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フィギライト  作者: シリウス
ミチビキの狙い
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シェトマの計画:救出

 ミチビキ施設、某所。

 ボロボロになりつつある身体に鞭打って壁の封印を解いたカイ。リンクの力により封印解除を受けた壁は静かにその姿をフェードアウトし、その先の通路に繋がる出入り口と化した。

「……行こう」

 シェトマは『計画通り』に動き始める。カイへと手を差し出して部屋から出ようとした。

 しかし、ことはそう簡単に上手くはいかない。

「……くっ、また、頭痛が……!」

 突然、カイが頭を抑えてその場にうずくまる。

「大丈夫か!?……まだ時間はありそうだな。落ち着きながらゆっくり進むとしよう」

 久しく会えた友を前にして、だんだんとくだけた口調になるシェトマ。

「す、すまない……。ここで、止まってはいられないな……」

 カイはシェトマに肩を借りながら立ち上がり、一歩一歩と通路を進む。

 シェトマはカイの頭痛に覚えがあるらしい。

「その頭痛、『あれ』か?」

「そ、そうだな……、うぅっ!だが、これ……。今までの比じゃないぞ……。ハードレム・スレイクに誰かが攻撃を仕掛けている?そんな痛みだ」

「なッ——」

 カイの言葉にシェトマが驚いたその時だった。

「オイオイ、勘弁してくれよ。ベーリルのやつ、適当な仕事しやがって」

 監禁生活により立っていることもままならないカイと、ベーリルにフィギライトを奪われたままどうすることもできないシェトマの前に姿を見せたのは、詩音を叩き損ねて機嫌の悪い状態のゲーテットだった。

 ゲーテットは一つ深い呼吸をして自分を落ち着かせ、シェトマらに声を掛ける。

「……そこで、何をされているのです?お二方」

 先ほどまでのぶっきらぼうな言葉遣いとは打って変わり、妙にかしこまった敬語が気味の悪さを浮き彫りにする。

「シェトマ、君だけでもここから」

 カイはシェトマの肩から腕を離そうとした。

 しかし、シェトマは当然それを許さない。

「今ここで置いて帰るくらいなら、私は初めから行動していません」

「だが……!」

 カイの言いたいこともシェトマには十分伝わっていた。フィギライトがない今、対抗できる手段はカイのリンクしかない。つまり、シェトマは今ただの一般人に等しい状態なのだ。戦闘にある程度心得があるとしても、このまま丸腰で対峙するのはあまりに危険すぎる。

「感動の再会中に申し訳ありませんが、あなた方を、特にそちらの方をこの施設から出すわけにはいきません」

 ゲーテットはシェトマではなくカイの方を凝視していた。

「あなたはもう『この世界にいてはいけない』存在なのです」

「カイはここにいます。あなた方が裏でやろうとしていた計画は、ここまでです」

 シェトマの回答に、ゲーテットは目を見開く。

「……ほぅ。さすがは『白の復讐者』。この世界に背く行動と分かっていて動く、と」

「……哀れなものですね。すでに『そう思い込まれている』とは」

 ゲーテットとシェトマのやり取りが徐々にヒートアップしていく。

「『あの方』のことを悪く言うような真似はやめていただきたい」

 ゲーテットは冷たく言い放ち、鞘からフィギライトの剣を抜いた。

 通路は相当遠い箇所まで通じているのか、ゲーテットの剣が鞘から抜ける金属音にも似た音が僅かに反響する。

 互いに警戒を怠ることのない張り詰めた空気の中、一歩、また一歩と通路に足を動かすシェトマ。ゲーテットはフィギライトの剣を片手に持ち、切先を自身の右下へと向けて余裕の表情を見せる。

