9. ガキ大将
「ありがとう、父さん。おかげで、村の人と仲良くなって、もう『悪魔の子』と呼ばれなくなったよ!」
何回か紙芝居をやった後、村人達のトリスに対する反応が変わったのだ。トリスは手伝ってくれた親父に感謝を述べた。
「その代わり、『天才絵師』や『マングァの子』と呼ばれていて、恥ずかしい。」
絵がうまいのが評判になり、子供達にたくさん漫画を描いてあげたのだ!
だが、「漫画」がうまく発音ができずに「マングァ」と呼ばれるようになった。
新種の魔物かな?
しかし、まさか上手くいくどころか、こんな恥ずかしい思いをするとは準備段階では思いもしなかった。
親父も恥ずかしそうに、頭を掻きながら言った。
「俺なんて『英雄王』とか『ガリウス王』とか呼ばれるんだぞ!訓練中に『英雄王、覚悟!!』とか言われて、本当に恥ずかしい思いをしているんだ。」
ちなみに、挑んできた相手は速攻で潰したが、「これで勝ったと思うなよ、俺を倒しても第二の...」とか言い出したので、さらに殴って気絶させたらしい。
「そうしたら、周りも調子に乗って『叫べ、讃えよ、我らが英雄の名を!』とか言って、万歳三唱し始めたので、片っ端から殴って気絶させることになったんだ...」
(親父、強すぎてこわっ!まじで怒らせないでおこう...)
トリスは面白そうに笑いながら言った。
「それで、今は落ち着いたんだね。」
「いや、今は『魔王』と呼ばれている...」
親父も苦労していそうだ...
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今回絵を描くにあたって、俺がトリスの体を使って絵を描く必要があった。
しかし、トリスの体を乗っ取るようにすると、意識が繋がってしまい、思考が混濁してしまう。
そうなると、またトリスがトラウマを再発してしまうかもしれないのだ。
そこで、俺が体を動かすときは、「意識の細分化」により「こう動かしたいというイメージ」だけをトリスに送ることにしたのだ。
しかし、いきなりトリスの頭の中に「動作のイメージ」が入ってくるとトリスは驚くし、もしトリスと俺が違う動きをしようとしたらチグハグな動きになってしまう。
そこで、行動の主導権を交代するときに合言葉を決めた。
もし、俺が体を動かしたければ、俺が「スイッチ(入れ替わり)」と言い、体を動かすイメージを送り、体を動かす。逆に、トリスが「スイッチ」と言った時は、俺は意識の奥底に退くのだ。
あとは、お互い「スイッチ」がスムーズにできて、「スイッチ」した後も澱みなく動けるように練習し続けた。
昼間はトリスが体を動かして、親父の狩りを手伝い。夜は俺が体を動かし、絵を描くのだ。
俺としては、「スイッチ」により勝手に体が動いて絵が描かれているのは、恐怖を感じる気がする。
だが、トリスは
「もう今更慣れたよ。それよりも、勝手に絵が完成されていくのを見るのはおもしろいね!」
とキャッキャっと笑いながら、言ってくれたのだ。
俺は嬉しくなって、前世で描いていた連載漫画を描いたのだった。
流石に、この世界の世界観と違いすぎて、他の人には受け入れてもらえなかったが、トリスは気に入ってくれた。
ただ、これ連載の喜びでキャラをめちゃくちゃ細かく描いてしまったから、作画カロリーが高すぎる...連載しなくて、ある意味良かったのかも...
