永遠の二人
わたしは羅夢だけを見る。
羅夢もわたしだけを見ている。
今このとき、確かにわたしたちの世界が形成されていた。
それは誰も介入することのない世界。
わたしたちだけの世界。
わたしは小さく「羅夢……」とつぶやくと、それからすぐに泣きじゃくった。
羅夢はわたしの肩に優しく触れてから、それ以上の優しさでわたしを抱きしめた。
「泣くなよ、美希ったら……って、あたしまで泣いていたら、説得力ないか」
「羅夢、羅夢……! ごめんね、ごめんね。わたし、あなたに酷いことを言ってしまった。全部、全部……あんなの!」
「ああ、分かってる。だから言うな」
「……っ! 真っ赤な――」
真っ赤な嘘、そう言おうとしたわたしを、一際強く抱きしめる羅夢。
わたしは息を呑み、そのまま幼い子どものように口を大きく開け、泣き叫ぶ。
「バカだな、美希は……! 本当にバカだよ、お前っていう奴は」
羅夢はそう言うと、大きく息を吸い……体育館全体に響き渡る声で。
叫んだ。
「あたしは……っ! 美希、お前のことが誰よりも好きだ、この世で一番好きだ!」
なんとなく告白の予感がしていたわたしはというと、羅夢が叫ぶと同時にピタリと泣き止んでいた。
だって、そうではないか。
あの羅夢が。
わたしに。
告白を……したのだから。
「それまでのお前の告白をマジメに聞かなかったことなら、あたしは謝らない。なぜって、こんなにもあたしはお前のことが好きだから……そんなお前からの告白をマジメに聞いたら、あたしは愛おしい涙がずっとあふれ出てしまうから……っ!」
ごめんな、美希。
ううん、謝らないでよ、羅夢。だって――。
「だって今のわたし、すっごく幸せだから……!」
と、そのとき。わたしの意識が薄らいだ。
次に気づいたとき――わたしの隣に羅夢はいなかった。
わたしの隣にいたのは、驚いた顔でわたしを見つめる両親だけ。
そう、わたしは病院の個室とおぼしきベッドに寝かせられていたのだ。
わたしはキョロキョロと辺りを見回す。
羅夢は……いない。
看護師を呼ぼうとする両親を呼び止めたわたしは、ぼんやりと二人に尋ねた。
「……羅夢は?」
それを聞いた両親の表情が固まる。
そして静かに――両親は首を横に振った。
両親が首を横に振るのを見て……わたしはすべてを察した。
「そっか、羅夢ってば、もう大分に引っ越したんだね。わたし、それだけ眠っていたんだ……!」
わたしが泣き出しかけたそのとき、あわてたように母が一通の封筒を差し出してきた。
これは……羅夢の筆跡。
ということはつまり、羅夢からの手紙……!
わたしの心臓が跳ね上がる。
両親がいるのにも関わらず、わたしは封を切った。
手紙を見るなり――わたしは苦笑。
手紙に書いてあったものとは、住所や電話番号といった連絡先を含む個人情報のみ。
しかし、封筒をよく見てみると――そこには一枚の写真が入っていた。
わたしと羅夢のツーショット写真。
撮った時期は……一年前の秋。
屋上の地面を背景にし、わたしたちは互いに寝ころび、楽しそうにポーズを決めている。
写真を見て――わたしは一筋の涙を流す。
確かに手紙には何も書いていなかった。
けれど――羅夢が封筒の中に入れてくれた写真に、彼女からの温かなメッセージが詰まっていた。
それはたぶんこんなメッセージだ。
「一人じゃない、一人になんかさせてたまるか。あたしたちはいつも二人……そうだろ、美希」
「当ったり前じゃん、羅夢……っ!」
わたしは愛おしく写真を胸に抱く。
個室の窓から眺めることができる曇り空を見て……わたしはゆっくりとほほ笑むのだった。