共闘へのコンタクト
エスカはゲーテットに限らずミチビキのテーマらが扱う技やスキルについて、ある程度データを分析していた。それはシェトマらゼツボウのメンバーでここへ乗り込んだ際に少しでも役に立てれば、という彼女なりの考え故の行動だった。
「エスカァ!」
怒りに任せて叫ぶ元仲間に声を掛けることなく、冷静に繰り出されようとしている技について脳を回転させるエスカ。
ゲーテットは一度怒りを露わにするとしばらく暴走し続けるタイプの横柄な性格。強めの大技が飛び出す可能性を考慮し距離を取りすぎないよう気を付ける。
フィギライトによる強力なスキル発動にはそれなりの準備が必要となる。例えば、場にスキル発動のためのスレイクを設置したり、リミッター解除のための開錠用パスが必要だったりといった具合だ。
距離を取りすぎてしまうと、そういった準備や予備動作を完了させる時間を与えてしまうことにも繋がりかねない。
「あら、大きな声ばかりでは何も出来ないわよ?」
「貴様……ッ!」
エスカは敢えてゲーテットを挑発する。
怒りに任せた攻撃をさせることで、スキル発動まで頭を使わせないように誘導しようと考えてのものだ。
「ウォアァァァア!」
案の定、ゲーテットはエスカに向けてただひたすらにフィギライトを振り下ろすのみになってしまっている。
エスカは器用にくるりくるりと身体を回転しながら攻撃を躱わす。
周囲のフレーズらはゲーテットの暴走に恐れをなしているようで、先ほどから一切の手出しがない。
「滑稽ね。そういうところ、本当にみっともない」
エスカは回転をやめてゲーテットに背中を向けた状態で立ち止まり、フィギライトのシリンダーを軽く操作した後に正面へ向けて一発だけ放った。
「滑稽だァ!?それはこの状況下で貴様が言える口かオイ!?」
ゲーテットは激しく怒りすぎてこめかみに血管が浮き出ていた。
「お前らァ!ボサっと見てんじゃねぇ!今すぐあの女を捕えろ!」
ゲーテットはフレーズに指示する。
「はぁ……。どうしてこうもエレガントじゃないのかしら」
エスカは内心少し焦っていた。状況としては四面楚歌。フレーズ団員は一般のモチーフ団員に比べて戦闘能力や忠誠心が高い者が多く在籍しており、いわばテーマに次ぐミチビキのエリートたちである。中でもここに集っているのは全国に点在する忠誠心のみで登り詰めた者だけではなく、中枢護衛に相応しい戦闘センスの持ち主たちが多い。
そんな彼ら数人と戦うのは、実質的には複数のテーマを相手にしているのとほぼ変わらない。
「……!そうだ、いいことを思いついたぞ!お前たち、よく聞け!」
ゲーテットが突然何かを思いついたらしく、フレーズらに向けて言葉を投げる。
「第4のテーマが空いた今、次の候補が必要だ!」
「ちょ、ちょっと!」
エスカもその意図に気が付き、ゲーテットの発言を止めるため彼に向けて咄嗟に数発弾丸を発砲する。
「クククッ!慌てても無駄だ。もう意図は伝わった」
ゲーテットは怒りの表情を一転させ、気味の悪い笑顔を見せる。
そして、エスカを取り囲んでいたフレーズらが一人、また一人とフィギライト製ではない通常の剣を構え始めた。
「エスカ、貴様の負けだ」
フレーズの構えを確認したゲーテットは満足したのか、突然攻撃を取りやめて「フハハハハ!」と大声で笑いながら奥の部屋へと姿を眩ました。
「……あ、あなたたち、本当に私と一戦交えるつもり?」
エスカはフレーズらに説得を試みる。
「……」
フレーズらは誰一人として答えようとしない。
「手加減出来ないけれど、いいかしら?」
ここはハッタリでもなんでも使って脱出するのがベストだと判断したエスカ。フレーズはその言葉に少し戸惑いを見せていた。
