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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
4/55

交わる組織

 英也たち三人は黒野の指す方角に走り続け、フィギライトの光る『圏内』に向かっていた。

「黒野くん、走りながらでいいんだけど、一つ気になることを聞いてもいい?」

「う、うん。何だい?」

 二人の前を走る鉄仁も聞き耳を立てる。

「これから、その……やつらを見つけたとして、それからどうやって立ち回るのかなって……」

 英也は黒野の非科学的な現象を頭によぎらせながら質問する。

 いや、どちらかと言えば、これは確認なのかもしれない。

「……多分、白道くんの考えている通り、かな」

「やっぱり、これを使うんだね」

 英也はフィギライトを確認する。

「でもさ、あの白男が『覚醒』とかなんとか言ってたよな」

 鉄仁が話に丁度いいメスを入れる。

 黒野がシェトマと対峙した際、シェトマは確かに言っていた。

「そう、だね……。さっきの僕みたいに、フィギライトを使ってスキルを使うには……か、『覚醒』、が、必要なんだ」

 流石に走りながらの説明は息苦しそうだ。

 だが、黒野の話が本当ならば、今シェトマと対峙したとて手段がないことになる。

「手っ取り早く『覚醒』する方法とか、ないのか?」

「そ、それが……、何がきっかけで『覚醒』するのかは、わ、分かって、いないんだ」

「マジかよ」

 鉄仁は足のペースを落とす。

「ご、ごめんね。でも、今はこうするしか」

「いや、だからこそ、僕たちを探していたんだよね?」

 英也は黒野の意図を理解していた。

 上がった息を整えつつ、歩きに移行する三人。

「どういうことだ?」

「いつ『覚醒』するか分からないから、その時を可能な限り早めるためには、こうするしかなかったんだ」

「……おぉ、なるほど」

 鉄仁も決して察しの悪い男ではない……多分。

「ま、だとすれば今『覚醒』してもおかしくないわけだろ?じゃあこれがそうかもなぁ、光ってるし」

 光を放つフィギライト。

「黒野くん!」

「うん、間違いない。この近くに、無相くんがいるはず」

「ん?……あ、そうか!『覚醒』したのかと思ったぜ」

 三人は廃校になった高校の敷地に足を踏み入れた。


 静かな建造物には、歓迎する者などいない。

 目の前に広がる見覚えのない部屋。

「ん……?どこだ?」

 周囲を見渡す無相はエプロン姿の女性と目が合う。

「あわわっ!おはようございます?」

 こんなにもドラマティックな出会いだと言うのに、無相は女性にただ警戒するしかなかった。

「あ、だ、大丈夫ですよぉ。本当に撃っちゃったりしないですから」

 その発言の主が右手に握っているのは赤い銃。

 よくよく見れば側面にうさぎのような獣の彫りがある。

「……はぁ」

 無相はため息を吐き、今度は自分の意思で目を瞑る。

「あれ、意外と大人しいんですねぇ。私としては助かりますよぉ」

 銃を仕舞う音が聞こえる。

「ボスはどこに行っちゃったんでしょうね?まさか、あなたを助けに来る子なんていないだろうに……」

 どう考えても独り言の声量を超えている。無相に敢えて聞かせているようだ。

「どこに行ったんでしょうねぇ?」

「……」

 気が狂れそうな空間だ、と呆れながら寝たフリを続ける無相。

「『希望』さん、あなたはどうしてアレを守るの?」

「……」

 無相は答えない。

「ふふふ、とーっても頭の良い『管理者』さんだっていうのは、本当みたいですねぇ」

 女性はパァッと笑顔で感心する。

「それなら……」

 赤い短剣を無相の首に押し当てる女性。

「こっちの用は、果たせそうっ」

「!」

 廃校舎の応接室に鈍い刺し音。

 そして目前に迫る女性に視線を向ける無相。

「……お前、違うな?」

 無相の頭すれすれでソファに突き刺さった真紅の短剣。

 女性は静かに目を細める。

「あら、本当に優秀」

 女性は光る短剣をソファから引き抜き、鞘に仕舞う。

 そしてエプロンのシワを簡単に伸ばしながら言った。

「私の提案に乗ってみないかしら?『管理者』さん」

 時刻はもう放課後になろうとしている。


 英也たちは廃校舎の一階に歩みを進めていた。

「む、無相くん、いるかい?」

「おーい無相、いたら返事してくれー!」

「しっ!鉄仁、声がデカい」

「おぉ、すまん。そうだったな、奴らもいるんだった」

 応接室までは距離があり、まだ無相には声が届かない。

「黒野くん、フィギライトの光が段々と強くなっているような気がするんだけど、もしかしてこれって」

 見ると確かにフィギライトは今までにないほどに光っている。電球ほどではないが、蓄光塗料の光よりは明るい。

「間違いないね。もう、いつあの人が出て来てもおかしくない、かな」

 無相がフィギライトを持っているわけではない。

 つまり、この光は無相の居場所ではなくシェトマとの距離が縮んでいることを意味する。

【1015001】『ポストカード』!

