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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
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カガヤキの始まり:2

「さて、皆揃ったかな」

 いつも通りの座学のつもりでソファに着席する英也たちを見回す将斗。

 普段ならそのままホワイトボードを持って来たり、口頭での理論説明などが始まるのだが、今日はそうではなかった。

「えっと、特訓、お疲れさまでした」

 将斗の発言を一同はすぐに理解出来なかった。

 突然の特訓修了に、黒野もまだ理解出来ない表情をしている。

「あれ?僕、何か間違えた?」

 困惑する英也たちを見て首を傾げる将斗。

「ほぇ?……んー?終わり……てことで、おけ?」

 持ち前のテンションが空回りする緑川に、彼女と顔を見合わせて疑問符を浮かべる海花。

 少しして、この状況を見てられなくなったグェンが怠そうに将斗の横に立った。

「もう俺らがテメェらに教えられるモンは無ェっつうことだ。これ以上は、フィギライト次第。俺らでどうにかやれる次元じゃねェ」

 これを聞いた鉄仁はしばらく俯いていたが、ふと顔を上げて制服のシャツを少し整え、グェンの前に立った。

「ほ、本当に、終わり……なんだな」

「あ?」

「……」

 鉄仁はグェンを直視せず、彼の前に立ったまま深呼吸した。

「そ、その、最初はアレだったけど……。いや、何でもないっス!色々と、ご指導ありがとうございました!」

 グェンが珍しく目を逸らした。予想だにしなかった状況に、その場の一同も鉄仁に注目したまま固まった。

「鉄仁、お前」

 鉄仁は何かを言わんとした英也の方に振り向いて清々しい表情で頷く。

「……ゥるせぇ。ったく、テメェはいつも声がデケェんだよ」

 グェンはいつも通りの強面を崩さず、ただ、どこか嬉しそうな顔で鉄仁に手を差し出す。

「俺、アンタを超えてもっと強くなるぜ!」

「百年早ェ」

 鉄仁とグェンは固く握手を交わした。

 この二人のやり取りを見て、ようやく全員が特訓が終わったことを実感した。

 特訓についてアレコレと話しながら盛り上がる一同。短い期間ではあったが、とても色の濃い特訓だった。

 他のメンバーが振り返りを行う中、これを機とみた黒野は将斗に話しかけた。

「あ、あの、将斗、さん」

「ん?何か質問?」

「い、いえ、質問ではないんですが……」

 談笑する英也たちを一目見てから、少し場違いな真剣な顔で将斗に『あること』を持ち掛けた。

「——という、提案なんですけど」

「……」

「ど、どう、でしょうか?」

 将斗は口元に手を当てて考え始めた。

「その提案に乗るとした場合、『彼ら』とも繋がることになるけど。それはもちろん承知の上ってことでいい?」

 将斗の視線は黒野の胸ポケットにある黒いフィギライトに向けられている。黒野はその視線と言葉の意味を理解して答えた。

「……はい」

「ふぅん。それなら、僕らが断る理由は特にないかな」

 そして、黒野と将斗も手を交わした。


 緑川の試験は最終段階に入っていた。特訓中の彼女の様子を逐一チェックしていたキャレルは、もう大方『採点』を終えていた。

 その点数は五十点。合格点である六十点に到達できていなかった。

 キャレルは不満そうにスレイクを覗き込み、時折目を閉じては眉を顰めて首を横に振っている。

「試験、そろそろ終わりそう?」

 背後からかけられたその声の主を確認することすらせず、キャレルは視線をスレイクに固定したまま答える。

「そうね。ある意味で『終わり』かも」

「あら。でもそれはクロくんに悪くない?」

「分かってるわよ。だからこそ粘ってるの。どうにかボーダーにだけでも乗せられないかってね」

 キャレルが採点メモとして手元に置いている記録媒体には、膨大な量の記載があった。しかし、そのどれにもこれにも、文字の上に取り消し線が引かれている。

「ここまで低いのは初めてね。うーん、それなら……。あ、クロくんが何でこの子を選んだのか、それは考えてみた?」

 キャレルはここでやっと声の主、エレミティカ・ヴィードに目を遣る。

「それは多分、彼女が『保健体育』のトップだからよ。実際、『ディレーサー』として選ばれた人間はこれまでもカルセートのいる地域で各科目の成績トップだったわけだし」

 キャレルの答えに、ヴィードは首を傾げる。

「本当にそれだけなのかしら?」

「……だと、思っているけれど」

 メモした緑川の行動記録を再度見直すキャレル。

 そのメモには、黒野やラペからヒアリングした試験開始前の彼女の様子までもがびっしりと書かれている。

 医療従事者の姉を持ち、保健体育科目ではトップの成績を誇る緑川。ただし、普段の口語に難があり、一般には聞き返されたり理解まで時間がかかってしまう場合が多い。しかしながら、彼女の明るい性格と常に高く維持されているテンションにより、いかなる状況下においても周囲を照らす存在となっている。

