表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

4. 拷問と逃避

一体どのくらいの時間が経っただろう、何時間も経ったような気がする。いや、実際はまだ数分なのだろう。


背中が燃えるように熱い。

もう何回、鞭で打たれたか分からない。

いくら痛みをあまり感じないと言っても、流石にこれはきつい。


しかも、恐ろしいことは異端審問官のエクソダムが数十回鞭打つごとに、白い魔石をこちらに向けて聖句を述べると傷が治るのだ。


痛みが治れば治るほど、次来る痛みが本当に怖くなる。

俺は5歳にして、この世界の拷問の恐ろしさを体験するのだった。


「ふむ、どうやら中々しぶとい悪魔ですね。トリス君、今解放するから、待っていてくださいね。」


「クソがあああ、そんなこと『やめて、許して』、お願いだもうやめてやってくれ...」


「ふむ、これは手強いですね。」


(ああ、痛みでうまくトリスを抑え込めないから、発言がぐちゃぐちゃになってしまう)


 どうにかできないかと、ちらりと両親の方を見た。もちろん、両親はエクソダムが俺を叩き始めた時に止めさせようとした。

 だが、後ろに控えていた他の審問官が素早く取り押さえたのだ。

 

 親父はさっきまでずっと怒鳴っており、今は猿轡をされているが、それでも必死に抵抗をしている。俺は親父がここまでブチギレているのを初めて見た。

 一方で、母親はさっきから不気味なほど静かだ。もうこちらを見もしない。

 

 俺は、周りを頼るのを諦め、エクソダムに話しかける。


「お願いだ。俺は本当に何も悪いことはしていないんだ。悪魔なんか付いていないんだよ!」


「そうですねそうですね。悪魔は皆そう言います。」


 バチンと強烈な一撃が入り、背中に大きな傷を刻んだ。


「あああ!!!じゃ、じゃあ、どうやって悪魔を追い払ったと確認するんだ!そうだろ、悪魔がどこかに行っても分からないじゃ無いか!」


「それはあなたが知らなくてもいいことだ。」


「やめて僕は悪いことしていないんだ、この悪魔が悪いんだ。やめてよ。」


「ふーむ、困りましたね...」


 そこで、鞭打ちが止まった。これは、最後のチャンスだ。もう、これ以上はトリスが持たない。

 また、こう思ったのだ。もしかしたら、俺は本当にトリスに取り憑いた悪魔かもしれない。


(俺の事情を話して、俺をどうにかする方法を話し合うようにして、一旦この場を納めるしかない)


 俺が悪魔かどうかはおいておいて、まずはこの拷問を止める必要があると考えた。


「待ってくれ、俺の事情を話す。俺は別の世界の転生者だ。」


「転生者?それは興味がありますね。詳しく話してください。」


 俺は、必死に今までの事情を話した。ここまでの緊張の中でいっぺんに話したことは、前世も含めて初めてだ。

 

 エクソダムは熱心に聞いてくれた。とても熱心に聞いてくれて、細かく質問してくれた。

 そして、全部聴き終わった後に、静かに目を瞑った。


 長い静寂だった。


(いきなり、こんな突飛な話をして混乱しているのか??もっと、分かりやすく説明するべきだったか??)


 不穏な静寂が数分間続いた後に、再びエクソダムは目を開いた。

 無機質な害虫を見る目だった。


「悪魔は魔界という世界から来るらしいですね。なるほど、聞く限りは飢えも魔物もいない理想郷だ。そうやって、甘言を吐いて人を騙し、連れ去るのか!」


「ち、違う!俺はただ真実を話しただけだ!!騙すつもりも連れ去るつもりもない!!」


「仕方ありませんね。これは本当は使いたくなかったのですが、最終手段を取るしか無いですね。」


「な、何をするつもりだ...」


「浄火です。」


そして、俺の目の前は真っ赤に染まった。 



==========




 俺は今閉じこもっている。暗い世界で、エクソダムの声も背中や顔を焼く火の熱さ感じない、平穏な世界だ。

 俺はそこで更に両手で耳を塞いでうずくまっている。


 エクソダムの野郎は、あろうことか赤い魔石を取り出したと思ったら、俺の方に向けて火を放った。

 その瞬間、やけどとは遥かに違う、抉るような痛み。そして、濃厚な肉が焼ける匂い。


 どんなに、俺が痛みを感じにくいといっても、この痛みは違った。

 熱いかどうかなんて、もう分からない。気絶するほどの痛みが深く突き刺さる。


 そんな耐え難い苦痛の時間が過ぎた後に、待っていたのは皮膚が再生される感覚だ。


 あの野郎、死なないように、もっと苦しむように治しやがった。


 それからはただの地獄だった。




 数回それをやられた後、俺はもうそれ以上耐えることができなかった。


 俺は逃げたのだ。意識の深くに。いつも、トリスを追い込んでいた深層に。


 最低なことに、俺はトリスの意識を支配することを繰り返したことで、意識をトリスから分離させることができるようになったのだ。


 けど、それでも、まだ完全に分離はできていない。


 トリスの声が聞こえる。



 絶叫が、怨嗟の声が、聞こえないはずの俺に刺さる。



 誰か助けてと懇願する声が聞こえる。



 もう殺してくれと、嘆く声が聞こえる。



 永遠と続く悲鳴の中、俺は無意識にもっと意識を分離できるようにするのだった。

 





 その時、現実世界でもトリスは叫んでいたらしい。


「頭の中の声が消えたんだ。もう悪魔はいないよ。だから、もうやめてええええええ」


 その声は、何十回目の懇願でやっと聞き入れられるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