それ、どこの情報?」

「先輩の顔を見れば、一目瞭然です」

「それはつまり……わたしは顔に出やすいから?」

「ずばり」

「オーマイガー……!」


 おお、わたしの神よ……!


 しばらくのあいだ、わたしはうなだれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