表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
3/55

寡黙な管理者

「……誰?」

 隠し部屋の中でシェトマと名乗る男と対峙する無相。

 シェトマの左手に握られたフィギライトは無相の脳天を狙っている。

「Mr.無相。我々はあなたに危害を加えるつもりはありません。……今は」

 シェトマはゆっくりと『スレイク』に近付き、そして手を伸ばす。

「ふむ、毒味は痛みを伴いそうだ」

 薄い膜のような結界に触れる前に手を引っ込め、無相に歩み寄るシェトマ。

「我々に与し、共に世界を保護しないかい?」

「……」

「これはこれは。……優秀な『管理者』だ」

 無相のこめかみに銃口が押し当てられる。

「決断は今でなくとも構いませんが」

 シェトマはフィギライトをホルスターに仕舞い、その動作の流れで無相の腹に拳を入れる。

「……な、にを……」

「コレを見つけた以上、あなたを泳がせる必要もないのでね」

 シェトマは気絶した無相を担ぐ。


「グェン、用意は?」

「できてらぁ。『下』で待ってるぜ」

 通信機でやり取りして段取りを確認したシェトマは、重い石板を押し上げて屋上に出る。

 そして、無相目掛けて駆け付けてきた三人の生徒と邂逅した。

「無相くん!」

「無相!」

 シェトマに担がれている無抵抗の無相を見て慌てる英也と鉄仁。

「おや、これは少々厄介ですね」

 黒野は息を整えて黙ったままフィギライトを取り出し、シェトマを睨み付ける。

「……なるほど。君は『覚醒』しているんだね」

「無相くんを、離してください」

「初対面でいきなり要求とは、高等教育もまだまだのようで」

「無相くんを解放してください!」

 黒野はフィギライトを構えた。

「ほう」

 シェトマはホルスターに手を当てる。

 そして一歩、二歩と少しずつ後ろに下がる。

「いいことを教えてあげましょう。……出方を待ちすぎると、機を逃しますよ」

「おい!お前、後ろ!」

 シェトマは鉄仁の警告を無視してさらに一歩後ろに下がり、壊されたフェンス部分から無相と共に身を投げた。

「……え」

「な……なんで……」

「……」

 呆然と立ち尽くす三人。

 しかし直後、丁度そのシェトマが落下した辺りからエンジン音が聞こえてきた。

「ま、まさかあいつ!」

 英也は壊されているフェンスに近付き下を見る。

 白いオープンカーがシェトマと無相を乗せて走り始めていた。

「鉄仁!黒野くん!下だ!あいつら生きてる!」

「何!?」

「やられた……!」

 三人は急いで一階に下りたが当然間に合わず、無相を誘拐されてしまった。


 二人は悔しさと無力さで立ちすくんでいたが、黒野は一人冷静に次の策を考えていた。

「白道くん、黄瀬くん。先生には怒られてしまうかもしれないけど、無相くんを助けられるかもしれない案が一つある」

 もはや授業などと言っている場合でもない。

「ほ、本当に!?」

「う、うん。……フィギライトの光を利用してやつらの居場所を突き止めるんだ」

「そうか!その手があった!」

 フィギライトの異なる種のものと近付くことで光る性質を利用するという作戦だ。

 しかしこの作戦には問題がある。

「ちょっと待て。いや、案としては悪くないが……、見ての通り今は光っていない。つまり、その『圏内』になるまでは何も分からないわけで、現実味があるとは思えねぇな」

 珍しく鉄仁が正論を述べた。

「それについては任せて。僕のスキルでなんとか方角までは絞り込めるはず」

 黒野がフィギライトを操作する。

【1025005】『サラウンド』!

