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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
34/59

計画にない変数

 ベーリルはシェトマにとって、因縁の敵と呼べる存在である。かのシェトマの親友であり同志、無相カイを消した張本人なのだ。

 ベーリルは剣型のフィギライトを手にし、柄の部分を右へ左へと回転させる。

「白の復讐者。あなたは一つ、大きな勘違いをしています」

「なんだと?」

 ベーリルはフィギライトを持ち直して両手で構える。

「ミチビキは、あの管理者に傷一つ付けていません」

 シェトマはその言葉に理解を示せなかった。事実、カイは今、この世に存在していない。

「……なるほど。まぁそうなるのも無理はありませんね。しかし事実、このようにして彼は今も生きている」

 ベーリルが投げたスマホには、どこかの一室の様子が映っていた。

 そこには何者かの拘束された姿があった。痩せ細り、身体中に酷い傷を負い、顔もよく見えず誰なのかを判別出来ない。そして、その者はひたすら「ここから出せ!」と叫んでいるようだった。

「……何の真似だ」

 シェトマは唐突な動画に困惑しつつも、敵に油断を見せぬようフィギライトの構えを解かずにいる。

「……あ!あぁ!そう、そうでした!あなた方には『聞こえない』のでしたねぇ!」

 ベーリルは大声で嬉しそうに発言する。

「これはこれは、とても残酷なことを……、いやはや、申し訳ありません。ククク……」

 ベーリルの謝罪は笑い声に消える。

 その瞬間、シェトマはすぐに理解し、そして激怒した。

「き、貴様ァ!」

「おや、そのご様子だと例のスレイクは対処済みですか」

 シェトマの怒りをいなすように緩い言葉で返すベーリル。

「当たり前ではありませんか?彼もまたミチビキの団員『だった』のですから」

 シェトマは言葉を発することなく、しかしその表情はかつてないほどまでに怒りに満ちベーリルを睨む。

「不可解な点はあった。あいつが消えてからもハードレムの封印が解かれないこと……。あいつの息子が操作管理権を完全掌握できない状態にあったこと……」

 シェトマは独り言のように呟きながらベーリルへ向けたフィギライトのシリンダーをゆっくりと回し始める。

 ベーリルもまたフィギライトの柄の一部を回し、そして準備が整ったのか自身の前面に構えた。

「フッ……、しかしアレだな。カイがまだ生きていると分かった以上、やることは大きく変わる!」

 シェトマはベーリルの額めがけて一発、二発と発砲する。ベーリルは最初の一発を刃で弾き、もう一発は軽く頭を傾けて避ける。

 しかし、その避けた先に予想していたシェトマの弾が命中し、ベーリルの額にクリーンヒット。ベーリルはよろけながら倒れ込む体勢になる。

「さ、流石はあの白の復讐者ッ!」

 地面につく寸前で身体を回しうつ伏せになり、すかさずフィギライトを持たない方の手で地を押し跳び上がる。

 しかし、敵が立ち上がることまで計算に入っていたシェトマはベーリルの足元に向けて特殊弾を二発撃ち込む。撃ち込まれた床には小さなスレイクがふわっと浮かび上がる。

「これはッ!?」

 二つのスレイクに両足をつけたベーリルは、足場が勝手に動くことに動揺する。

 シェトマはさらに数発適当な場所へと弾を撃つ。すると、足場のスレイクはその着弾点めがけて急速な移動を開始した。ベーリルはそのスレイクに乗ったままであり、移動ルートをシェトマに掌握されたも同然な状況に陥っていた。

