表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィギライト  作者: シリウス
ミチビキの狙い
54/59

廃校舎招集:黄と青の応答

 鉄仁は英也の家、玄関前に到着した。しかし、インターホンに伸ばした手をすぐに引っ込めた。

 この時間は本来、自宅でリモート授業を受けているはずであり、外を出歩いているなどという状況は原則としてよろしくない。学校から説教されるだけで済むならいいが、最悪の場合、監視が一層強化され、現状のような行動が制限されてしまう可能性がある。

「おいおいマジかよ。それじゃどうやって……あ、スマホでいいか」

 白道家にいるかもしれない家族の誰かと遭遇することさえ回避できればいいのだ。鉄仁は冷静になりスマホを取り出した。

「ん?メッセージか」

 スマホの画面に、黒野からのメッセージが届いているという通知があった。

 開くと、そこには「ハードレム・スレイクが敵対するある者に攻撃され機能を停止したこと」、「その対処とこれからの行動・作戦について計画するために廃校舎に集まって欲しいこと」が記載されていた。

「——マジか。っつーことは、英也も黒野もあの廃校舎か」

 廃校舎のある方角に視線を向ける。

 黒野に対して簡単な返信だけ返して、鉄仁は廃校舎へと走り始める。

「ったく、あんまり行きたくねぇんだけどなぁ」

 鉄仁にとっては苦い記憶しかない廃校舎。今となっては味方となったゼツボウだが、そのメンバーであるグェンから一方的な攻撃を受けて行動不能にまで追い込まれた場所だ。

 実は、先日の特訓の期間中に、その攻撃でグェンは本気で鉄仁を再起不能にしようとしていたことが明らかにされていた。

 当時のフィギライト起因のスレイクによる攻撃では、命を奪うことまでは出来ないようになっていた。これは人類側に課せられたスレイクへの制限、つまりはハードレム・スレイクによる影響だ。

 グェンはシェトマから「我々以外の他のフェルシアスと接触した場合は、原則として無力化を最優先とする」と聞かされており、かつ、ハードレム・スレイクの制約も理解していたため、鉄仁に対しても敵意のあるなしに関わらず「無力化」、つまり再起不能な状態にしようとしたらしい。

 しかし、カフがその無力化を制止した。

 グェンは「あの時、カフがそう判断できた理由の裏にあるモンは未だにピンとこねぇ」と話していたが、「結果としてこういう関係になって、共闘に臨む状況下で戦力としてお前を数えられる状態にあるのは、あの時のカフの判断あってのものだ」とも語っていた。

