7. 悪魔の子
やっと、この章からゆっくり成長を書けるーーーやったーーー!!
7歳を過ぎた頃、俺はトリスとよく話すようになった。
特に、親父と狩りに行ったときは、頭の中でよく作戦会議をしたりする。
(「ハル、どこら辺に罠を仕掛けた方がいいかな?」)
(「今回の狙いは角兎だったよな...角兎は木がない少し開けた場所に巣穴を作るはず。」)
(「わかった!開けた場所で、角兎の足跡を探すね!」)
このように、俺は知識面のアドバイスをしてトリスの役に立っている。
そして、トリスはトリスでかなり鋭い観察眼を持っているので、こんな感じで魔物の痕跡をすぐ見つけるのだ。
何にせよ、今までの俺たちでは信じられないほど、俺たちは上手くいっている。
お互いが自分の得意分野で補い合う、相棒のような存在だ。
改めて、あの時トリスが自分を受け入れてくれたことに、心から感謝するのだった。
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ある日、トリスは久しぶりにへゼス達と遊ぼうと広場に行った時だった。
「へゼス、久しぶり!今まで、全然遊べなくてごめんね。元気になったから、また遊んでくれるとうれしいな!」
「あ...トリス...久しぶり...」
(ん?なんかへゼスの様子がおかしいな?)
俺は内心首を傾げた。トリスも何かおかしいと感じたらしい。
「うん?へゼスどうしたの?」
「いや...まあ、お前も色々あっただろうけど、俺らも色々あったから...」
「え、どういうこと!?」
その時、突然大きな声が聞こえた。
「おいおい、悪魔の子がいるぞ!まだ、この村にいたのか。とっとと出て行けよ!!」
トリスは声のした方を見た。
そこには、子供にしては厳つい顔をした典型的なガキ大将とその取り巻きがいた。
「おい、こっち向くなよ。化け物の悪魔の子。俺らの体も乗っ取ろうとしているのか?」
「え...違う...僕は悪魔の子なんかじゃない...」
そう言って、ガキ大将の方に歩み寄ろうとした。
「うわ...こっち来やがる。」
「こっち来る前に、追い払おうぜ。」
「悪魔祓いしてやるよ!」
その時、ガキ大将の取り巻きが騒ぎ出した。そして、何かがトリスに向かって飛んできた。
大きな石だ。
一つ投げられたと思ったら、次々と飛んできた。
この状況にトリスは呆然としてしまったので、仕方なく俺がトリスの体を動かして、急所を守ったり、避けたりした。
「はは、あいつ一丁前に避けやがるぜ。」
「なら、最初に顔に当てたやつが、優勝な!」
ますます、石の勢いが強くなった。
その時、やっとトリスが我に帰り、涙を流しながら走り去った。
「よっしゃーーーー、俺らで悪魔の子を追い払ったぜ!」
「なんだよ、悪魔と言っても大したことないな!!」
俺は、怒り心頭しながらも、家に向かって泣きながら走るトリスをどうやって慰めようか真剣に考えるのだった。
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久しぶりに、トリスは引きこもった。
しばらく、思い出しては泣く日々が続き、俺はその度に慰めたのだ。
親父も心配して、声をかけてきたが、現時点ではトリスはこの話をしたくないらしい。
「トリス、何度目かもう分からないけど、本当に申し訳ない。まさか、村中に悪魔祓いの話が伝わって、いまだにこんな状況とは思わなかった...」
「ううん...前も言ったけど、今はハルがいてくれて良かったと思っているから、もう謝らないで。けど、僕はどうすればいいんだろう...」
俺は悩んだ。もちろん、いじめの一番の解決方法は大人の力を借りることだ。
だが、俺は気づいていた。今回の「悪魔の子」はおそらく子供たちの親が言い始めたのだろう。
今まで、狩りに行くときに村人たちとすれ違った時に、こちらを恐れるような目で見て来ていたのだ。
その度に、親父が睨んで追い払っていたが、確実に彼らにとってトリスは「悪魔の子」だと思われていたのだろう。
そうなると、大人に解決を求めるのは難しい。おそらく、親父に現状を伝えたとして、親父が説得や場合によっては力で間違いを正した場合、今度は親父が孤立するだろう。
俺は、問題の根深さに頭を悩ませた。
「トリス、多分大人たちがトリスのことを誤解しているんだ。だから、まずは大人たちにトリスのことをよく知ってもらおう!」
「でもハル、大人たちにも避けられているのに、どうすればいいの?」
「うーーーん...」
俺は、何かできることがないか考えた。
(俺ができること...できること...あ!)
