青空と曇り空
季節は夏。
梅雨が明け、七月になってからというもの、まだ一度も雨は降っていない。
そんなわけで、ここ最近はよく晴れた空を見慣れていた。
カラッと晴れ渡った空を見て、わたしは頬が緩むのを感じた。
「やっぱ青空は良き良き。心が浄化されるようだよ」
「そうか。あたしは青空よりも、曇り空のほうがいいけどな」
「……ひねくれ者」
わたしは隣で同じように寝ころんでいる羅夢に抗議の視線を向けると、そうボソッと口にした。
羅夢は鼻を鳴らすと、「事実、そうなんだから仕方ないだろ。誰がなんて言おうと、あたしはすべてを覆い隠してくれる曇り空が好きだ」と上半身を起こし、伸びをしてから立ち上がった。
…………。
……うん。
なんだかつまらなくなったわたしは、羅夢と同じような動作をしてから立ち上がる。
「どうした? まだ青空、見ててもいいんだぞ。待っててやるから」
「いや、いいよ。陽で地面がけっこう熱くなってるし、それに……うん、また青空は見られるから、今はいいよ」
感情や思っていることが顔に出やすいことを思い出しながら、わたしはスクールバッグを肩にかけると、羅夢を置き去りにし、校門目指して歩き出す。
それから少々の間隔を空けて、
「って、あたしを置いていくなよな、まったく」
という羅夢の声がかすかに聞こえた。
わたしは立ち止まると、恐る恐る後ろを振り返った。
見れば、ちょうど羅夢が小走りになって追いかけてくるところだった。
わたしはホッとすると、追いついてきた羅夢に真顔で言ってやった。
「どうなさった、そこのお方。忘れ物かえ?」
「あたしじゃない、お前の忘れ物だ」
「ほう、わしの忘れ物とな……? それはなんじゃろうか」
「あたしという忘れ物じゃろうが、このボケェ!」
鬼の形相。
わたしは力弱く笑うと、「めんごめんご」と両手を合わせて謝った。
「すぐに取りに行くからさ、許してってば」
「あたしゃ、今ここにいるわ」
「あぁ、そっかそっか。……配送料、いくらだった?」
「荷物じゃねえ! 人だよ、ひ・と!」
「うっそ!」
「ほんっと!」
わたしのボケがおかしかったのか、かすかに羅夢が笑った。
わたしは笑いたくなるのをこらえ、さらにボケを続けた。
「それは悪かったね。……で、運賃はいくら?」
「……徒歩だ。徒歩以外に、何かあるとでも?」
「自転車を忘れては困る」
「美希がバカで困る」
「助かる、の間違いでは?」
「さっきお前、悲しんでたよな。なんかごめん」
「……羅夢が利口で困る」
わわっ、気まずい。
「わたしって、マジで顔に出やすいの……?」
羅夢はため息をつくと、苦笑しながらうなずいた。
「そう言っただろ、美希。悪いけどな、“お前はあたしに嘘はつけない”んだよ。覚えておきな」
「なんてこった」
なんてこった。
わたしは両手で頭を抱え、絶望する。
「ということは……今までついていた嘘がすべて見破られていたのって、まさかそういうこと?」
「かもな」
「オーマイガー!」
オーマイガー!
……さて。
「さっ、帰ろうか」
「立ち直るのが早いな……今までの絶望はどうした、美希っ」
「そんなの忘れたさ」
「よし、帰るぞ」
「……良ければ、もっとツッコんでくれるかな」
「善処する」
そうしてわたしたちは一緒になって下校する。
暑い夏の陽は、そんなわたしたちにスポットライトを浴びせ続けた。