 黒野のフィギライトを軸とした小さな魔法陣が出現し、校舎の裏の方が一瞬だけ光った。

 その直後、フィギライトの魔法陣が拡大されて黒野の周囲を囲む。

 黒野は目を瞑って音に集中する。

「な、なんだなんだ?」

 非科学的な現象に興味津々な鉄仁。

「あ……え……!?」

 英也は驚きのあまり言葉になっていない。

 そして数秒後、黒野が目を開けると同時に魔法陣やら光やらは消え去った。

「ふぅ。大体の方角は掴めたよ。あっちだ」

 何事もなかったかのように行動を再開する黒野。

「い、今の、何?」

 英也の当然の質問に、黒野はまたしても慌てて謝る。

「ご、ごごごめんね、そう言えばまだこれ言ってなかったよね」

「あ、いや……うん。でも今はいいよ。とにかく方角が分かったわけだし、フィギライトが光るまで追いかけよう!」

 かくして三人は校舎を抜け出した。


 無相を乗せたオープンカーは、後部座席の方から天板を持ち上げて白いスポーツカーになっていた。

「ボスも無茶やるぜ。普通、あんな高さから落ちようなんざ考えもしねぇ」

「優雅な去り際というものはいつも奇想天外を伴う。組織の一員としてお前も私のように振る舞えるよう意識はしてもらわねば困る」

「優雅ねぇ……。こいつを攫うのはそれに反しないのかね」

 グェンは咥えていた煙草を灰皿に捨てる。

「世界の保護のためだ。きっと彼もそのうち理解してくれるだろう」

「……どこまでも真っ直ぐだな、ボスは」

 廃校となった高校の敷地に入る車。

 一般道からの死角に停車する。

 車から降りたシェトマは後部座席で気絶したままの無相を担ぎ直す。

「さて、と。詩音ちゃんのコーヒーで癒されますかね」

 無相と二人は廃校舎へと入って行った。

「お帰りなさい……って、わわっ!ボス、その子!」

 とある一室に入るや否や、中で掃除をしていたらしいエプロンを付けた女性が無相に驚いた。

「あぁ、ただいま。我々の『希望』を連れて来たよ」

 グェンは黙ったまま革のソファに座る。

 シェトマは無相を別のソファに寝かせ、スーツの上着をハンガーに掛ける。

「ふむ……この子が例の『希望』ですか」

 部屋の入り口から落ち着いた様子で入って来た男は、無相を一瞥する。

「ボスに手荒な真似をさせるとは……。さぞ、優秀なのでしょう」

「君は理解が早くて助かるよ。グェンにも見習ってほしいものだ」

 コーヒーを片手にそっぽを向くグェン。

「この子、お怪我は大丈夫ですか?」

 救急箱を手に無相の心配をする女性。

「身体の方は問題ないだろう。……『リンク』に問題はあるだろうが」

 テーブルに用意されていた冷めかけのコーヒーを手にし、シェトマは笑った。


「ん?あそこにいるのは……英也くん?」

 シェトマらによる襲撃の後、英也たち三人が校門近くで何やら話している姿を教室から見ていた生徒がいた。

「海花、どしたの外見て」

「うーん。あれ、英也くんたちじゃないかなって」

 海花は校門を指差す。

「あれ……?」

「誰もいないじゃん」

 そこに三人の姿はなくなっていた。

「……そうだね」

 気のせいだったのかもしれないと思い、読書に戻る。

「……あー!ダメだ、集中できないよ。私ちょっとあっちの教室行ってくるね」

 どうしても気になり、もう一方の教室を見に行くことにした。

「白道英也くん!いますか!」

 その声は教室のどよめきを沈黙させるには十分だった。

「白道なら、さっき黒野と黄瀬と一緒にどっか行ったぞ」

「えっ……」

 海花は校門の三人、そして白いスーツの男のことを思い出す。

「せ、先生に知らせなきゃ!」

 職員室に駆け出す海花だったが、廊下に出てすぐのところで無相を探す担任に出くわした。

「先生!」

「お、青井か。どうしたんだそんなに焦って」

「英也くんと鉄仁くんが!」

「何、もしかしてあいつらもいなくなったのか!」

「は、はい……」

 海花の表情を見て、まだ情報がありそうだと察した担任。

「何か、見たのか?」

「二人と、あと隣のクラスの黒野っていう子だと思うんですけど、校門から出るところを見ました!」

「何だと!?」

「先生、今、何が起きているんですか……?」

 海花は報告義務から解放されたためか、脱力してその場に座り込んでしまった。

「分からない……。でも、助かった。ひとまず、三人が少なくとも校外に出たことは分かった。他の先生方にも伝えて対応するよ」

「お願いします……」

 先の見えない現状に不安を覚えながらも、海花はただひたすらに三人の無事を祈るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