「野蛮な師匠ってのは嫌いじゃねぇけど」

 廃校舎へ向かう鉄仁は、頭の中でそのグェンの話を思い出して思わず独り言を口にする。

「真っ直ぐすぎるのは継承したくねぇな」

 自らに言い聞かせるようにそう続け、青信号が変わる前にと走る速度を上げた。


 海花は高校の校門付近に足を運んでいた。英也の身を案じる海花は、とにかくフィギライトを持つ誰かと接触して状況を把握する必要があると考えていた。

「とりあえず、学校に来てみたけど……。誰かいるかな」

 鉄仁から得た情報では、英也に投げたチャットには既読が付かないとのこと。直接会うしかないと判断したのも、その理由からだった。

「む、あれは?」

 校門から誰かが優雅に歩いて出てくるのが見えた。海花は咄嗟に高校から少し離れた丁字路に入り、塀に背を預けてその人物を盗み見る。

 白い装いに、ウェーブのかかった綺麗な長髪。一歩一歩の所作にも上品さがあり、その姿に思わず息を飲む。

「綺麗な人……」

 一目でその美貌に見惚れかけた海花だったが、「今はそんなことを言っている場合じゃない」と自身の頬を二度軽く叩いて気合いを入れ直した。

「よし!海花ちゃん再起動完了!フィギライトもちゃんと持って……あり?」

 意気込みと同時に胸ポケットから取り出したフィギライトが、周囲を照らせるほどに光を発していた。

「こ、これって……!え、ということは、まさか、あの人が?……や、やばい!」

 海花は慌てて女性からさらに距離を取るべく校門とは真逆の方向へと走りだした。

 フィギライトの光は、女性から遠くなるにつれて徐々にその明るさを下げていく。客観的に見て、やはり彼女も所持者と考えるのが妥当に思える。

 恐怖と驚きが重なったことに本能が安息の地を求めたからか、海花は自身の自宅前まで戻って来ていた。

「……ぷはっ!はーっ!はーっ!も、もうダメかと思った……」

 呼吸の仕方を忘れるほど一目散に逃げて来た海花は、ゆっくりと周囲を見回し、人影がないことを確認する。

「今のこと、みんなにも伝えなきゃ!」

 海花はここに来てようやくスマホを取り出した。

「あれ、何かメッセージ来てる」

 それは、黒野からフィギライト関係者に送られたものだった。

「えーっと、なになに……え。なんかヤバそうなことになってる?それから……集合場所はあの廃校舎?そっちかー!しゃーない、行きますか。……あ、忘れないうちにあの人のことはみんなに伝えた方がいいよね」

 海花は黒野からのチャットを一旦閉じ、特訓メンバーで作ったグループチャット画面を開いた。

—高校の校門前に立ってた白くて美人なお姉さんがフィギライト持ってた!

 メッセージを投げた後、再び黒野とのチャット画面を開く。

「この『ハードレム・スレイク』っていうの、確か『祭壇』にあるのよね……」

 海花は将斗から受けた座学の内容を思い返す。

「んでもって祭壇は高校にあって……。え、それって」

 海花の脳裏には、あの綺麗な女性が浮かび上がっていた。場違いな装いももちろんのことだが、平日の昼間という時間帯に、リモート授業が行われている高校からフィギライトを所持した見知らぬ者が出てきていた。その事実と黒野からの連絡を照らし合わせれば、誰にだって予想は容易だろう。

 海花は黒野と直接話そうとスマホの通話ボタンを押す。二度のコール音が鳴り、プツっと音声が切り替わるような音が聞こえた。

「あ、も、もしもし、黒野……くんで合ってますか?」

 初めて通話で連絡することもあり、念のために確認を入れた。

「『おかけになった電話番号は、現在』」

「ありゃ、ダメかぁ」

 海花は通話先からの合成音声の途中で終了ボタンを押す。

「うーん。仕方ない!とりま、チャットだけ」

 黒野からのメッセージに肯定の意で返信する。

 そして、海花も廃校舎へ向けて走り始めた。


 一仕事終えたアーセルは、ミチビキのボスであるモデラに『成果』を報告していた。

 モデラはアーセルからタブレット端末を受け取り、表示されているデータに目を通す。

「——っていう感じで、その『お友達』とあれこれお話ししてみて分かったことがそこに載ってるよ!これ、めーっちゃ大変だったんだよ。飴の効果時間もあったし、赤の人は欠席する日を事前に調べたりとかしないといけなかったし、紫の人の時はいつ戻ってくるか分からない休憩時間を使ったりでヒヤヒヤしたし。ま、まぁ?ボクだから出来たことだけどね!えっへん!すごいでしょ!」

 ドヤ顔で話すアーセルとは対照的に、慎重な面持ちで報告を受けるモデラ。

「うむ……。つまり、ティーラスはすでに件のフィギライトと接触して……。いや違うな。初めからティーラスはそのために……、なるほど。そういうことですか」

 データに向かって独り言を呟いた後、何かに納得した様子のモデラは「よく頑張りました。助かりましたよ」と労いの言葉を告げる。

「わはっ!そんなぁ、えへへ。でも確かに今回は頑張ったよ!無事に終わってよかったぁ」

 その後、アーセルを自室へと帰して一人になったモデラは、一息つくためにコーヒーを淹れた。

 香り立つカップを静かに机に置き、引き出しから円形の灰色をした物体を取り出す。

「ティーラスは……。やはり、そう簡単にはいかないものですね」

 手に持っているその物体に話しかける。しかし、当然返答はない。

「……」

 モデラは物体を愛おしそうに眺めてから、無言のままそれを引き出しに戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