組織の仕掛け
「マジか!……え、ってことは仲間、でいいんだよな?」
紫色のフィギライトを提示しながら自己紹介を終えた紫堂。鉄仁は驚きながらも理解を示す。
「お、そう言ってもらえるとこっちも嬉しい」
紫堂は少し嬉しそうに言ってから、咳払いを一つして今度は将斗に向き直す。
「んで……君はあの時いたよね」
「あの時?あぁ、件の管理者の」
紫堂と将斗はこれまでに面識があるらしい。
「無相拓磨は今どこに?」
「彼ならカフと一緒にいるよ。連絡は取ってないけど、計画では最終的にグェンや姉さんと合流して彼の父親——無相カイと会うことになってる」
「は!?父親だって!?待て、あいつの親父さんはもうすでに」
「……あー、そうだった。ごめん。今の無し。忘れて」
「何!?お前たち、何を企んでる?」
「……はぁ」
英也と鉄仁を置き去りにして二人で議論がヒートアップしていく。
「あの手紙には、すでにもう親父さんは亡くなったと書かれて!……いや、待て。あれは確か……」
紫堂が言葉を止める。
「シェトマ。ボスからの手紙だったね」
「……チッ、なるほど。その時には、すでに」
紫堂は理解はしたらしいが納得はしていないといった風で顔を伏せる。
「ま、まぁまぁ。一応、ここへは協力のために集まっているわけだし……な?」
鉄仁が仲裁の形で二人の間に入る。将斗は特に気にしていないようで、鉄仁の方を見てやれやれと両手を一回上げてから窓の外に視線を向けた。
「ん、来たね」
将斗の声に、室内の全員が顔を上げる。
数十秒後、応接室に向かう足音が聞こえ始め、開けっ放しの入り口から残りの三人が顔を見せた。
「やほやほー!ウチ、さんじょー」
「あ、やっぱりもう私たちだけだったのか」
「……」
緑川や海花は英也と鉄仁、そして将斗を見てすぐに部屋へと入る。
しかし、黒野は入り口で立ち止まり、表情を強張らせていた。
「黒野くん、大丈夫だよ。いきなりの連絡だったけど、多分あの連絡がなくても僕たちは何かしらで動いていただろうしね」
「そうだぞ。そりゃあ先生には叱られるかもしれねーけどよ。んなこたぁ気にすんなって」
英也と鉄仁のフォローを受けてもなお、硬いままの黒野。
「ん?何かあった?」
将斗が黒野の表情を読み取った質問を投げる。黒野はゆっくりと部屋に入り、頭を下げた。
「みんな、ごめんなさい!」
突然の謝罪に戸惑う一同。将斗も口を噤み、無言の空気が流れる。
「そんな、謝らなくてもいいよ」
助け舟を出そうとした英也だったが、黒野はそれを跳ね返すように言う。
「ぼ、僕の軽率な判断の、せいで……。みんなを、き、危険に、晒してしまった」
少し涙ぐんでいるような声色で絞り出される言葉に、英也も口を挟めなくなった。
「一歩、間違えれば……。どうなってしまっていたか」
黒野が再び頭を下げる。
「本当に、ごめんなさい!」
重い空気か漂う。
しかし、その時、一人だけあっけらかんと口を開く者がいた。
「なーに言ってんのさ!多分それ、私のことでしょ?……まぁ、確かにあれには驚いたし、逃げ切れてよかったけど」
海花に全員の視線が向けられる。
「『あれ』って……、海花ちゃん、何かあったの?」
英也が質問すると、海花は少し考えてから答えた。
「会ったのよ。いや、あれは『見えた』って方が正しいかな。フィギライトがピカーって光ったから咄嗟に逃げたけどね」
「「え」」
英也と鉄仁のリアクションが被る。
「えーと、その『見えた』ってのは?」
今度は将斗が疑問をぶつける。海花から断片情報しか得られないのは、まだ彼女の中でも情報整理が上手く出来ていないためなのかもしれない。
「んーと、ちょっと待って。綺麗な女性だったのは覚えてるんだけど、他に何か特徴……何かあったかな……」
思い出そうと必死になる海花を見て、黒野は自身の頬を叩いて律し、口を開いた。
