表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

絶叫クイーン

 好きな子に、わたしの愛をちゃんと伝えるにはどうしたらいいのか。


 相手は手強い。

 わたしが語尾に「好きだよ」とハートマークをつけても、あいつは顔を赤らめるどころか、「妄想は妄想だけにしとけな……?」とすさまじい殺意を向けてくる。


 妄想ではないことを明らかにするため、わたしがあいつを抱きしめたら、あいつは抱きしめ返すどころか、「そう、夢はいつか覚めるもの」とわたしの頬をつねってきた。


 そういえば、こんなこともあった。

 ある日の朝、登校中のあいつの姿を発見したわたしは、愛しさのあまり、あいつの目を手で隠して「だーれだ」と戯れていたら、ちゃんとあいつは警察に「不審者がいます」とわたしを通報したこともあったな、そういえば。


 うむむ。

 うむむ……うむむ。

 ……ふむ。


「きゃああああああ!」


 わたしは放課後の英麗えいれい女子高等学校の静かな図書室の席で、絶叫クイーン顔負けの絶叫を上げると、それから狂ったように笑い出した。

 図書室にいるマナーに厳しい生徒たちは、わたしを白い目で見た。


 そんなわたしをしっかりと調教するのは、いつだって月城羅夢つきしろ・らむだった。

 隣で分厚いハードカバーの小説を読んでいた紺色の制服を着たスラリとした体躯の羅夢は、わたしの頭をチョップすると、このように注意した。


「そこの売れない絶叫クイーンこと、柳田美希やなぎだ・みき。とりまNGなんで、カットな」


 羅夢はそう言うなり、肩まで伸びた黒髪を横に払った。


「オッケ~。……んじゃ、もう一度ね。――きゃああああああ!」


 遠慮なく二度目の絶叫を上げるわたし。

 羅夢は読んでいた小説のページを勢いよく閉じると、分厚く硬い“それ”を振りかざした。


「は~い、カットカット!」


 そう叫ぶなり、先ほどまで読み物として扱っていたハードカバーの小説を使って、わたしの大事な頭目がけて分厚い“それ”を振り下ろし、それはもう頭ごっつんこ。


 これはさすがに痛い……さてはわたし、死んだか?


「……ねえねえ、わたしの頭、今どうなってる?」

「おそらく手遅れかと」


 非情にも羅夢は真顔で告げると、落ち着いた様子で両手を合わせた。


 えっ、高校二年生の十七歳のわたし、もしかしてあえない最期を遂げた系……?


「……悲しいかも」


 わたしは自分自身を供養するため、必死になって叫んだ。


「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏! 南無阿弥……」

「とっとと成仏を」


 わたしの頭のてっぺん。

 そこに例の凶器が叩きこまれる。


 それは案外痛く、脳みそと思われる場所にまで衝撃が響いた。


 たまらず頭を押さえ、わたしはうめいた。


「くぅ……これは死者も飛び起きる痛み。うーん、成仏失敗」

「ところでだが、ここは静かにするべき図書室であるということを……知っているのか、お前は。頼むから、少しは静かにしろ……な?」


 羅夢の固く握りしめられた拳を見ても、動じず、臆さず。

 わたしは自分を貫いた。


「ここがどんなに静かにしなくちゃいけないところだろうと、わたしは静かになんてしないさ。そう、たとえ周りから白い目で見られても、わたしは絶叫を上げる……!」

「それがお前、柳田美希か」

「うむ!」

「……そんな人生、なんだか悲しくないか?」


 哀れみの視線を向ける羅夢。

 わたしは「くぅん」と鳴き声(?)を上げた。


「……それ、やめろ」

「わふ?」


 パチン!


 ……躊躇いのないビンタを羅夢から食らう、わたしであった。


 好きな子からのビンタ……ハッ!


「まさかこれ、ご褒美か?」

「天誅に決まっているだろうが、己ぇ!」


 パチンッ!


 ……先ほどよりも強いビンタを食らう、わたしであった。


「天誅というより、私刑の意味合いが強い気がしまふ……」

「ん……気のせいだ」


 それからまもなくして、わたしたちは図書委員からやんわりと退室を促され、わたしは笑い声を上げながら羅夢と二人で図書室から出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