 しかし、ベーリルも最初こそ驚いていたものの、すぐに状況に順応し、フィギライトを構え直していた。

「……私には小賢しい細工など、不要です」

 シェトマを皮肉るように一言だけ添えて、剣をシェトマへ向けて大きく振り下ろした。直後、シェトマの右肩を何か風のようなものが掠めて行った。

「……ほぅ」

 シェトマの肩に獣の爪痕のようなダメージが出来ていた。距離を取るためにベーリルの移動先とは真逆の方向へと向かうシェトマ。

「『規則』は守るためにありますが……。それは見方を変えると、規則に反している者には『罰則』が行使されるということになります」

 突然語り始めるベーリル。シェトマは戯言だと聞き流す。

「私は様々な文化を愛し、そして規律や規則を遵守することを誇りとしています」

 その言葉を耳にした瞬間、シェトマは気付いた。

「貴様ッ、まさか『道徳』か!?」

「……素晴らしい!なんと聡明なお方でしょう!」

 この反応にシェトマはより一層の警戒を強めてこれまでの倍以上の距離を取った。

 ベーリルはその距離を何とも思わないらしく、再びシェトマの方向へ向けて斬撃を飛ばす。

「『スキル』が、読めない!」

 シェトマは正直なところ苦戦を強いられていた。『道徳』のフェルシアス。それはかつて、各種科目に分割される前のフィギライト保持者が唯一覚醒を許されていたもの。

 道徳とは、心の読み方や精神のコントロール、また集団生活における規定の核などを説く学問である。つまり、これはまとめてしまえば『他の学問に属さないすべての「正しさ」を説く学問』と言い換えることすら出来てしまう。

 フェルシアスが持つ『スキル』は、覚醒を果たした学問によってそのセットがある程度決まる。例えば、国語のフェルシアスであるグェンなら漢字の書き順を使って弾丸の弾道を変化させたりすることができる。

 しかし、道徳のスキルセットはその学問の性質上、あまりにもジャンル過多。対策が最も困難とされるフェルシアスなのだ。

「チィッ!」

 シェトマはベーリルに銃口を向けたままゆっくりと平行移動する。止まればいつ何を仕掛けられるか分からない。

「私に『スキル』などはありませんよ。『原初』のフェルシアスなのですから」

 ベーリルは余裕の笑みを見せつつ、今度は勢いよく柄の部分を回転させ、そして剣を鞘へとしまい込んだ。その行動を技の予備動作と捉えたシェトマは、すぐさま自身の足元に特殊弾を二発撃ち込む。

 そして次の瞬間。シェトマは自身のフィギライトをホルスターへと戻す動作を開始した。

「腕がッ、勝手に!?」

 特殊弾のおかげで高速にベーリルから距離を取ることに成功したものの、シェトマは自分の意思とは関係なくフィギライトを懐へと強制的に戻されてしまった。

「物騒なものをお持ちなのでね。ここは一つ穏便にと思いまして」

 声色は優しいが、その言葉とは裏腹にフィギライトの鞘をいつでも抜ける状態で構えるベーリル。所謂『居合』の体勢だ。

「規範意識だけは一人前だな!」

 シェトマは苦し紛れに回答しながら無理やりホルスターへと戻されたフィギライトを構え直そうとする。

「おっと、それ以上は動かさない方が身のためです」

 足元のスレイクの効果が切れてしまっていることに気が付くシェトマ。斬撃を躱わすほどの速さで移動するのは現実的ではなくなった。相手が剣の使い手であり、居合の状態である以上、その先にある未来は予想に難くない。

「……私をどうする気だ」

 シェトマは両手を静かに上げてそう言った。

「簡単なお話です。かの男同様に消えて頂きます」

「……」

 ミチビキ中枢部入り口、生体認証ゲート前の部屋。シェトマ・トークはそこで消息を絶った。


 複数のフレーズ団員に囲まれた状態で、剣のフィギライトを持つ男と対峙するエスカ。部屋の壁に設置された絵画の端にプラズマの弾丸が焦げ跡を残したことで激昂した男は、エスカの赤い銃を見て声を荒らげる。

「裏切り者がァ!」

 エスカは周囲のフレーズに気を付けながら、目の前の男への仕掛け時を窺っていた。

「これはあの方への冒涜だ!お前を信じていたからこそ送り出したというのに……!」

 男のこの言葉に、エスカは強めに反論する。

「信じて……?フフ、アハハ!冗談じゃないわ。エフィーロを人質にした組織が何を言ったって無駄よ」

「なッ……お前!それが本音だな?」

「そうよ!私はエフィーロのためにあの方に従った、それだけよ」

 男は『あの方』への忠誠心故に酷く激怒しているようだ。

「……もう、戻る気はないんだな?エスカ」

「えぇ。もちろん」

 エスカの即答で『答え』を得た男は、エスカへの期待をかなぐり捨て、そして名乗った。

「であれば、もうこの瞬間からお前も部外者、敵だ。慈善団体『ミチビキ』第6のテーマ。『ゲーテット』参る!」

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