絶叫クイーン
好きな子に、わたしの愛をちゃんと伝えるにはどうしたらいいのか。
相手は手強い。
わたしが語尾に「好きだよ」とハートマークをつけても、あいつは顔を赤らめるどころか、「妄想は妄想だけにしとけな……?」とすさまじい殺意を向けてくる。
妄想ではないことを明らかにするため、わたしがあいつを抱きしめたら、あいつは抱きしめ返すどころか、「そう、夢はいつか覚めるもの」とわたしの頬をつねってきた。
そういえば、こんなこともあった。
ある日の朝、登校中のあいつの姿を発見したわたしは、愛しさのあまり、あいつの目を手で隠して「だーれだ」と戯れていたら、ちゃんとあいつは警察に「不審者がいます」とわたしを通報したこともあったな、そういえば。
うむむ。
うむむ……うむむ。
……ふむ。
「きゃああああああ!」
わたしは放課後の英麗女子高等学校の静かな図書室の席で、絶叫クイーン顔負けの絶叫を上げると、それから狂ったように笑い出した。
図書室にいるマナーに厳しい生徒たちは、わたしを白い目で見た。
そんなわたしをしっかりと調教するのは、いつだって月城羅夢だった。
隣で分厚いハードカバーの小説を読んでいた紺色の制服を着たスラリとした体躯の羅夢は、わたしの頭をチョップすると、このように注意した。
「そこの売れない絶叫クイーンこと、柳田美希。とりまNGなんで、カットな」
羅夢はそう言うなり、肩まで伸びた黒髪を横に払った。
「オッケ~。……んじゃ、もう一度ね。――きゃああああああ!」
遠慮なく二度目の絶叫を上げるわたし。
羅夢は読んでいた小説のページを勢いよく閉じると、分厚く硬い“それ”を振りかざした。
「は~い、カットカット!」
そう叫ぶなり、先ほどまで読み物として扱っていたハードカバーの小説を使って、わたしの大事な頭目がけて分厚い“それ”を振り下ろし、それはもう頭ごっつんこ。
これはさすがに痛い……さてはわたし、死んだか?
「……ねえねえ、わたしの頭、今どうなってる?」
「おそらく手遅れかと」
非情にも羅夢は真顔で告げると、落ち着いた様子で両手を合わせた。
えっ、高校二年生の十七歳のわたし、もしかしてあえない最期を遂げた系……?
「……悲しいかも」
わたしは自分自身を供養するため、必死になって叫んだ。
「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏! 南無阿弥……」
「とっとと成仏を」
わたしの頭のてっぺん。
そこに例の凶器が叩きこまれる。
それは案外痛く、脳みそと思われる場所にまで衝撃が響いた。
たまらず頭を押さえ、わたしはうめいた。
「くぅ……これは死者も飛び起きる痛み。うーん、成仏失敗」
「ところでだが、ここは静かにするべき図書室であるということを……知っているのか、お前は。頼むから、少しは静かにしろ……な?」
羅夢の固く握りしめられた拳を見ても、動じず、臆さず。
わたしは自分を貫いた。
「ここがどんなに静かにしなくちゃいけないところだろうと、わたしは静かになんてしないさ。そう、たとえ周りから白い目で見られても、わたしは絶叫を上げる……!」
「それがお前、柳田美希か」
「うむ!」
「……そんな人生、なんだか悲しくないか?」
哀れみの視線を向ける羅夢。
わたしは「くぅん」と鳴き声(?)を上げた。
「……それ、やめろ」
「わふ?」
パチン!
……躊躇いのないビンタを羅夢から食らう、わたしであった。
好きな子からのビンタ……ハッ!
「まさかこれ、ご褒美か?」
「天誅に決まっているだろうが、己ぇ!」
パチンッ!
……先ほどよりも強いビンタを食らう、わたしであった。
「天誅というより、私刑の意味合いが強い気がしまふ……」
「ん……気のせいだ」
それからまもなくして、わたしたちは図書委員からやんわりと退室を促され、わたしは笑い声を上げながら羅夢と二人で図書室から出た。