「白くて、目立つ服装。そうだよね?」
「あ、そうそう!なんかコスプレみたいな感じの!」
「……なるほど」
将斗には心当たりのある人物がいるようで、細かく頷いた。
「え、えーと、ごめん。よく分からないけど、でも、とりあえず無事で本当によかったよ」
英也はこれ以上この話題を長引かせるのは黒野の居心地的によろしくないだろうと思い、敢えて話の腰を折り曲げる。
しかし、そんな話題が一段落ついた最中、黒野は『もう一つ』の事実について話し始める。
「……みんな、ごめんなさい。そして、改めて、ありがとう。ただ、この件以外にも、実は、報告しなきゃいけないことが……一つ、増えたんだ。その、えっと……。ハードレム・スレイクのことなんだけど……」
「壊された、それは知ってるぜ。だからみんなここに」
鉄仁の発言を途中で遮り。
「封印のためのものじゃ、なかった」
その言葉に一番強く反応を示したのは、紫堂と将斗だった。
英也や鉄仁、海花や緑川は、「これまでの話と違っているな」と複雑な表情にはなるが、それ以上の意味には到達していないようだ。
「封印じゃなけりゃ……それって」
「神人大戦の説明が、つかないよね」
黒野のその発言で、ようやく全員が理解に至った。
将斗が顎に手を当てながら黒野に質問を投げる。
「それはつまり、僕らがここに集まった……いや、集められたのは——罠ってこと?」
黒野は静かに頷く。
英也と鉄仁は互いに驚いた表情を見せ合う。
「な、なんで私たちが集まることが罠になるのよ?」
海花の問いかけには、紫堂が答える。
「神人大戦の終戦の建前——ハードレム・スレイクが、その戦争の引き金を引いた人類側の組織である『短剣』の奴らによって破壊され、俺たちはこれを危機だと思い込んで集まった。だが、そのハードレム・スレイクは、終戦の理由にはなり得ない代物だった。……要するに、俺たち、つまり無相の友人でありペン型のフィギライトを持つフェルシアスが敵さんの手の上で踊らされてるわけだ」
紫堂の言い回しを上手く理解できない鉄仁が声を荒らげる。
「だーッ!分っかんねぇ!もっと簡単に説明してくれよ!」
「……えっと、『剣』の悪い人たちが、何かの目的のために自作自演をして私たちをここに集めた。そんな感じ?」
紫堂の回答をほぼ完全に要約する海花。これは鉄仁にも分かりやすかったようだ。
「なるほど!やべーじゃん!じゃあ今から何か起こりそうだな!」
「君、すごいね」
「え、あ、いやぁ、それほどでも〜」
海花は将斗に褒められた。
シェトマを幽閉後、あの方へと報告のためミチビキ施設内を歩くベーリルのスマホが鳴った。ツェッテからのようだ。
「わたくしよ」
「どうした?エスカの件、汚名返上すると意気込んでいたようだが」
「ええ、そう。仕事は終えたわ」
「そうか。であれば——」
「あぁ、それと」
「なんだ」
「『黒』に会ったわ」
ベーリルは一瞬何かを感じ、眉を顰めた。
「『黒』……そうか。会っただけ、か?」
「あら。分かりきったことを訊くのね。言わないと分からないのかしら?」
「……ハードレムは『予定通り』落とせたんだろうな?」
「もちろんよ。光が消えるのをはっきりと『見せた』わ」
「……」
ツェッテの凛とした声に対し、ベーリルは何かに警戒心を抱いているようだ。
「帰還し、あの方へ報告を」
「ええ、分かったわ」
連絡を終えたベーリルはスマホをポケットにしまい、眉間に指を当てて目を閉じる。
「白はこちらで対応。そうしましょう」
そう独り言を呟いて手に持っている白い銃のフィギライトを眺める。
「ちょっとした手土産のつもりでしたが。今は間一髪、というところでしょうか」
ベーリルは歩いてきた道へと振り向く。とっくに見えなくなったシェトマの幽閉牢の方向を一瞥し、踵を返して再び歩き始めた。