 構えすらしないことに不快感を顕にするシェトマ。

「……どうするおつもりで?」

 質問するシェトマに対して、微動だにせずニヤリとだけ笑みを浮かべるゲーテット。

「それをあなたが言うのですか。……まぁいいでしょう。どうやら、『こちらの想定通り』のようですので」

「……」

 シェトマは無言でカイの方を見る。

 カイも黙ったまま、しかし彼はシェトマに一つ頷いて何かに同意した。

「さて。私もここに長居するつもりはないので、そろそろお戻りいただきましょうか。もちろん、元の部屋とは違う部屋へ、ですが」 

 ゲーテットは不気味な笑みを絶やさずにそう言いながら剣の先端をカイへと向けた。

 その時だった。

 ピロンと何かの通知音が通路内に響き渡った。カイもシェトマも、フィギライトをはじめスマホなど外部との連携も遮断されてしまっている。

 つまり、この場においてその手の音の鳴る機器を所持しているのはゲーテット以外にいない。

「ふむ。なんでしょうかこんな時に——何?」

 一瞬にして場の流れに変化が訪れた。ゲーテットが明らかな動揺を顔に出したのだ。

「シェトマ」

 カイがチャンスと言わんばかりに声をかける。

 シェトマもそれに首肯し、ゲーテットの居合の距離に触れないよう注意しつつ通路へ足を運び、施設脱出への退路に立つ。

「待て!……コホン。それ以上は進まないことをおすすめします」

 咄嗟の動きへの反応で言葉が荒くなってしまったゲーテットだが、すぐに冷静さを取り戻す。しかし、今度は剣をしっかりとシェトマとカイ両名の方へ向けて構えていた。

「そちらの御仁に手荒な真似はしないようにと『あの方』には言われているのですがね。……どうもそれは守れそうになさそうです」

 そう言いながら、ゲーテットは剣の柄を回転させてフィギライト操作を始めた。

「くっ!カイ、こちらも覚悟を決めるしかないかもしれない」

 ゲーテットの操作が終わり、剣が光を纏い始めた。シェトマは光始めた剣に視線を向ける。

「多少の怪我はやむを得ません。次に立ち上がれる保証はありませんがね」

 そして、剣は大きく振りかざされた。

 勢いよく上下に振られた刀身から、高密度故に視覚化された刀身にそっくりの斬撃が解き放たれる。

「何だと!?」

 驚くシェトマに、ゲーテットは満足気に答える。

「私は国語のフェルシアス。比喩表現を操るのは大得意と、それだけはお伝えしておきましょう」

 そう。彼の放った斬撃、それはまるで比喩として刀がそのまま飛んできているような、鋭利すぎる衝撃波となってシェトマの頬を掠めていった。

「次は当てます」

 少し余裕が出てきたためか、ゲーテットは口角を上げた高圧的な表情をしてシェトマらに向けて剣を振り上げた。

 険しい顔でその剣を見ることしかできないシェトマとカイ。しかしそれでも瞳に諦めは見せないでいる。

「『白の復讐者』も、こうしてみると恐るるに足りませんね。例の絵画の代償もあわせて、あなたには天罰を与えましょう」

 命乞いをするなら今だぞ、と言わんばかりに『溜め』の時間を用意するゲーテット。シェトマはため息を吐いて口を開いた。

「……ふ、聞いて呆れます。ミチビキの幹部ともあろうあなたが、ただの人間が神を気取るとは」

「……ほぅ。もう自身を客観的に見る冷静なあなたもいませんか」

 ゲーテットは剣を持たない方の手で残念だと肩をすくめる。

「まぁ、もう何を言おうと無駄ですがね」

 そして、光る剣を振り下ろした。

「さようなら」

 斬撃が繰り出されるその刹那、シェトマは振り下ろされた剣の柄の部分が発光するのを確認した。

「カイ!」

 突然大声で叫んだシェトマ。カイはシェトマに突き飛ばされて通路の壁にぶつか——らなかった。

「何!?」

 ゲーテットの攻撃は通路に大きな爪痕を残したが、それによる負傷者はそこにいなかった。壁への衝突も含めて。

「ボス、これは『エレガント』ってやつか?」

「ボス!よかった、無事でよかった……」

 通路の壁に穴が空いていた。カイはどうやらその中にいるようで。

「シェトマ!?それに、君は……?」

 状況が読めないのはカイだけではなかった。

「なッ……なんだ!?何が起きた!?」

 自身の攻撃が外れたことに加え、目の前の状況が想定外なゲーテット。

「私が何の策もなく敵に飛び掛かると、本気で思っていたのでしょうか?」

 シェトマの言葉に奥歯を軋ませる。

「カイ。あなたは彼らとここを離れてください。グェン、詩音、あとはよろしく」

「おう」

「分かったわ」

 シェトマの指示に応答するグェンと詩音を見て彼らを『仲間』であることを察したカイだが、その場を離れようとするシェトマに疑問を抱く。

「お、おい!シェトマ!君はどうするのさ!?」

 シェトマはカイに振り向いて言った。

「もう一人の相棒を迎えに、な」

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