廃校舎招集:白と紫、緑の応答
白道家を発った英也と紫色のフィギライトを持つ青年は、黒野家へと歩みを進めていた。
「勢い半分で出てきたけど……、黒野くんに連絡入れた方がいいような」
その英也の言葉に今気がついたという様子で納得する青年。英也は苦笑しながらスマホを取り出す。
「まさか僕がこんな時間に訪ねてくるなんて思っても」
続く「いないだろうから」と言おうとした時、スマホのメッセージ通知に目が止まった。黒野から送られてきている。
「ん?どうした?」
「あ、えーと、黒野くんから何か連絡が来てたみたい」
青年に通知を見せる英也。
「おん?本当だ。何かあったんだろうか……。見てみようぜ」
英也たちは一旦足を止めてそのメッセージを開いた。
そこに書かれているハードレム・スレイクについての情報と廃校舎集合の依頼を読み終えた二人。
「これは……」
「……」
「行き先、変更だね」
廃校舎のある方へと歩き始める二人。
青年は先ほどまでとは打って変わって青い顔をしていた。
「えーと、だ、大丈夫?相当顔色悪くなってるように見えるけど……」
英也の気遣いに「あぁ」と短く答える青年だが、大丈夫そうには見えない。
メッセージを受けて精神的なダメージをほとんど感じていない英也に対し、ある種の畏怖のようなものを感じているようだった。
「……少し、質問いいかな」
青年はそう言って立ち止まった。
「え、あ、うん。いいけど」
英也も足を止めて青年の方を向く。
「もしもの話なんだけど——」
その質問は、英也の想定を遥かに超えていた。いくら仮の話という前置きをされても、答えられるものではなかった。いや、答えが分からなかった。
英也が何も答えずにいる中、青年は目を閉じて数回頷き、目を開いた。
「うん、なるほど。そこまで」
思考を止めるように要求する青年。英也の回答は打ち切られてしまった。
「そのフィギライトは、黒野のやつに返却した方がいい」
「えっ……」
予想だにしなかった青年の発言に、返す言葉が上手く出てこない。
「な、ど、どうして」
「もう、『時』が来てしまったみたいだからさ」
青年は英也を真っ直ぐに見つめて言い放つ。
「『時』って……。もしかして、ハードレム・スレイクが破壊されたことに起因して、世界中のスレイクが操作できるようになってしまうから?」
「そう、この世界は時季に戦争に発展する可能性がある。それは分かっているよね?」
英也の学習・適応能力には若干の驚きを見せたが、それを理解出来ているのであれば何故即答出来なかったのかと疑問を浮かべる青年。
その青年が言う『戦争』という二文字に、背筋が凍るような恐怖感を覚える英也。
「ま、待ってよ。そんな、すぐに戦争になんて」
「なるさ。我々にその気がなくとも、『向こう』にはある」
「『向こう』って……。いや、で、でも、戦争って『神人大戦』のこと、だよね?もし、そうだとしたら……。黒野くんの相棒のラペさんも、敵になるってこと?」
英也は彼なりに当然の質問を投げかける。しかし、青年はこれに解答することなく少し難しい顔をして俯き、何かを考え始めた。
「それに、黒野くんとは約束したんだ。一緒に世界を守るって」
青年は英也の顔を見る。
「……はぁ。なるほど。そういうことか」
半ば呆れ気味にため息を吐いた青年は、廃校舎へ向けての歩みを再開した。英也も後を追うようにして足を動かし始める。
「白道——いや、これから仲間になるわけだ。親しくいこうか。英也くん、黒野の御曹司からは『ラペたち以外の神々』について、聞いていないね?」
この問いを受けて、英也は黒野が口にしていた『実験』のことを思い出した。
「『実験』……」
「え?」
「あ、いや、そのー、黒野くんが神々について話してくれた時、そういえば『実験』って言ってたなと思って」
「……」
青年は再び足を止めて考える姿勢をとった。
英也も足を止め、青年の方を向く。
「ただ、特に細かいことまでは聞いてなくて……。単語だけって感じ、です」
英也の補足情報を耳にして、青年は目を瞑って一つ深呼吸をした。
「ふむ、オーケー、分かった。なんとなく今の状況が掴めてきた。真治は多分、『外』だと話せない、みたいな感じで言ってたろ」
まさにその通りの言葉だったので驚きながら首肯する英也。
「だろうなぁ。こいつを話すには『承認』がいるからな」
「承認?誰かに許可をもらうってこと?」
「そ。俗に言う機密ってやつ。誰もが知ってていい情報じゃないのさ」
青年は険しい表情を見せつつ、廃校舎へとつま先を向けた。
廃校舎へと急ぐ鉄仁は、信号待ちで足止めを喰らっていた。大通り同士が直交するその交差点は、この街のシンボルとも言える場所。この地域での大抵の行き先は、この交差点を基準とした東西南北などで語られることが多い。
「ん?あれは……」
鉄仁の目に映ったのは、横断歩道を隔てて自分と同じ方向へと向かおうと信号待ちをする緑川の姿だった。
「おーい!そっちも、例の場所かー!?」
確実に気付いてもらえるように大きめの声と手を振りながら質問する鉄仁。この時間にこの場所にいるフィギライト関係者となれば、それが実質答えのようなものでもあるが。
「むむっ、何やつ!?ってなーんだ鉄ちゃんか。ヤッホー!多分それーっ!」
声に気付いて鉄仁の方を向いた緑川も、大声で回答。そして、二人の間の通りへと右左折して通り抜ける車やトラックの音にかき消されないよう、タイミングを調整して続ける。
「ひでっちはー?一緒じゃないのー?」
「おう!今は俺だけー!あいつはー、まぁ、あいつも多分来るさー!」
ここで信号が変わり、廃校舎へと近付く二人。渡りきったところで、鉄仁は足を止めて緑川の方を向いた。
「急ぎの状況だからー!俺、先に行くぞー!」
「りょー!そっこー追いつくー!」
緑川に手を振って、再度走り始めた。
姉弟再会が落ち着き、シェトマの作戦について話している時だった。
黒野からメッセージを受領した将斗。
「ん?メッセージだ。……動き出したみたいだね」
内容を把握した将斗は、グェンに通話を繋げる。
「えーと、ちょっとお願いがあるんだけど、……今から姉さんとグェンの二人でボスを迎えに行ってもらえないかな」
スマホの先でグェンが口を開く。
「……あ?それもボスの……。作戦知ってる詩音ちゃんとしては?」
「ここはエフィー……将斗くんの言う通りにしてもらえないかな?」
詩音の回答を受け、少しの沈黙の後に仕方ないと言うような口調で了承した。
「……面倒くせぇな。先行って準備しとく。あー、それと……詩音ちゃん、悪いが俺のジャケットだけ持ってきてくれ」
「え、えぇ!分かったわ」
開ききってしまったと思われたヒビ割れに、橋が作られた。
通話を終えた将斗は、詩音に言う。
「グェンは多分、今心の整理が大変だと思う」
「そう、だね。私のせい……っていうのは、分かってるわ」
「姉さんだけの問題じゃないさ。僕だって、『エフィーロであった』以上は疑われてもおかしくないし、線引きが難しいと思う」
「敵と味方……、そうね。ボスとカイさんは無事でいるかしら」
「姉さん」
「あ、えっと、信じてないわけじゃなくて、その……」
将斗は詩音の手をとる。
「大丈夫。姉さんは作戦通りのシナリオを考えていて欲しい。何があっても成功させるから、安心して」
「……頼もしくなったね」
詩音は微笑み、将斗の頭を優しく撫でた。