あと、気をつけないといけないことがある。前から感じていたが、どうも俺が体を操っている時は体の感覚が少し鈍いのだ。
おかげで、尿意に気づかずに集中して絵を描き続け、トリスは泣きそうになりながら「スイッチ」を言う羽目になったのだった。
そんなこんなで、「スイッチ」を始めたばかりでまだ不都合も多い。
しかし、おそらく慣れればいちいち「スイッチ」を言わなくてもうまくお互い体を動かせると思う。それを目指して、とりあえず慣れるまでは合言葉で体の主導権を交代するようにしようと思っている。
ちなみに、なぜか口だけは、お互いがうまく相手に合わせて動かすことができた。
動かす対象が限定されていれば、そんなに意識しなくてもうまくいくのかもしれない。
こんな感じで、お互い上手く付き合っていけるように、少しずつルールを決めていっている。
俺たちは一心同体だけど、お互い趣味嗜好があるから、話し合って協力する必要があるのだ。
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そんなこんなで、子供たちとも以前のように遊べるようになった。
「おーい、へゼスあそぼー」
へゼスはこちらを見て大声で叫んだ。
「ガリウス王の子が来たぞーーー」
親父の気持ちが分かった。
(「ハル、これは殴って気絶させる場面だよね?」)
(「落ち着けトリス。」)
俺は、トリスを戒めた。
(「首を絞めた方が早く落ちるぞ!」)
(「さすが、ハル!!じゃあ、早速『スイッ』)
へゼスは何か嫌な予感を感じたようだ。
「と...とりあえず、遊ぼうぜ...今日はトリスが来たから『ガリウス王ごっこ』をやろう。」
ちなみに、「ガリウス王ごっこ」とは、先日の紙芝居を見た子供達が話を真似して作った遊びだ。
基本は鬼ごっこで、「ガリウス王」「邪竜」「村娘」の三役がいる。
強さは「ガリウス王」>「邪竜」>「村娘」で弱い奴をタッチして捕まえていくのだ。
ちなみに、この遊びでは「邪竜」が3人いる。村娘はたくさんいる(あと、男の子も「村娘」になっている)。
皆んなガリウス王になりたがるのなら分かるけど、どうしてこうなった??
そして、気づいたらトリスは「ガリウス王」役にされていた。
俺らは、真っ先にへゼスに突っ込んでいって、ボコボコにしたのだった。
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そんな楽しく遊んでいる時に、奴らが来た。
「おいおい、楽しそうに遊んでいるな。悪魔の子。」
トリスの背筋が凍る。周りの楽しい雰囲気も一瞬で無くなってしまった。
トリスは恐る恐る振り向いた。
そこにいたのは、あのガキ大将達だ。
どうやら、まだトリスを嫌っているらしい。
へゼスは一瞬、怯んだような顔をしたが、何とか奮い立って、トリスを庇うように立った。
そして、強い口調でガキ大将に言った。
「もういいじゃないか、ドラク。トリスは絵がうまくて、面白いやつだし、楽しくやろうぜ。」
へゼスから以前は感じなかったトリスを守ろうという強い意思を感じた。
俺らが頑張っている間に、それを見ていたへゼスも自分を変えようと思ったのだろう。
(へゼスお前いい奴だな。さっきはすまんな...)
へゼスの頭にある大きなたんこぶを見ながら、心の中で謝った。
「どいつもこいつも、あっという間に手の平返しやがって。ハッ...どうかしてるぜ。トリス、俺はお前のこと、認めないからな!」
そう言って、ドラク達は去っていった。
家に帰って、俺らは相談した。
「トリス、どうしよう。多分あいつは、いくら面白い話や絵を描いてもダメだわ。」
流石に、今回ばかりは仲良くなるのを諦めようかと考えていた。
しかし、トリスは違うようだ。
「大丈夫。今まではハルの得意技のおかげでうまく行ったから、次は僕の得意技の番だね!」
そう言って、徐にポケットに手を突っ込んで、何か握った手を目の前に出した。
「いや、違った。僕たちの得意技だったね。」
手を開いたら、そこには大きな光ネズミの魔石があるのだった。
ある日の晩御飯。
トリス「うへー、今日の晩御飯ポメド(トマトみたいなもの)があるよ〜」
トリス「これは流石に残『スイッチ』」
ハル「いただきまーーーー『スイッチ』」
トリス「させん!!これだけは、絶対に許『スイッチ』」
ハルはその瞬間、口の中にポメドを放り込んだ。
トリス「ぐああああああ、やめろおおおおおおお」
親父「食事中に騒ぐんじゃない!」