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フィギライト  作者: シリウス
ミチビキの狙い
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脅威の正体

 グェンと詩音、そしてカイの三人と分かれてミチビキ施設の通路に残ったシェトマは、対峙中のゲーテットからの視線を一身に浴びていた。

「まさかこの場所が的確に襲撃されるとは……。警備のフレーズも役には立ちませんね」

 ゲーテットはカイを逃してしまったという責任を感じているのか、声量が少し控えめになっている。

「フッ……。もはやあなたは私と戦えるような状態ではなさそうですね?」

 戦意を煽るシェトマだが、ゲーテットはそう簡単に挑発に乗ろうとしない。

「なるほど。流石は白の復讐者。『やり返し』には慣れている様子ですね」

 ゲーテットは冷静にそう言い放ち、フィギライト剣をシェトマ向けて構え直した。柄の部分を回転させ、スキルを繰り出そうしている。

 次第に光を纏い始める剣。ゲーテットの表情も光に比例するように高揚し始めているのが見える。

「どうしてあなたも逃げなかったのか……と、問いたいところですが。まぁそうですねぇ。大方、仲間の逃げる時間稼ぎと言ったところでしょうか。やれやれ、だから私は言ったのです。地下牢にするべきだと。地上の牢などにするからこんなことになるんですよ!」

 ゲーテットの第三者へ宛てたセリフと共に飛び出す光る斬撃。その形状はみるみるうちに剣本体の質感を持った鋭利な刃物へと姿を変え、シェトマに向けて直線上を高速に進む。

「くッ!」

 丸腰なシェトマは逃げる他に道はない。シェトマが刃をかわすたびに通路に深い傷がついていく。その跡を見ればまともに食らうと致命傷たり得ることが十分に想像できる。

「あなたに勝ち目など始めから用意はされていません。しかしながら、例の御仁を逃してしまったことで、私の評価は下がることでしょう」

「……それが、この状況とどう関係すると?」

 ゲーテットの言葉に、思わず反応してしまったシェトマ。

「フフフ、フハハハ!評価が下がるなら、それ相応のプラス評価を貰えば良いだけのこと。簡単なことです」

 そして、ゲーテットはシェトマに向けて猛攻を開始した。


 ゼツボウ拠点として使われてきた廃校舎の応接室には、鉄仁を皮切りに英也、紫色のフィギライトの青年が集まっていた。緑川も廃校舎には到着しているようだが、海花を待っておりまだ応接室までは来ていない。