 黒野のフィギライトを軸とした小さな魔法陣が三つ現れ、すぐに消える。

「黒野くん?」

「あぁ、ごめんね。もう、いつ何が起きてもおかしくないから、準備しておこうと思って」

 そして黒野の予想は的中する。フィギライト同士の距離により光るのであれば、当然向こう側もその効果を得ることが出来る。

「これはこれは。ようこそ、とお出迎えすべきでしょうか」

「お、お前!無相くんをどうした!?」

 咄嗟にフィギライトを構える英也。

 だが、シェトマはこれを見て笑ってしまう。

「フ、ハハハ!何だね、その石の塊は。そんな『状態』で我々と対峙しようとは……。いやはや、これは傑作です」

 どうやらこれがただの石でないことは分かっているらしい。

 だが、その言葉は間違っていない。

 現に英也は何もできないのだ。

「白道くんと黄瀬くんは他の階を当たって」

 黒野がフィギライトを自身の前に突き出す。

「……わ、分かった!」

「怪我すんなよ!」

 英也と鉄仁は黒野の意図に従った。

 フィギライトを扱える黒野でなければ対抗出来ないであろうことが二人にも理解出来たためだ。

「黒野くん、無茶しないといいけれど」

「あぁ、そうだな……。よし、じゃあ俺は右を見に行く。英也は左を頼む」

「分かった」

 二階での無相捜索が始まった。

「ふむ……。なかなか粋なことをするのですねぇ、最近の学生は」

「無駄な話は無相くんを返してもらってから聞きます」

「強気なのは構いませんが、返してもらうのは一人でよろしいのですか?」

「ど、どういう……、はっ!?」

 黒野は二階への階段に目をやる。

「おや、『管理者』の彼もさることながら、君も相当頭がキレますねぇ」

「……あ、あなたたちの目的は、何なんですか」

 ここで自分が戦っても、優勢になるのは難しいと判断した黒野は、冷静に情報戦を仕掛けることにした。

「無駄な話は聞かないのではなかったのかな?」

「……」

「フ、いいでしょう。お答えします。我々は世界を保護し、維持すること目的とした組織。即ち救世主となるべく活動しています」

「世界を、保護……?」

「そうです!この世界はあまりに進化を遂げすぎた。神に抗うなどという思い上がった思想まで持つようになってしまい、その結果!……我々人類は大敗を喫しました……」

 突然『神人大戦』の歴史を振り返るシェトマ。

「そ、それは大昔の話で」

「いいえ!この現実世界は今もなお、進化や革命という脅威に飲まれんとする状態!」

 シェトマは酷く真っ直ぐな瞳で天井を見つめる。

「……ただ、そんな我々にも一つだけ『希望』があります」

「『希望』……?」

「Mr.無相、いえ……『スレイク』の存在です」

 シェトマの視線が黒野を捉える。

「我々は世界各地を転々として来ました。各所に点在する『スレイク』を調べまわるのは骨が折れましたよ」

 一歩ずつ、黒野に近づく。

「君はもうご存知のようですが、現代の『スレイク』は本来の力を出せないようになっています……」

 そしてシェトマは黒野に向けて至近距離でフィギライトを構えた。

「『希望』が管理する『ハードレム・スレイク』、封印陣のせいでね!」

 刹那、黒野の眉間に圧縮された空気の銃弾が撃ち込まれた。

 しかし、黒野にダメージはない。

「……ほう」

 眉間を覆うようにポストカードのような盾が展開されていた。

「なるほど、無策というわけではなさそうですね」

 役目を終えた盾は静かに消えていく。

「何故『ハードレム・スレイク』を狙う必要があるんですか!世界を守りたいと思うなら、あんなものを解放してはいけないと分かるはず!」

「なるほど。『あんなもの』と揶揄するとは、流石は『黒』の系譜です」

「なッ──」

「どうして私がそのことを知っているのか、という顔をされていますね」

 黒野は酷く驚いていた。

「隙はこうして生まれるのです」

 シェトマのフィギライトが黒野の太ももを狙う。

 咄嗟に後ろへ飛ぶ黒野。

 間一髪のところで銃創を作らずに済んだ。

「……気に入りました。あなたとはもう少し深くお話がしたい」

 シェトマはフィギライトをホルスターに仕舞う。

「……」

 黒野は即答こそしないものの、内心ではこうなることを望んでいた。

「私はシェトマ・トークと申します。世界の保護組織『ゼツボウ』を率いる長を務めております」

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