「……ここで大怪我を負って再起不能になりたいのかしら?」
「う、うるさい!」
エスカは驚く。黙ったままだったフレーズの一人が声をあげたのだ。
「あ、あなたは……、も、もう、裏切り者なんです!て、て、敵、なんです!」
そう言って震える手で剣を握るフレーズの青年。脚もガクガクと震えており、敵として対峙するエスカへの畏怖が拭い切れていないのが目に見えて分かる。
「……」
エスカは無言のままその青年に赤い銃口を向ける。
「……ッ!」
フレーズの青年は目を強く瞑った。
「……バン!」
エスカは口で効果音を演出した。
しかし、青年はまるで本物の弾を受けたかのようにその場に倒れ込んだ。極限の環境下で気絶したらしい。
他のフレーズらは何が起きたのかが理解出来ず困惑している。
エスカはこの好機を見逃さなかった。
青年が倒れたおかげで生まれた包囲網の隙間を全力疾走で駆け抜け、聖堂を脱した。
「……」
エスカはフィギライトを握りしめ、シェトマが向かったであろう施設中枢部へのゲートへ向かった。
いにしえ高校の屋上、祭壇にてゼツボウの二人と会った英也と黒野。英也は黒野に小声で相談する。
「これから、どうしようか」
すると黒野は英也に提案をしてきた。
「……ここは、ちょっと僕に任せてもらえないかな」
そしてゼツボウの二人に向き直り、言い放った。
「無相くんは無事、そうですよね?」
英也は状況がよく分かっておらず困惑したままだ。しかし、黒野に何か考えがある以上、それを邪魔するわけにもいかないと、ここは任せることにした。
「無相……。僕らの希望さんは確かに無事だよ。特に危害は与えてない、はず」
将斗がそう答える。
「はず」という推測に引っかかる英也は口を挟む。
「危険の可能性はあるってことですか?」
少々熱のこもった発言ながら、熱くなりすぎても議論にならないため自制する英也。
「……」
黙り込む将斗。
代わりにグェンが吐き捨てるように口を開く。
「テメェらの大将だか友人だかは知らねぇが、あの管理者は俺らにとっての希望そのものだ。誤解すんじゃねぇぞ。馴れ合うつもりはねぇ。利害の一致ってやつだ」
グェンのぶっきらぼうな発言は、将斗の裏のあるような丁寧語よりも真っ直ぐに英也らに届いた。無相の身は今のところ問題なさそうだと考えることにした。
無相の心配が少し緩和された矢先、今度は将斗の方から英也と黒野に話が振られた。
「とりあえず、君たちの質問は終わりでいい?僕らも君たちに少し話があってここにいるんだよね」
将斗はグェンにアイコンタクトを取る。乗り気では無さそうに目を逸らすグェンだが、それはお構いなしのようだ。
「……あぁ、でも、そっちの人はもう察してるみたいだね」
黒野がフィギライトを取り出したのを見てそう話す将斗。英也は戦闘の準備かもしれないと誤解して慌てて白いフィギライトを取り出す。
「おっと、白い方の君は多分勘違いしてるね。戦うつもりはないから、そう身構えないでほしい」
しかし、英也は先ほどグェンに威嚇されたこともあって、少々パニック気味だった。
「白道くん、だ、大丈夫。ちょっと前に言った通り、彼らは……」
黒野は将斗をちらりと見遣る。
「一応、敵じゃない」
英也はフィギライトを握ったままその手を下ろした。
「……分かった。黒野くんを信じるって決めたしね」
「あ、ありがとう」
頬の傷を指で触りながらゼツボウの二人に向き直る英也。
ようやく話が進められそうな状況になった、と将斗が口を開いた。
「カフ……いや、これはボスの意向かな。君たちをフェルシアスたる存在にするため、情報共有と戦闘のイロハを叩き込むことになった。……そういうわけで、よろしく」