急にある考えが閃いたのだ。
「トリスいい考えがある。これが成功したら、多分大人だけじゃなくて、子供も一緒に仲直りできるよ!」
「本当に!?どうするの??」
「俺の得意技を使うんだよ!」
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俺はトリスに作戦を説明し、家の外に出て試しに得意技を披露してみた。
トリスは目を輝かせて、「ハル凄いよ!そんなことできるんだね!!」と言ってくれたのだ。
子供の純粋な賞賛が恥ずかしいぜ。
「あとは、これを見せる道具をどう用意するか...」
「ハル、村の真ん中ら辺に、道具屋があってそこで多分買えると思う。」
「うーーーん」
俺は心配した。村の中心とは、つまり人が一番集まるところだ。もちろん、周りの大人の視線はとても冷たいだろう。
それに、そもそも道具屋の店員がトリスに道具を売ってくれるかも、分からない。
「ハル」
「トリス、何だい?」
「ハル、僕のことは気にしなくていいよ。ただ、怖いからハルが僕の体を動かしてくれると嬉しいな。」
本当に聡い子だ。俺が、この歳の頃にここまで考えられただろうか。
この世界の子供は15歳で成人なこともあり、皆それなりに早熟だが、トリスは同年代と比べても頭が回ると思う。
おそらく、一時期俺と意識が混じったことも、一つの要因ではあるのだろう。
とにかく、俺はトリスの気遣いに感謝した。
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早速、俺は小銭を持って道具屋に行ったのだ。
残念ながら、俺の思った通りに周りの視線は冷たい。
それでも気にせずに歩き、道具屋に辿り着いた。
そこで、一度深呼吸して、覚悟を決めて店の中に入った。
「こんにちは...」
「お、珍しいお客さんだね。しかも、一人で来たのかね?何が欲しいんだい?」
そこには、少し歳のいったおばさんがニコニコ立っていた。
俺は心の底から、安堵した。
「おばさん、僕のこと怖くないの?」
ついトリスは聞いた。
「うーん、元々トリスくんのことは知っていたしね。礼儀正しい良い子だと思っていたし、それは今も変わらないんじゃないかな。皆んな噂に騙され過ぎなんだよ。自分の目で見て思ったことを信じろってんだ。」
「おばさん、ありがとう!!」
トリスは泣き出しそうになった。
「ちなみに、おばさんじゃなくて、『お・ね・え・さ・ん』ね!!」
「あ...ハイ...」
凄い迫力で言われたせいで、トリスの涙が引っ込んだ。
「それで、何が欲しいんだい?」
「何か書くものと、薄い木の板が欲しいんだ。」
「書くものは黒鉛を使うといい。薄い木の板を使うなんて、看板でも作るのかい?」
「ううん、もっと面白いもの。お姉さんもぜひ見にきて!」
そして、俺らは買い物を済ませて、急いで家に帰り準備するのだった。
その結果、あんな思いをするとはこの時考えもしなかった。
突然の石がトリスを襲う!
トリスはデンプシーロールで瞬時に石を避けていく!!
トリス「ふ、この程度の投石、当たらなければどうということはない!!!」
その瞬間、誰かが作った泥団子がトリスの顔にクリーンヒットした。
ハル「トリスは聡い子なんだけど...ノリが良すぎるんだよな...」