「あれ、黒野くんは……?」

 英也は鉄仁に質問する。

「それな。先に来てるかと思ってたけど」

 呼び出した本人が場におらず心配する二人に、将斗が窓の外を見ながら反応する。

「ま、そういうこともあるでしょ。何か新しい情報を掴んでる最中かもしれないし、まだこっちに向かってる途中なだけってこともあるだろうし」

「……それも、そうか」

「そ、そうだよね。黒野くんのことだし、絶対来るよね」

 将斗の言葉に理解を示す二人。そんな中で、紫色のフィギライトを持つ青年が口を開いた。

「えーと、話を割ってしまうようで申し訳ないんだけど、本題の前にちょっと確認させて欲しいことがある」

 真剣なその表情を見て、将斗は無言で頷いて青年の近くのソファへと腰掛けた。

「……無相拓磨の安全は保証してもらえてるんだよね?」

 青年の口から飛び出した無相の名前に驚いたのは鉄仁。英也はすでに青年と会話しており、ある程度の状況は掴めてきていた。

「え、な、お、お前!なんで無相のことを……あ、いや、な、何で気にしてるんだ?」

 無相が特別な存在であることを知る者は自分たちだけだと思っていただけに、『新たな勢力』なのではないかと警戒を強める鉄仁。

「鉄仁、大丈夫。……多分。悪い人じゃないよ」

「なッ……。そ、そう、か」

 英也に言われて少し落ち着きを取り戻した鉄仁。しかし、青年を見る目はまだ鋭いままの状態を維持している。

「あ、そうか。君からしてみれば、俺は確かに初めましてだな。順序は大事だ」

 英也、鉄仁、将斗と三人をぐるりと一周目を合わせてから、青年はポケットから紫色のペン型のフィギライトを取り出した。

「んじゃ、改めて。俺は紫堂雄一。君たちや『黒野』と同じく、ペン型のフィギライトのフェルシアスだ」


「むむ?あれは……あ!やっぱり!おーい衣奈ちゃーん!」

 開口一番、大声で緑川を呼ぶのは、廃校舎の校庭に足を踏み入れた海花だった。

「む?おー?あ!海花っちこっちこっちー!カモカモーン!」

 海花の呼びかけに反応を返す緑川。大きく手を振って歓迎している。

 海花に少し遅れて廃校舎に到着したのは黒野。緑川が待っているとは当然知らない上、期待していたわけでもなかったが、海花が緑川に大歓迎されている様子を見てどこか寂しそうな顔になってしまっていた。

「ん?あれー黒野っちも一緒じゃーん!やっほー!」

 緑川は明るい。黒野も歓迎されて嬉しくなった。

「黒野っちはもうとっくに中にいると思ってたわー。他のみんなはもう中にいるよん」

「あ、ありがとう。待たせてごめんね」

 緑川と黒野が廃校舎内に足を進める中、海花の足取りは止まっていた。

「……ま、いっか」

 海花は黒野にさっき何をしていたか尋ねようとしたが、後でもいいかと思い口に出すことなく二人の後を追った。


 ファレルの空間内でティーラスとの議論を終えたカフと無相は、シェトマとティーラスとの対話の場を設けることを次の目標に設定し、作戦会議を開いていた。

「まず、先ほどの流れで、『デイロ』なる組織が真の敵であることが明らかになりました。我々ゼツボウの最終的な目標が具体的に見えたということになります」

「……」

 無相は無言のまま頷くこともせず考え事をしている様子。カフは無相の肩に手を置いて話しかける。

「タクマくん。君たち——ペン型のフィギライトを持つフェルシアスの皆さんを、これからの作戦に組み込ませてもらえないでしょうか?」

「……は?」

 あまりにも直球な交渉に思わず声が漏れてしまった無相。そのままカフは続けて口を開く。

「『デイロ』と対峙するよりも先に、現実的にはミチビキと戦いになる可能性があります。その戦闘に、力を貸していただきたいのです。我々と君たちが手を組めば、世界にある三大フィギライトのうち二種が一つの勢力として集まることになり、十分勝算のある作戦になる見込みです」

 カフはスラスラと説明する。まるで、こうなることを事前に想定していたかのようだ。

「ディレーサーのことも考えて、か」

 無相は短く、しかしながら核心を突く言葉を吐いた。

「えぇ。君が主導して計画しているそのディレーサーとなる皆さんは、タクマくんの代わり、いえ、ハードレム・スレイクの代わりになり得る方々です。このまま我々と手を組まずとも、いずれ必ずミチビキと相対することになるでしょう」

「……」

 無相は再び黙ってしまった。しかし、先ほどまでのそれとは違い、今度の沈黙には理解と決意が込められている。

 カフは腕時計を見る。

「……そろそろ時間ですね。計画通りであれば、シェトマ……はまだミチビキかもしれませんが、これからの作戦において最重要となる人物が『解放』された頃です」

 その言葉を聞いた無相は瞳を大きく見開いた。

「おや、やはり分かりましたか。えぇ、そうです。君にとっても『重要』な人物——カイが、戻ってくる手はずになっています」

 無相の少し嬉しそうな表情を確認し、カフも表情を緩める。

「君もそんな顔をするんですね。……無相カイ。彼はハードレム・スレイクの管理はもちろんのこと、ミチビキの『世界クリーン活動』を通じて得た人脈を介して入手した各所のスレイクの位置などを集めた機密情報を握るなど、この世界でミチビキが一番嫌う人物です」

「機密情報?」

「はい。彼がミチビキに狙われる理由、それがその情報です。そして、君——タクマくんがミチビキに狙われる理由も」

「リンクがある限り、僕にもその情報が伝わっていると思われているってことか」

「察しがよくて助かります。『リンク』と簡単に呼称していますが、その力はハードレム・スレイクを経由した超常現象を引き起こせる、つまりはフィギライトと同等の力です。現代の科学でも解明できていない以上、警戒はするに越したことはないということなのでしょう」

「……はぁ」

 無相は嘆きを押し殺し、ため息を一つこぼした。

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