 また、実はフィギライト適性も悪くない。歴史上、これまでにフィギライトを手にしてきた数多の人類のうち大半は、手にした瞬間、あるいは目にした途端に『違和感』を覚え距離をとっていた。これは、黒野からフィギライトの説明を聞いた時の青井 海花にもみられた行動だ。しかし、緑川は距離をとるどころか、廃校舎で倒れていた鉄仁が持つフィギライトを見た際に興味を抱いており、黒野がフィギライトを渡そうとする際には彼が手渡すよりも先に自らそれを手に取っていた。それは紛れもなく『違和感』を無視した行動であり、その時点で人類としてフィギライト適性があると言える。

「何か他に、この子にある良いところ……」

 キャレルは考える。学業成績も秀でていて、医療や人助けへの憧れと興味が人一倍強く、保健係として仲間への気配りにも長けている。

 ポイントごとに見てみれば、優秀であることに異論はない。ただ、試験としては圧倒的に不足しているものがあった。

「……はぁ。認めたくはないけれど、やっぱり『私自身』が、彼女を理解出来てなさすぎるのよね」

「どうなのかしら。私からすれば、もうとっくに理解していると思っているけれど」

 半分冗談、半分本気でヴィードは続ける。

「もしくは、それが本当に『彼女の本質』なのかと信じきれないのか……。ふふっ、その様子じゃ、これが正解みたいね」

 キャレルはもやもやとした心の内をヴィードに言語化されたことで言葉が上手く出せなかった。ただひたすらに頷いてはため息を吐く。

「信じてみたら?」

「……」

 キャレルは深呼吸する。

「『シャロレス』はディレーサーの中でもとても重要な立ち位置なの。こればっかりは私の偏見だけで決められるほど甘いものじゃないわ。……でも、私はあの子、嫌いじゃないのよね」

 特訓を終えて海花と笑い合う緑川をスレイク越しに見つめつつ、難しそうに顰めていた眉を少しだけ緩める。

「フィギライトが覚醒すれば、異論もなくなるわよ」

 ヴィードの後押しに静かに頷いて、試験用のスレイクを『切断』した。

 そして、その空間を出るキャレルの手に握られた記録媒体に書かれたレポートには、大きく「60」と記載されていた。


 無相の声を模倣してリモート授業に参加するアーセルは、『本当の任務』を遂行し始めていた。

「……」

 コロコロと頬の内側で飴玉を転がしながら、ヘッドホンから聞こえてくるバーチャル教室の音に耳を澄ます。情報収集を任命されたアーセルが行っている潜入調査では、未だに成果らしい成果をあげられずにいた。

 ヘッドホンを外し、マイクがオフになっていることを確認してから天を仰いでため息を吐く。

「うーん、当たりだと思ったんだけどなぁ。『この子』じゃダメかぁ」

 アーセルは飴玉の入ったケースから透明の筒を取り出して眺める。口に放られている飴玉は、もう随分と小さくなっていた。しかし、アーセルは新しい飴玉を取り出すどころか、何もせずに筒をケースへと戻した。

「……やるしかないか」

 独り言を呟いてケースから今度は赤い筒を取り出し、飴玉を一粒手のひらに移すアーセル。続けて無相の名でログインしたままのタブレット端末を適当な空いているスペースに置いた。

 そして、充電スタンドに刺さっている他のタブレット端末を一枚手に取る。

「えーと、確か名前は……」

 アーセルは飴玉を口に含んだ。いちごの風味がふわっと広がり、少し微笑む。数秒後、擬似スレイクの効果が現れ始め、アーセルの胸に付けられたマイクから音を拾った機器がモニターへと名前を表示した。

「あ、女の子だったっけ。ま、さっきの子よりはいっか」

 充電スタンドから別のタブレット端末を手にしたアーセルだったが、壁のモニターに映る文字を見てその端末を元に戻した。

 そして、心底面倒そうに肩を落とした。

「うわぁ、『あの学園』じゃん……。うーん」

 アーセルは大きくため息を吐いてから、とぼとぼとその部屋を出る。

「エイミー?アスタでもいいんだけど、誰かいる?」

 アーセルが声の響く廊下に問いかけると、一つの扉が開く音がした。

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